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第三章 学校生活始めました
25.小さな同級生
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さて今日から学校だ、という朝だったのだが、結局起きたのは九時頃で普通なら完全に遅刻の時間だった。真琴はとっくに植木の世話を終えており、着替えとメイクも万全の態勢で僕が起きてくるのを待っていたらしい。
「お兄ちゃんやっぱり寝坊したね。
そんなんじゃマコのほうが早く魔法少女になっちゃうだろうなー」
「おはよう、僕は魔法少女にはならないけどね……
午前中に行けばいいくらいって聞いてるからのんびり行こうよ。
焦らなくてもちゃんと教えてくれるみたいだしさ」
「でも絶対努力は必要でしょ。
マコは歴史好きじゃないから早く終わらせたいのよね。
昨日はもう眠くなっちゃって大変だったわ」
確かに結構遅い時間まで、歴史について校長が熱弁してくれた。その熱意を見れば僕たちに敬意を払ってくれる理由も十分理解できる。それが照れくさくも不安でもあるのだが、あまり無碍にするのは悪いのかもしれない。
「ライさま、庭の外にロミがやってきました。
おそらくマコさまを探しているのかと」
「あー、マコ行ってくる。
お兄ちゃんも準備しちゃってよ?
準備が出来たら学校行くんだからね、ちゃんと顔も洗う事!」
なんだかんだ言っても真琴は学校へ行きたかったのだろう。母さんが家を出る前は楽しく通ってて友達も大勢いたわけだし。せかされて焦ったわけではないが、とにかく早く着替えようと思った僕は、なぜかわからないが高校の制服に着替えていた。特に考えもなく一番近くの公立へ進んだ僕にとって、中学の制服以来、近年で一番高額の買い物だったことだし着ないのはもったいない。
さすがにネクタイはしなかったが、スラックスとYシャツ、ブレザーを羽織ってから表へ出る。庭では柵越しに真琴とロミが何か話をしている様子が見えた。
「ライト君おはよー、随分とカッコよく決めちゃってるね!
良く似合ってると思うよ」
「おはようございます、ロミさん。
今日も森へ行くんですか?」
「ううん、行くつもりだったけどマコから学校行くって聞いたからさ。
アタシもついていこうかと思ってね、別に構わないかな?」
「はい、初日なので一緒に行ってくれるなら心強いですよ。
真琴もそのほうがいいんだろ? よくお礼言うんだぞ?」
「うんー、それじゃいこっか。
メンマたちは留守番よろしくね」
「かしこまりにゃ。
いってらっしゃいませ、おやつを用意していくにゃ、マーボが」
「相変わらず長毛種は言うことが支離滅裂なのだわ。
ライさま、マコさま、いってらっしゃいませ」
とまあ、朝から慌ただしい出来事もあったけど、ようやく学校へ向けて歩き出した。先頭は真琴とロミ、その後ろに僕とチャーシが続く。行き先は学校と言うこともあってお供はいらないと言ったのだが、それでもチャーシだけはついてくると言って聞かなかった。
村に入ると例によってマイが出迎えてくれた。いつもまるで待ち構えているかのようだが、観光客が来た際すぐに気が付くよう注意を払っているのだろうから気が付いて当然とも言える。
「いよいよ初登校ですね、頑張ってください。
お困りのことがあればいつでも相談に乗りますので―― あっ」
「―― こんちは、元気してる?」
「は、はい、ロミさんもお元気そうで何よりです。
今日はお二人とご一緒に?」
「うん、マーケットで知り合って仲良くなったんだよね。
マイが知り合いだったのちょっと意外だな」
「先祖同士が関係ありまして…… 移住のことで少しだけお手伝いをしたのです。
今日から学校へ通われるのでどうぞよろしくお願いします」
なんだからマイとロミが知り合いであることはすでに知っていたが、その間に微妙な空気が流れているような雰囲気を感じる。マイがなんでロミへよろしくなんて言っていたのかはわからないが、ジュース売りの他に学校の手伝いでもしているのだろうか。
そんなことを気にしてみたものの、学校は観光案内所の斜(はす)向かいなので考える間もなく到着してしまいそれどころではなくなった。こちらでも待ち構えていたのか、副校長のカナエが駆け寄ってきた。
「お二人ともおはようございます、それにロミさんまで一緒に!
思っても見ない組み合わせ、なのねぇ。
それじゃロミさんは自分のクラスへ、ライトさんとマコトさんはこちらへどうぞ」
「あれ? ロミさんのクラスってどういう?
ここでなにか教えてるんですか?」
「あれ? 言ってなかったっけ?
アタシは落ちこぼれだから十九にもなっていまだに卒業できてないのさ。
しかもまだ魔術基礎だしね」
「あ、ああ、そうだったんですね。
でもほぼ毎日マーケットにいるって言ってたじゃないですか。
いくらなんでも授業受けないと卒業は出来ないでしょ?」
「魔術とかあんまり興味ないんだよ。
アタシは今みたいな生活で充分って考えだからさ」
「そっか、そんな自由な生き方もいいかもしれませんね。
僕もなにか目標見つけないとやる気でないかもしれないなぁ。
その点、真琴は目標あるから強いよな」
「ふん! マコはいろんな魔術を覚えたいんだもん。
だから学校にも通いたいし勉強もちゃんとやるんだからね!」
真琴は鼻息荒く心意気を語る。トラスに来てからと言うもの、なんにでも随分と積極的になってくれて嬉しい限りである。それに、そんな真琴の様子を見ていると僕も負けてはいられないとの気持ちが湧いてくるのだ。
さっきのマイとロミの間に流れた微妙な空気は、三歳差と言うことでここに一緒に通っていたはずの生徒時代に何かあったと言うことかもしれない。わざわざ聞くのは失礼だし、気が付いていないふりをしていた方がいいかもな、なんて考えながらカナエ副校長へついて教室へと向かった。
ここは下から三番目、魔術学のクラスだったっけか。予想通り全体的に幼くて真琴よりもまだしただろう。基準では七歳のクラスと言うことになるのだからそれも当たり前で、一回りも二回りも大きい僕たちを物珍しそうに見つめる子ばかりだ。
「はーい皆さん、今日からこの学校で学ぶことになったお二人を紹介します。
お兄さんのライト君、妹さんのマコトさんのご兄妹です。
歳は皆さんよりも大分上ですが、あまり気にしないで仲良くお願いしますね」
「「はーい!」」
子供らしい元気な返事だ。こんなの聞くのいつ振りだろうか。紹介を受けた僕たちは一番後ろに積んである机とイスを適当に並べて座る。教科書は教室の棚に入っているものを適当に使うと言う仕組みで、同じ場所に置いてあるペンで書きこんでもいいらしい。
「上のクラスへ移る時に教科書は返すのよ。
だから必要だと思った個所は自分で写しておくといいの」
「あ、そう、なのね、ありがとう。
マコだよ、よろしくね。
えっと――」
「サクラ、七歳よ。
あなたのお洋服とてもステキね。
お姫様みたい」
真琴はいきなり話しかけられて馴染めそうな雰囲気である。しかしさすがに十六の僕と話をしてくれそうな子はいないだろう。現にさっきから明らかに後ろをちらちらと意識している子がまるわかりで視線が痛い。だがそれはまだ序章に過ぎなかった。
「それでは後でまた来ますから良く読んでおくように。
昨日の続きだから、ええっと、また四ページをやりますからね。
ライト君とマコトさん、何かあったら後で来た時に伺います」
そう言うと、教師のはずのカナエは教室を出て行ってしまった。もしかして最初の授業がいきなり次週とは想定外だった。しかしそれは自習とは名ばかりの自由時間始まりの合図だったのだ。
「ねえライトさん、ずいぶん大きいけどなんさいですか?
大人みたいなのに魔術つかえないの?」
「マコトちゃん、このドレスはどこで買ったの?
私もほしー!」
「ライト君は恋人いますか? 年下ってどう思います?」
「ねえねえ二人ともどこに住んでるの?
いつもどこで遊んでるの?」
こんな風に質問責めになり、初日はとてもとても自習どころではなかった。
「お兄ちゃんやっぱり寝坊したね。
そんなんじゃマコのほうが早く魔法少女になっちゃうだろうなー」
「おはよう、僕は魔法少女にはならないけどね……
午前中に行けばいいくらいって聞いてるからのんびり行こうよ。
焦らなくてもちゃんと教えてくれるみたいだしさ」
「でも絶対努力は必要でしょ。
マコは歴史好きじゃないから早く終わらせたいのよね。
昨日はもう眠くなっちゃって大変だったわ」
確かに結構遅い時間まで、歴史について校長が熱弁してくれた。その熱意を見れば僕たちに敬意を払ってくれる理由も十分理解できる。それが照れくさくも不安でもあるのだが、あまり無碍にするのは悪いのかもしれない。
「ライさま、庭の外にロミがやってきました。
おそらくマコさまを探しているのかと」
「あー、マコ行ってくる。
お兄ちゃんも準備しちゃってよ?
準備が出来たら学校行くんだからね、ちゃんと顔も洗う事!」
なんだかんだ言っても真琴は学校へ行きたかったのだろう。母さんが家を出る前は楽しく通ってて友達も大勢いたわけだし。せかされて焦ったわけではないが、とにかく早く着替えようと思った僕は、なぜかわからないが高校の制服に着替えていた。特に考えもなく一番近くの公立へ進んだ僕にとって、中学の制服以来、近年で一番高額の買い物だったことだし着ないのはもったいない。
さすがにネクタイはしなかったが、スラックスとYシャツ、ブレザーを羽織ってから表へ出る。庭では柵越しに真琴とロミが何か話をしている様子が見えた。
「ライト君おはよー、随分とカッコよく決めちゃってるね!
良く似合ってると思うよ」
「おはようございます、ロミさん。
今日も森へ行くんですか?」
「ううん、行くつもりだったけどマコから学校行くって聞いたからさ。
アタシもついていこうかと思ってね、別に構わないかな?」
「はい、初日なので一緒に行ってくれるなら心強いですよ。
真琴もそのほうがいいんだろ? よくお礼言うんだぞ?」
「うんー、それじゃいこっか。
メンマたちは留守番よろしくね」
「かしこまりにゃ。
いってらっしゃいませ、おやつを用意していくにゃ、マーボが」
「相変わらず長毛種は言うことが支離滅裂なのだわ。
ライさま、マコさま、いってらっしゃいませ」
とまあ、朝から慌ただしい出来事もあったけど、ようやく学校へ向けて歩き出した。先頭は真琴とロミ、その後ろに僕とチャーシが続く。行き先は学校と言うこともあってお供はいらないと言ったのだが、それでもチャーシだけはついてくると言って聞かなかった。
村に入ると例によってマイが出迎えてくれた。いつもまるで待ち構えているかのようだが、観光客が来た際すぐに気が付くよう注意を払っているのだろうから気が付いて当然とも言える。
「いよいよ初登校ですね、頑張ってください。
お困りのことがあればいつでも相談に乗りますので―― あっ」
「―― こんちは、元気してる?」
「は、はい、ロミさんもお元気そうで何よりです。
今日はお二人とご一緒に?」
「うん、マーケットで知り合って仲良くなったんだよね。
マイが知り合いだったのちょっと意外だな」
「先祖同士が関係ありまして…… 移住のことで少しだけお手伝いをしたのです。
今日から学校へ通われるのでどうぞよろしくお願いします」
なんだからマイとロミが知り合いであることはすでに知っていたが、その間に微妙な空気が流れているような雰囲気を感じる。マイがなんでロミへよろしくなんて言っていたのかはわからないが、ジュース売りの他に学校の手伝いでもしているのだろうか。
そんなことを気にしてみたものの、学校は観光案内所の斜(はす)向かいなので考える間もなく到着してしまいそれどころではなくなった。こちらでも待ち構えていたのか、副校長のカナエが駆け寄ってきた。
「お二人ともおはようございます、それにロミさんまで一緒に!
思っても見ない組み合わせ、なのねぇ。
それじゃロミさんは自分のクラスへ、ライトさんとマコトさんはこちらへどうぞ」
「あれ? ロミさんのクラスってどういう?
ここでなにか教えてるんですか?」
「あれ? 言ってなかったっけ?
アタシは落ちこぼれだから十九にもなっていまだに卒業できてないのさ。
しかもまだ魔術基礎だしね」
「あ、ああ、そうだったんですね。
でもほぼ毎日マーケットにいるって言ってたじゃないですか。
いくらなんでも授業受けないと卒業は出来ないでしょ?」
「魔術とかあんまり興味ないんだよ。
アタシは今みたいな生活で充分って考えだからさ」
「そっか、そんな自由な生き方もいいかもしれませんね。
僕もなにか目標見つけないとやる気でないかもしれないなぁ。
その点、真琴は目標あるから強いよな」
「ふん! マコはいろんな魔術を覚えたいんだもん。
だから学校にも通いたいし勉強もちゃんとやるんだからね!」
真琴は鼻息荒く心意気を語る。トラスに来てからと言うもの、なんにでも随分と積極的になってくれて嬉しい限りである。それに、そんな真琴の様子を見ていると僕も負けてはいられないとの気持ちが湧いてくるのだ。
さっきのマイとロミの間に流れた微妙な空気は、三歳差と言うことでここに一緒に通っていたはずの生徒時代に何かあったと言うことかもしれない。わざわざ聞くのは失礼だし、気が付いていないふりをしていた方がいいかもな、なんて考えながらカナエ副校長へついて教室へと向かった。
ここは下から三番目、魔術学のクラスだったっけか。予想通り全体的に幼くて真琴よりもまだしただろう。基準では七歳のクラスと言うことになるのだからそれも当たり前で、一回りも二回りも大きい僕たちを物珍しそうに見つめる子ばかりだ。
「はーい皆さん、今日からこの学校で学ぶことになったお二人を紹介します。
お兄さんのライト君、妹さんのマコトさんのご兄妹です。
歳は皆さんよりも大分上ですが、あまり気にしないで仲良くお願いしますね」
「「はーい!」」
子供らしい元気な返事だ。こんなの聞くのいつ振りだろうか。紹介を受けた僕たちは一番後ろに積んである机とイスを適当に並べて座る。教科書は教室の棚に入っているものを適当に使うと言う仕組みで、同じ場所に置いてあるペンで書きこんでもいいらしい。
「上のクラスへ移る時に教科書は返すのよ。
だから必要だと思った個所は自分で写しておくといいの」
「あ、そう、なのね、ありがとう。
マコだよ、よろしくね。
えっと――」
「サクラ、七歳よ。
あなたのお洋服とてもステキね。
お姫様みたい」
真琴はいきなり話しかけられて馴染めそうな雰囲気である。しかしさすがに十六の僕と話をしてくれそうな子はいないだろう。現にさっきから明らかに後ろをちらちらと意識している子がまるわかりで視線が痛い。だがそれはまだ序章に過ぎなかった。
「それでは後でまた来ますから良く読んでおくように。
昨日の続きだから、ええっと、また四ページをやりますからね。
ライト君とマコトさん、何かあったら後で来た時に伺います」
そう言うと、教師のはずのカナエは教室を出て行ってしまった。もしかして最初の授業がいきなり次週とは想定外だった。しかしそれは自習とは名ばかりの自由時間始まりの合図だったのだ。
「ねえライトさん、ずいぶん大きいけどなんさいですか?
大人みたいなのに魔術つかえないの?」
「マコトちゃん、このドレスはどこで買ったの?
私もほしー!」
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