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19 愛人を探しにいきます
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「あれ?ディーまた、残ってるの?」
同僚で治療士のレインが話しかけてきた。こいつも良く残業している。金色の耳にかかる位の髪に、丸顔で碧眼。背も高くないことから、中世的な容姿をしている。男女問わず天使のようだと言われ、モテている。騎士団に入団した頃の寮生活時代に仲良くなり、今ではすっかり親友だ。
「ああ、事務作業は昼間できないからな」
言い訳だった。
「ふーん。本当は家に帰りたくないんじゃないの?」
レインは幼く見える容姿とは裏腹に、観察眼が優れている。
「そういう訳じゃ……」
「新婚だって言うのに……。奥さん可哀想じゃない」
「アーシュも仕事で忙しいから、お互い様だよ」
「そうなんだ。じゃあ、なんで結婚したの?もしかして、女性よけのために結婚したの?」
「違う!そうじゃない。アーシュのことは本当に大好きだし、愛してるんだ」
「ふっ。ごちそうさま。それで?それなのに、なんで帰れないの?」
「母親に孫を急かされてる……」
「あー……、なるほどね。ディーには辛いよね」
「……」
レインは全てお見通しだった。
「まだ、忘れられないよね。あの事、奥さんには言わないの?」
私はアーシュに言えないことがある。カッとなり「言えるわけないだろ! 」と声を荒げてしまった。
「すまない……。アーシュにはいつかは言わなきゃいけないかもしれないけど。でも、今の関係が壊れたらって思うと……。それに、女性とそういうことすることに嫌悪感しかない……。無理なんだ……」
アーシュにもとうとう「女性を愛せない」と言ってしまった。彼女はどう思っただろうか……。
「じゃあ、僕となら?」
レインが顔を近づけてそう言った。
「えっ?」
綺麗で大きな瞳はなんだか熱がこもっているように感じた。
「ははは。ジョーダンだよ!そこは笑ってくれなきゃ」とレインが顔をくしゃっとさせて笑った。
「おい、いい加減にしろよ」
少し驚いたが、レイン並みに和ませてくれたのだろう。
「こんなこと、レインにしか話せないな。あの時、助けてくれたのはお前だもんな。本当に感謝してる」
「そんなことないよ。もっと早く気づければ良かった……」
少し伏し目がちになり、きれいな碧眼に影を落とした。
「いや、レインのおかげで未遂で済んだんだ……。そうじゃなかったら……。こんなに鍛えてたって、これだもんな。本当に嫌になるよ。自分一人だって守れないんだ。これじゃあ、大事な人だって守れないよ」
「だから、そんなに過酷なメニューこなして夜事務作業してるんだ……。奥さんのこと守りたいの?」
「うん。アーシュのことも、市民も、弱い立場の人を守りたい。と約束したから……」
幼いあの日、アーシュのお祖父さんと約束したから……。
「そっか!じゃあ、頑張らないとね!俺も傷だらけのディーを治してやるよ!」
レインは俺の肩にポンと手を乗せた。
「ああ、ありがとう。頼りにしてる、親友」
私はレインに微笑んだ。
「まかせとけ!」
レインは顔を傾けて、ニコッと子供のような笑顔を見せた。
◇◇◇
「どお?覚悟は決まった?」
「うん……。やるしかないわ!なんたって、あと一年しか猶予がないんだから」
イヴェッタが溜息をついた。
「それもひどい話よね。結婚を急がしたのはお義母様なんでしょう?それで子供が出来ないなら離婚しろって……」
「……そうね。でも、もともと格差のある結婚だったから、約束を守れないなら仕方ないのかもしれない。お義母様は家を守りたいだけなのよ……」
イヴェッタがジッと私の顔を見つめて、また小さくため息をついた。
「アーシュがいいなら、私はあなたのやることに協力するわ。あ、もし離婚することになったら、お兄様と結婚するのはどう?あの人、仕事ばかりしていて全く結婚する気がなくて困ってるのよ」
「な!何を言っているの、イヴェッタ!それはバーデン様に失礼よ!魔法省のエリートと私なんて……。どう考えてもおかしいわ」
イヴェッタは頬に手を当てて、「お似合いだと思うけど」と首を傾げた。
いやいやいや、絶対おかしい!!第一、バーデン様だって初婚で離婚歴のある貧乏男爵令嬢なんて、嫌に決まってる!!
「ところで、ディートハルトには代理父親を承諾するサインはもらったの?」
「まだよ。相手の目星がついたら、サインしてもらうつもり。でも、私に任せるって言ってくれたから、大丈夫だと思う。ディートハルトにしてみたら、結婚しておいた方が楽みたいだから。きっと、女性嫌いで男性が好きなんて、あのお義母様には言えないでしょうし、理解してもらうのも難しいわ」
「……そうね。お義母様、厳しそうだもんね。でも、アーシュはそれで本当に幸せなの?」
「幸せかどうかは、わからない……。でも、あと一年はあがいてみようと思うの。それで無理だったら、ディートハルトには悪いけど潔く伯爵家を去ろうと思うわ」
私のディートハルトに対する恋心も、あと一年だけ猶予をもらえる。私のこの気持ちも、この一年で片づけなければいけない。
「まぁ、離婚になったらどこかの町にアーシュの魔道具屋でも開こうかな!」
「え!何それ!すごい楽しそう!」
イヴェッタが前のめりで言ってきた。
「ね!楽しそうよね!そうなったら、遊びに来てよ」
「うん!もちろん、行くわ!」
私達は満面の笑みで微笑みあった。
ガタガタと揺れていた馬車が止まった。どうやら、目的地に着いたようだ。
今日はイヴェッタの紹介で夜会に参加させてもらうことになった。イヴェッタの家とは昔から懇意にしている伯爵家なので、参加する人もそれなりの身分だから、安心だろうとイヴェッタが誘ってくれた。
私一人じゃ、夜会なんて縁がないし、ディートハルトも夜会嫌いだからほとんど断ってるみたいだし。
ディートハルトは結婚してもモテるから、きっと女性に追いかけ回されるのが嫌なのね。しかも、女性が嫌いじゃ余計よね……。
「さぁ、アーシュ行くわよ!」
イヴェッタが先に立ち上がり、こちらを見た。
「ええ!もちろん!」
私は右手を力強く握り、闘志をあらわにした。
イヴェッタは家の付き合いで、あいさつ回りをしている。
ディートハルトには仕事で遅くなると伝えてある。正直に話そうか悩んだが、ディートハルトの性格を考えると気にしそうだから、全て決まってから報告しようと思っている。
私は扇子で顔を隠しながら、周りを見渡している。
金髪で翡翠の瞳……で、背は高く美しい男性……。
そんな人……、いるのかしら……?
かれこれ1時間以上、会場をウロウロして男性を物色するが出会えなかった。
金髪の人はいるが瞳は違う色だったり、翡翠の瞳だけど髪は違う色とか……。
それに、ディートハルトのあの美しい容姿って、なかなかいないじゃない!!だから、女性達が毎回大騒ぎして追いかけ回すのよね!!
でもこの際、顔面偏差値は下げても、髪の毛と瞳の色は合わせないと!!義母にバレてしまう……。
その時、会場の端にいる男性陣の中に、今入ってきた人がいた。
こんな時間に来るなんて、よっぽど参加したかったのね……。
その貴族男性を見ると、金髪……。瞳は……、流石に離れすぎていてみえなかった。
私はコソコソと近づき、彼の瞳の色をそっと覗いた。
翡翠...! えっ、うそ!いた!!本当にいたわ!!
顔立ちはディートハルト程じゃなくても、爽やかな青年だった。年齢は20歳前後かしら、少し幼さが残る感じね。背はディートハルトよりは低いけど、私よりは高いから大丈夫そう。下品な感じもしないし、身なりもきちんとしてる!
この人だわ!!私は自分の瞳がランランと輝いてるのを感じた。
私の視線を感じたのか、その彼と目が合ってしまった……。彼は瞳を大きく見開いていた。
しまった!興奮のあまり、すごい凝視してしまった……。気持ちの悪い女だと思われたかしら。
私は思わず彼に背を向けて、気まずさをごまかした。
せっかくのチャンスを棒に振ってしまったかもしれない。うう……、ここにきて恋愛経験のなさが仇となってしまった……。
後悔に震えていると、後ろから声を掛けられた。
「レディ?」
振り向くと、そこには先ほどのディートハルトに似た容姿の青年が立っていた。
「あ……」
私は間抜けな声を出してしまった。
顔を隠すのを忘れてしまい、慌てて扇子を上げた。
「レディ、もう遅いですよ。あなたの美しいお顔を拝見してしまいました」
彼はそう言って手を差し出してきた。
(これは手を乗せればいいのよね)
彼の手に遠慮がちに手を乗せた。
そのまま手袋ごしにキスをされる。そして、上目使いで見られた。
なんだか、その目線にいたためれなくなるが、まだ手を放してもらえなかった。
「レディ、もしよろしかったら少しお話をしませんか?」
「ええ……、ぜひ……」
握られた手はそのままエスコートという形になった。
ディートハルト意外と触れ合うなんていつ振りかしら。むしろそんな機会あったかしら……?
夜会や舞踏会に参加しても、ディートハルトの女除けとして彼を守っていたから、あまり他の男性と二人きりになる機会がなかったのだ。
もちろんダンスも……。まぁ、あまり得意じゃないから、誘われなくて良かったけどね。
会場の外にバルコニーがあり、そこのベンチに腰を下ろした。
彼はウイルと言って21歳の伯爵家の次男だった。今は親の元で領地経営を学んでいるんだとか。
王宮勤めじゃなくてよかった……と少しほっとした。私は偽名を使った。よからぬ噂を立てられたくはないから。
「あの……、ウイル様は……、ご結婚はされていますの?」
「いや、まだなんだ」
良かった、独身なんだ。出来れば独身男性の方が良かった。いくら契約と言っても、奥さんがいる人に頼むのは気が引けたからだ。
「では、ご婚約者様は……?」
彼は首をかしげて、微笑んできた。うぶな青年だと思っていたが、私よりも男女の駆け引きには慣れているようだ。
そしてそっと彼の顔が近づいてきて、「ここでは話せません……」と耳元でささやかれた。
息がかかりそうな距離に、思わず顔が熱くなった。なんだか、すごくはずかしい!
確かにバルコニーじゃ、だれが聞いてるかわからないし、個人情報は話せないのかもしれない。
婚約者がいればその人にも迷惑をかけてしまうかもしれない。ちゃんと聞いたうえで、決めないと……。
私も小声で彼に話しかけた。
「ど、どちらでしたらお話できますか?」
彼は目を細めて、唇はきれいな弧を描いた。
さわやかな青年は男の色香を放ち、妖艶さをかもし出した。
「では、もっとゆっくり話せる所に行きましょう。静かな所で……」
「はい……」
ここの夜会の常連なのね。建物の事をちゃんと理解している。
私は彼に促されるまま、その場所に行くことにした。
夜会会場とは離れた場所で、本当に静かな廊下を二人で進む。
そして、おもむろに彼の歩みが止まった。
「では、レディ。入りましょうか……」
大丈夫、心配いらないですよと言わんばかりの笑顔を見せてきた。
私は「はい……」と返事をし、彼がドアを開けたその時……。
誰かに腰をグイっと引かれた。
あまりの勢いにその人に、もたれかかってしまった。
すごく大きな体の人で、見上げると宝石のような美しい翡翠の瞳に出会った。
同僚で治療士のレインが話しかけてきた。こいつも良く残業している。金色の耳にかかる位の髪に、丸顔で碧眼。背も高くないことから、中世的な容姿をしている。男女問わず天使のようだと言われ、モテている。騎士団に入団した頃の寮生活時代に仲良くなり、今ではすっかり親友だ。
「ああ、事務作業は昼間できないからな」
言い訳だった。
「ふーん。本当は家に帰りたくないんじゃないの?」
レインは幼く見える容姿とは裏腹に、観察眼が優れている。
「そういう訳じゃ……」
「新婚だって言うのに……。奥さん可哀想じゃない」
「アーシュも仕事で忙しいから、お互い様だよ」
「そうなんだ。じゃあ、なんで結婚したの?もしかして、女性よけのために結婚したの?」
「違う!そうじゃない。アーシュのことは本当に大好きだし、愛してるんだ」
「ふっ。ごちそうさま。それで?それなのに、なんで帰れないの?」
「母親に孫を急かされてる……」
「あー……、なるほどね。ディーには辛いよね」
「……」
レインは全てお見通しだった。
「まだ、忘れられないよね。あの事、奥さんには言わないの?」
私はアーシュに言えないことがある。カッとなり「言えるわけないだろ! 」と声を荒げてしまった。
「すまない……。アーシュにはいつかは言わなきゃいけないかもしれないけど。でも、今の関係が壊れたらって思うと……。それに、女性とそういうことすることに嫌悪感しかない……。無理なんだ……」
アーシュにもとうとう「女性を愛せない」と言ってしまった。彼女はどう思っただろうか……。
「じゃあ、僕となら?」
レインが顔を近づけてそう言った。
「えっ?」
綺麗で大きな瞳はなんだか熱がこもっているように感じた。
「ははは。ジョーダンだよ!そこは笑ってくれなきゃ」とレインが顔をくしゃっとさせて笑った。
「おい、いい加減にしろよ」
少し驚いたが、レイン並みに和ませてくれたのだろう。
「こんなこと、レインにしか話せないな。あの時、助けてくれたのはお前だもんな。本当に感謝してる」
「そんなことないよ。もっと早く気づければ良かった……」
少し伏し目がちになり、きれいな碧眼に影を落とした。
「いや、レインのおかげで未遂で済んだんだ……。そうじゃなかったら……。こんなに鍛えてたって、これだもんな。本当に嫌になるよ。自分一人だって守れないんだ。これじゃあ、大事な人だって守れないよ」
「だから、そんなに過酷なメニューこなして夜事務作業してるんだ……。奥さんのこと守りたいの?」
「うん。アーシュのことも、市民も、弱い立場の人を守りたい。と約束したから……」
幼いあの日、アーシュのお祖父さんと約束したから……。
「そっか!じゃあ、頑張らないとね!俺も傷だらけのディーを治してやるよ!」
レインは俺の肩にポンと手を乗せた。
「ああ、ありがとう。頼りにしてる、親友」
私はレインに微笑んだ。
「まかせとけ!」
レインは顔を傾けて、ニコッと子供のような笑顔を見せた。
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「どお?覚悟は決まった?」
「うん……。やるしかないわ!なんたって、あと一年しか猶予がないんだから」
イヴェッタが溜息をついた。
「それもひどい話よね。結婚を急がしたのはお義母様なんでしょう?それで子供が出来ないなら離婚しろって……」
「……そうね。でも、もともと格差のある結婚だったから、約束を守れないなら仕方ないのかもしれない。お義母様は家を守りたいだけなのよ……」
イヴェッタがジッと私の顔を見つめて、また小さくため息をついた。
「アーシュがいいなら、私はあなたのやることに協力するわ。あ、もし離婚することになったら、お兄様と結婚するのはどう?あの人、仕事ばかりしていて全く結婚する気がなくて困ってるのよ」
「な!何を言っているの、イヴェッタ!それはバーデン様に失礼よ!魔法省のエリートと私なんて……。どう考えてもおかしいわ」
イヴェッタは頬に手を当てて、「お似合いだと思うけど」と首を傾げた。
いやいやいや、絶対おかしい!!第一、バーデン様だって初婚で離婚歴のある貧乏男爵令嬢なんて、嫌に決まってる!!
「ところで、ディートハルトには代理父親を承諾するサインはもらったの?」
「まだよ。相手の目星がついたら、サインしてもらうつもり。でも、私に任せるって言ってくれたから、大丈夫だと思う。ディートハルトにしてみたら、結婚しておいた方が楽みたいだから。きっと、女性嫌いで男性が好きなんて、あのお義母様には言えないでしょうし、理解してもらうのも難しいわ」
「……そうね。お義母様、厳しそうだもんね。でも、アーシュはそれで本当に幸せなの?」
「幸せかどうかは、わからない……。でも、あと一年はあがいてみようと思うの。それで無理だったら、ディートハルトには悪いけど潔く伯爵家を去ろうと思うわ」
私のディートハルトに対する恋心も、あと一年だけ猶予をもらえる。私のこの気持ちも、この一年で片づけなければいけない。
「まぁ、離婚になったらどこかの町にアーシュの魔道具屋でも開こうかな!」
「え!何それ!すごい楽しそう!」
イヴェッタが前のめりで言ってきた。
「ね!楽しそうよね!そうなったら、遊びに来てよ」
「うん!もちろん、行くわ!」
私達は満面の笑みで微笑みあった。
ガタガタと揺れていた馬車が止まった。どうやら、目的地に着いたようだ。
今日はイヴェッタの紹介で夜会に参加させてもらうことになった。イヴェッタの家とは昔から懇意にしている伯爵家なので、参加する人もそれなりの身分だから、安心だろうとイヴェッタが誘ってくれた。
私一人じゃ、夜会なんて縁がないし、ディートハルトも夜会嫌いだからほとんど断ってるみたいだし。
ディートハルトは結婚してもモテるから、きっと女性に追いかけ回されるのが嫌なのね。しかも、女性が嫌いじゃ余計よね……。
「さぁ、アーシュ行くわよ!」
イヴェッタが先に立ち上がり、こちらを見た。
「ええ!もちろん!」
私は右手を力強く握り、闘志をあらわにした。
イヴェッタは家の付き合いで、あいさつ回りをしている。
ディートハルトには仕事で遅くなると伝えてある。正直に話そうか悩んだが、ディートハルトの性格を考えると気にしそうだから、全て決まってから報告しようと思っている。
私は扇子で顔を隠しながら、周りを見渡している。
金髪で翡翠の瞳……で、背は高く美しい男性……。
そんな人……、いるのかしら……?
かれこれ1時間以上、会場をウロウロして男性を物色するが出会えなかった。
金髪の人はいるが瞳は違う色だったり、翡翠の瞳だけど髪は違う色とか……。
それに、ディートハルトのあの美しい容姿って、なかなかいないじゃない!!だから、女性達が毎回大騒ぎして追いかけ回すのよね!!
でもこの際、顔面偏差値は下げても、髪の毛と瞳の色は合わせないと!!義母にバレてしまう……。
その時、会場の端にいる男性陣の中に、今入ってきた人がいた。
こんな時間に来るなんて、よっぽど参加したかったのね……。
その貴族男性を見ると、金髪……。瞳は……、流石に離れすぎていてみえなかった。
私はコソコソと近づき、彼の瞳の色をそっと覗いた。
翡翠...! えっ、うそ!いた!!本当にいたわ!!
顔立ちはディートハルト程じゃなくても、爽やかな青年だった。年齢は20歳前後かしら、少し幼さが残る感じね。背はディートハルトよりは低いけど、私よりは高いから大丈夫そう。下品な感じもしないし、身なりもきちんとしてる!
この人だわ!!私は自分の瞳がランランと輝いてるのを感じた。
私の視線を感じたのか、その彼と目が合ってしまった……。彼は瞳を大きく見開いていた。
しまった!興奮のあまり、すごい凝視してしまった……。気持ちの悪い女だと思われたかしら。
私は思わず彼に背を向けて、気まずさをごまかした。
せっかくのチャンスを棒に振ってしまったかもしれない。うう……、ここにきて恋愛経験のなさが仇となってしまった……。
後悔に震えていると、後ろから声を掛けられた。
「レディ?」
振り向くと、そこには先ほどのディートハルトに似た容姿の青年が立っていた。
「あ……」
私は間抜けな声を出してしまった。
顔を隠すのを忘れてしまい、慌てて扇子を上げた。
「レディ、もう遅いですよ。あなたの美しいお顔を拝見してしまいました」
彼はそう言って手を差し出してきた。
(これは手を乗せればいいのよね)
彼の手に遠慮がちに手を乗せた。
そのまま手袋ごしにキスをされる。そして、上目使いで見られた。
なんだか、その目線にいたためれなくなるが、まだ手を放してもらえなかった。
「レディ、もしよろしかったら少しお話をしませんか?」
「ええ……、ぜひ……」
握られた手はそのままエスコートという形になった。
ディートハルト意外と触れ合うなんていつ振りかしら。むしろそんな機会あったかしら……?
夜会や舞踏会に参加しても、ディートハルトの女除けとして彼を守っていたから、あまり他の男性と二人きりになる機会がなかったのだ。
もちろんダンスも……。まぁ、あまり得意じゃないから、誘われなくて良かったけどね。
会場の外にバルコニーがあり、そこのベンチに腰を下ろした。
彼はウイルと言って21歳の伯爵家の次男だった。今は親の元で領地経営を学んでいるんだとか。
王宮勤めじゃなくてよかった……と少しほっとした。私は偽名を使った。よからぬ噂を立てられたくはないから。
「あの……、ウイル様は……、ご結婚はされていますの?」
「いや、まだなんだ」
良かった、独身なんだ。出来れば独身男性の方が良かった。いくら契約と言っても、奥さんがいる人に頼むのは気が引けたからだ。
「では、ご婚約者様は……?」
彼は首をかしげて、微笑んできた。うぶな青年だと思っていたが、私よりも男女の駆け引きには慣れているようだ。
そしてそっと彼の顔が近づいてきて、「ここでは話せません……」と耳元でささやかれた。
息がかかりそうな距離に、思わず顔が熱くなった。なんだか、すごくはずかしい!
確かにバルコニーじゃ、だれが聞いてるかわからないし、個人情報は話せないのかもしれない。
婚約者がいればその人にも迷惑をかけてしまうかもしれない。ちゃんと聞いたうえで、決めないと……。
私も小声で彼に話しかけた。
「ど、どちらでしたらお話できますか?」
彼は目を細めて、唇はきれいな弧を描いた。
さわやかな青年は男の色香を放ち、妖艶さをかもし出した。
「では、もっとゆっくり話せる所に行きましょう。静かな所で……」
「はい……」
ここの夜会の常連なのね。建物の事をちゃんと理解している。
私は彼に促されるまま、その場所に行くことにした。
夜会会場とは離れた場所で、本当に静かな廊下を二人で進む。
そして、おもむろに彼の歩みが止まった。
「では、レディ。入りましょうか……」
大丈夫、心配いらないですよと言わんばかりの笑顔を見せてきた。
私は「はい……」と返事をし、彼がドアを開けたその時……。
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