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第三章 学校生活始めました
24.嬉し恥ずかし新入生
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マイの計らいで校長達は僕たちの扱いについて十分理解してくれたと聞かされ、ひとまずは公民館で会う約束をした。とは言ってもそんな大層なものではなく、他の生徒と同じように扱ってくれればいいだけではあるのだが。
「校長、副校長にわかっていただきたいのは、僕たちが特別な存在ではないと言うことです。
ごく普通、いやそれよりも世間を知らないただの子供だという認識を持ってください」
「はい、それは重々承知しております。
ですので学校内では他の生徒と同じ態度で臨むことをお約束します」
「ものすごく不安を感じるんですが心配し過ぎでしょうか……
真琴はどう思う?」
「うーん、マコはどっちでもいいや。
馴染めなかったら通うの諦めてお花育てて暮らすよ。
魔法少女になれないのは残念だけどね……」
「いえいえ真琴様、ご心配なさらずに。
このマサタカ、必ずやご満足いただけるよう忠義を尽くしますぞ?
もちろん妻のカナエも同じ気持ちであると誓いましょう」
「だからそんな対応されたら学校へは顔出せなくなるんですよ。
その辺のとこわかってくれてないですよね?
マイさんだってもう僕にさまなんて敬称つけないんですよ?
校長達にもやってもらわないと困ります!」
完全に無茶ぶりだったがそう言い放ってからマイを見ると、手を細かく振りながら困っている様子だった。やっぱり急には無理なのかもしれないが、勢いで乗り切れることもある。僕はマイへ向かってこいこいと手招きのゼスチャーをした。
「そ、そうですよ、校長先生?
私はもうすっかり慣れましたから、ねえ? 雷人、くん」
「おお流石です、マイ様は遠縁者ですからな。
私たちなどとは元が違うのです」
「そう言えばマイさんが通っていたときはどうしていたんですか?
家族、親族含めて今みたいな感じで?」
「もちろんです。他の子らもマイ様のことは重々承知しておりますから。
ですので雷人様、真琴様も今のまま通っていただいても問題ないのですが……」
「でもやっぱり周囲との扱いの差みたいなのってあったんじゃないですか?
校長達はそう思って無くてもマイさんは距離を取られてたと感じてたとか」
「そうでもありませんでしたよ?
先日もお話しましたが、村最初期の一族以外は小村家をそれほど意識していません。
子供たちも同じで結局は子供同士仲良く過ごしておりました。
ただ――」
「ただ?」
「流石にこの年齢まで来ると、今まで同様の付き合いとは行かなくなる人も居りますけどね。
距離を取られてしまうと言うか、分別がつくようになると言うか……
まあ大人って子供ほど自由ではいられないってことですね」
「ちなみに成人年齢とかって決まってます?
マイさんは十六で大人って言ってるから僕も大人ってことになるのか気になっていて」
「年齢で言えは二十から大人ですが、それ以前でも働いていれば大人扱いですね。
逆に二十を超えていても定職につかず遊んでいると、子ども扱いされ恥ずかしい思いをします」
「なるほど…… それは注意しないといけないな……
ちゃんと定職につかないといけないのか」
「雷人様はいずれ領主様になればよいのですからご心配には及びません。
村長もその時をお待ちしていると言っておりました」
結局そこへ話が向かってしまうのか…… でもとりあえず学校へ通ってみれば取り越し苦労で終わりそうな雰囲気もあるし、真琴の教育のためにも早めに決めなければいけない。
「わかりました、明日から通うことにします。
本当に何も持たず手ぶらで行けばいいんですか?
筆記用具とか必要なものはありますよね?」
「全部学校にあるので大丈夫ですよ。
持って帰るものがある場合はカバンもあるので本当になにも必要ありません」
「ホント至れり尽くせりですね。
僕たちの扱いについてはもうお任せします。
最終的には生徒同士でなんとかすれば良さそうだし。
わかったな真琴、明日から学校へ通うぞ!」
「うん、お兄ちゃん最近ずっと寝坊助だけど朝起きられるの?
マコはお花に水あげてるから早起きしてるけどさー」
痛いところを突かれたが、時間も日数も自由登校だと聞いているので幾分気は楽である。場所だって電車に乗る必要もなく歩いて十五分程度と近い。うじうじしていつまでも引きこもっているよりもまずは行動する、そう誓った、ような気がする。
「それでは簡単なテスト、というと構えてしまうかもしれませんね。
学力を確認させていただきましょう。
最初のクラスは本当に幼児しかいませんので、そこから開始と言うわけにも行きませんでしょう?」
確かに五歳時と一緒に授業を受けるのは抵抗がある。しかし読み書きが出来ないのでは仕方がないような気もするのだが…… ん? まてよ? 観光案内所で見せてもらった名前の本、あれは全部現地語だったのに普通に読めていた。何も言っていなかったがドーンがちゃんとできるようにしておいてくれた可能性がある。と言うことは書く方も期待できるかもしれない。
こうして僕と真琴は簡単なテストを受けたのだが、言語と計算は満点だった。歴史は僕が二割程度、真琴は当然のように零点だ。その他は魔術関連の設問だったので二人ともさっぱりわからず、爺ちゃんの手記を少し眺めていた僕は辛うじて一問だけ当たっていた。
「予想よりもはるかに優秀ですな。
言語も計算も満点なのでお二人とも魔術学のクラスから始めましょう。
と言っても座学だけなのですぐに習得されるでしょう。
そうしたら次は歴史、魔術基礎と進むことになります」
「歴史を意外に重要視するんですね。
やっぱり悲惨な歴史を繰り返さないようにって教訓ですかね」
「それもありますが、魔術が学問になった経緯を知ると理解が深まるのです。
約八百年前までは魔法と呼ばれていた種族固有の特殊技能でした。
それを魔力を持つ者であれば学んで使用できるようにするのが魔術です。
お二人ともすでに察しているでしょうが、魔術を確立されたのがダイキ様なのです」
「えっ!? 爺ちゃん凄すぎじゃないですかね?
そんな特殊な人間ではなく、どこにでもいる普通のラーメン屋だったんですけどねぇ。
一体何がおきてそうなったんだろうか」
「その根底については一切記されておりません。
突然の閃きなのか、なんらか隠す必要があることなのか……
どちらにせよ今はその恩恵を受けることが出来ると言うことでありがたいことです」
こうして歴史に関する話を長々と聞かされた結果、恐らく歴史の単元はすぐに習得できるだろうと言われてしまった。そんな数十分で覚えきれる量のはずはないはずなので、校長の言ったことは明らかによいしょだろう。
こうして五歳児と同クラスは回避されたのだが、結局七歳児のクラスになりあまり変わらない気もしている。しかし僕と真琴が、ほんの少しの大きな一歩を踏み出したのは間違いなかった。
ようやく解放され家に帰りつくと、メンマとナルが出迎えてくれたのだが何やら様子がおかしい。ナルは首を傾げながら僕に聞きたいことがあると言った。
「ライさま? ハンチャは地下で何の罰を受けているか聞かせてほしいのだわ。
ライさまのご命令だと言って押しても引いても一歩も動かないのだわ」
「あ…… すっかり忘れてたけど、ビンのラベルを剥がしてもらってたんだ。
まさかまだ終わってないとは思って無かったなぁ。
ちょっと見てくるから真琴たちは先に行っててもいいよ」
慌てて地下倉庫へ向かうと、部屋の隅のほうで指をカリカリしながらラベルを剥がし続けているハンチャがそこにいた。確かに頼んだのは僕だけど、こんなに時間がかかるとも、終わるまでやりつづけるとも思っていなかった。
「ハンチャごめんよ、適当に休憩しながらやると思ってたんだ。
まだだいぶ残ってるみたいだけどさ、これからは時間のある時に一日三本くらいでいいから……」
「かしこまりました、ライさま。
我々は命じられますと、終わるまで同じことをやりつづけてしまいます。
かといって索敵や結界に抜かりはありませんのでご安心を」
「ホントごめんね、次は注意してお願いするからね」
ラベルをきれいに剥がし、布で磨きあげられたビール瓶が何本もケースへ戻されていて仕事の丁寧さがよくわかる。これなら売り物になるかもしれない。
僕は気分が良くなり軽やかな足取りで自分の部屋へ向かった。
「校長、副校長にわかっていただきたいのは、僕たちが特別な存在ではないと言うことです。
ごく普通、いやそれよりも世間を知らないただの子供だという認識を持ってください」
「はい、それは重々承知しております。
ですので学校内では他の生徒と同じ態度で臨むことをお約束します」
「ものすごく不安を感じるんですが心配し過ぎでしょうか……
真琴はどう思う?」
「うーん、マコはどっちでもいいや。
馴染めなかったら通うの諦めてお花育てて暮らすよ。
魔法少女になれないのは残念だけどね……」
「いえいえ真琴様、ご心配なさらずに。
このマサタカ、必ずやご満足いただけるよう忠義を尽くしますぞ?
もちろん妻のカナエも同じ気持ちであると誓いましょう」
「だからそんな対応されたら学校へは顔出せなくなるんですよ。
その辺のとこわかってくれてないですよね?
マイさんだってもう僕にさまなんて敬称つけないんですよ?
校長達にもやってもらわないと困ります!」
完全に無茶ぶりだったがそう言い放ってからマイを見ると、手を細かく振りながら困っている様子だった。やっぱり急には無理なのかもしれないが、勢いで乗り切れることもある。僕はマイへ向かってこいこいと手招きのゼスチャーをした。
「そ、そうですよ、校長先生?
私はもうすっかり慣れましたから、ねえ? 雷人、くん」
「おお流石です、マイ様は遠縁者ですからな。
私たちなどとは元が違うのです」
「そう言えばマイさんが通っていたときはどうしていたんですか?
家族、親族含めて今みたいな感じで?」
「もちろんです。他の子らもマイ様のことは重々承知しておりますから。
ですので雷人様、真琴様も今のまま通っていただいても問題ないのですが……」
「でもやっぱり周囲との扱いの差みたいなのってあったんじゃないですか?
校長達はそう思って無くてもマイさんは距離を取られてたと感じてたとか」
「そうでもありませんでしたよ?
先日もお話しましたが、村最初期の一族以外は小村家をそれほど意識していません。
子供たちも同じで結局は子供同士仲良く過ごしておりました。
ただ――」
「ただ?」
「流石にこの年齢まで来ると、今まで同様の付き合いとは行かなくなる人も居りますけどね。
距離を取られてしまうと言うか、分別がつくようになると言うか……
まあ大人って子供ほど自由ではいられないってことですね」
「ちなみに成人年齢とかって決まってます?
マイさんは十六で大人って言ってるから僕も大人ってことになるのか気になっていて」
「年齢で言えは二十から大人ですが、それ以前でも働いていれば大人扱いですね。
逆に二十を超えていても定職につかず遊んでいると、子ども扱いされ恥ずかしい思いをします」
「なるほど…… それは注意しないといけないな……
ちゃんと定職につかないといけないのか」
「雷人様はいずれ領主様になればよいのですからご心配には及びません。
村長もその時をお待ちしていると言っておりました」
結局そこへ話が向かってしまうのか…… でもとりあえず学校へ通ってみれば取り越し苦労で終わりそうな雰囲気もあるし、真琴の教育のためにも早めに決めなければいけない。
「わかりました、明日から通うことにします。
本当に何も持たず手ぶらで行けばいいんですか?
筆記用具とか必要なものはありますよね?」
「全部学校にあるので大丈夫ですよ。
持って帰るものがある場合はカバンもあるので本当になにも必要ありません」
「ホント至れり尽くせりですね。
僕たちの扱いについてはもうお任せします。
最終的には生徒同士でなんとかすれば良さそうだし。
わかったな真琴、明日から学校へ通うぞ!」
「うん、お兄ちゃん最近ずっと寝坊助だけど朝起きられるの?
マコはお花に水あげてるから早起きしてるけどさー」
痛いところを突かれたが、時間も日数も自由登校だと聞いているので幾分気は楽である。場所だって電車に乗る必要もなく歩いて十五分程度と近い。うじうじしていつまでも引きこもっているよりもまずは行動する、そう誓った、ような気がする。
「それでは簡単なテスト、というと構えてしまうかもしれませんね。
学力を確認させていただきましょう。
最初のクラスは本当に幼児しかいませんので、そこから開始と言うわけにも行きませんでしょう?」
確かに五歳時と一緒に授業を受けるのは抵抗がある。しかし読み書きが出来ないのでは仕方がないような気もするのだが…… ん? まてよ? 観光案内所で見せてもらった名前の本、あれは全部現地語だったのに普通に読めていた。何も言っていなかったがドーンがちゃんとできるようにしておいてくれた可能性がある。と言うことは書く方も期待できるかもしれない。
こうして僕と真琴は簡単なテストを受けたのだが、言語と計算は満点だった。歴史は僕が二割程度、真琴は当然のように零点だ。その他は魔術関連の設問だったので二人ともさっぱりわからず、爺ちゃんの手記を少し眺めていた僕は辛うじて一問だけ当たっていた。
「予想よりもはるかに優秀ですな。
言語も計算も満点なのでお二人とも魔術学のクラスから始めましょう。
と言っても座学だけなのですぐに習得されるでしょう。
そうしたら次は歴史、魔術基礎と進むことになります」
「歴史を意外に重要視するんですね。
やっぱり悲惨な歴史を繰り返さないようにって教訓ですかね」
「それもありますが、魔術が学問になった経緯を知ると理解が深まるのです。
約八百年前までは魔法と呼ばれていた種族固有の特殊技能でした。
それを魔力を持つ者であれば学んで使用できるようにするのが魔術です。
お二人ともすでに察しているでしょうが、魔術を確立されたのがダイキ様なのです」
「えっ!? 爺ちゃん凄すぎじゃないですかね?
そんな特殊な人間ではなく、どこにでもいる普通のラーメン屋だったんですけどねぇ。
一体何がおきてそうなったんだろうか」
「その根底については一切記されておりません。
突然の閃きなのか、なんらか隠す必要があることなのか……
どちらにせよ今はその恩恵を受けることが出来ると言うことでありがたいことです」
こうして歴史に関する話を長々と聞かされた結果、恐らく歴史の単元はすぐに習得できるだろうと言われてしまった。そんな数十分で覚えきれる量のはずはないはずなので、校長の言ったことは明らかによいしょだろう。
こうして五歳児と同クラスは回避されたのだが、結局七歳児のクラスになりあまり変わらない気もしている。しかし僕と真琴が、ほんの少しの大きな一歩を踏み出したのは間違いなかった。
ようやく解放され家に帰りつくと、メンマとナルが出迎えてくれたのだが何やら様子がおかしい。ナルは首を傾げながら僕に聞きたいことがあると言った。
「ライさま? ハンチャは地下で何の罰を受けているか聞かせてほしいのだわ。
ライさまのご命令だと言って押しても引いても一歩も動かないのだわ」
「あ…… すっかり忘れてたけど、ビンのラベルを剥がしてもらってたんだ。
まさかまだ終わってないとは思って無かったなぁ。
ちょっと見てくるから真琴たちは先に行っててもいいよ」
慌てて地下倉庫へ向かうと、部屋の隅のほうで指をカリカリしながらラベルを剥がし続けているハンチャがそこにいた。確かに頼んだのは僕だけど、こんなに時間がかかるとも、終わるまでやりつづけるとも思っていなかった。
「ハンチャごめんよ、適当に休憩しながらやると思ってたんだ。
まだだいぶ残ってるみたいだけどさ、これからは時間のある時に一日三本くらいでいいから……」
「かしこまりました、ライさま。
我々は命じられますと、終わるまで同じことをやりつづけてしまいます。
かといって索敵や結界に抜かりはありませんのでご安心を」
「ホントごめんね、次は注意してお願いするからね」
ラベルをきれいに剥がし、布で磨きあげられたビール瓶が何本もケースへ戻されていて仕事の丁寧さがよくわかる。これなら売り物になるかもしれない。
僕は気分が良くなり軽やかな足取りで自分の部屋へ向かった。
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