【改稿版】夫が男色になってしまったので、愛人を探しに行ったら溺愛が待っていました

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】

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18 もう、女性を愛することは出来ない

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「奥様、今日はなんのお茶をご用意いたしますか?」

 「えっと……、今日は私がお茶を用意するからお湯だけ保温ポットに入れておいてくれる?」

 「かしこまりました」とカトレーヌは魔道具の保温ポットにお湯を入れて、退室した。

 カトレーヌが退室したのを確信して、引き出しに入れておいたお茶の袋を出す。

 お茶の袋には特段怪しい文言は書かれていない。

 袋の裏側を見ると、効用には『気持ちを和らげる、ストレス緩和、疲労回復、リラックス効果』等が書かれている。

 本当にこれが媚薬なのだろうか……。まぁ試供品だし、そんな効果があるわけではないだろう……。

 私は保温ポットの中にそのお茶のパックを入れた。一時間ほど湯の中に入れておくと書いてあるから、ディートハルトが帰ってくる頃には丁度良いだろう。

 私は仕事のカバンから、月間魔道具最新号を取り出した。

 ページをめくると、先日の転移魔道具の事が写真付きで取り上げられていた。兄妹の偉業と書かれており、イヴェッタとバーデンの写真も載っていた。

 「やっぱり、すごいな~。イヴェッタ全然そんなこと言ってなかったのに……」

 「なにがすごいんだ?」

 「そりゃ、イヴェッタとバーデンさ……って、ええっ?」

 声の方を見ると、ディートハルトが扉に持たれかけて、こちらをニヤニヤしながら見ていた。

 「ちょっと!帰ってきているなら、声かけてよ!」

 私は慌てて抗議の声をあげた。

 「声かけたのに、全く気付かず雑誌を読んでいたのは誰かな?」

 「うっ……」

 そうか、気づかなかったのか。良くあるんだよね、魔道具の事となると周りが見えなくなることが……。

 「本当にそういう所は変わらないね……」

 「そう?」

 ディートハルトはほっとしたように、そう言った。

 変わらない私がいいのかな……?

 「もう、湯あみはすましたの?」

 「あぁ、訓練所で入ってきた。剣の稽古で汗をかいてしまったからね」

 ディートハルトは剣の稽古を欠かしたことがない。騎士団に入ってかなり立つのに、本当に勤勉なのだ。だから、魔獣の討伐でもけがをせずに帰ってきてくれたのだろう。

 「そうなんだ。毎日お疲れ様!疲れを取るお茶をもらったの。良かったら飲む……?」

 「あぁ、もらおうかな」

 コポポポポ……。少し早いが、ティーカップにお茶を入れていく。

 香りをかぐが、少し甘く感じるくらいで、普通のハーブティとなんら変わらなかった。

 「はいどうぞ……」

 私はなるべく平静を装って、ディートハルトの前にティーカップを置いた。

 「ありがとう」

 私も飲むふりをして、ディートハルトをこっそり盗み見た。

 喉が渇いていたのか、ゴクゴクと一気に飲んでいる。

 けっこう熱いのに大丈夫なのかな……。

 ディートハルトが空になったカップを置いた。

 「このハーブティ、すこし甘くておいしかったよ。おかわりしても?」

 えぇ!?おかわり?だ、大丈夫なのかな……?

 ここで断ったら、怪しまれてしまうかもしれない。

 私は心臓をドキドキさせながら、またティーカップにお茶を注いだ。

 「どうぞ……」

 「ありがとう」

 ディートハルトが目を細めて、お礼を言った。なぜだか悪いことをしている気分になり、目を合わせられなかった。

 コト……。ディートハルトがお茶を全て飲み、カップを置いた。

 「さ、最近は騎士団の方はどうなの?落ち着いてきた?」

 私は沈黙に耐えられなくなり、仕事の話をすることにした。

 「そうだね。だいぶ落ち着いてきたかな。俺は事務処理も多くて、残業も多いが普通の団員は休みを取っている者も多い」

 「そうだよね。あんなに長期間討伐に行ってたんだもん。休みたいよね。ディーは毎日残業で大丈夫なの?ディーだって、普通の団員なのに、ひどいよ……」

 「あ……、そのことなんだけど……。まだ正式発表ではないんだが、副団長が退職されることになって、俺が副団長にならないかと打診を受けているんだ。俺はそれを受けようと思っている」
 
 ディートハルトがソファに背筋を伸ばしてすわり、真剣なまなざしで私を見てきた。

 「えっ、副団長……?この若さで……?」

 「今回の討伐での活躍が評価の対象だったようだ。アーシュの魔獣除けパウダーのおかげで、魔獣を臆せず果敢に突進することが出来た。これもすべて、アーシュのおかげだ」

 私の魔道具のおかげ……?私の魔道具が役に立ったんだ……。私は胸に温かいものが広がっていくのを感じた。

 「そんな……。私の魔道具を信じてくれたのがうれしいよ。それに、果敢に飛び込んでいけたのは、ディートハルトの毎日の鍛錬の成果だよ。本当におめでとう……」

 お母様が聞いたら、なんていうだろうか。家督を継いでほしいと思っているかもしれないし……。それにもっと忙しくなったら、家に帰ってくるのもたまにになってしまうかもしれない。そしたら子供は……。

 おめでとう……とはいったが、なんだか心がモヤモヤしてしまい、ディートハルトに対して罪悪感を抱いた。

 「あり……が……とう……。はぁ……はぁ……」

 その声を聞き、私は急ぎディートハルトを見た。

 シャツの胸元を手でつかみ、苦しそうに息を切らしている。

 頬は紅潮し、顔からは汗が流れ、それが首を伝い胸まで流れて行った。

 とてつもない色気を発していた。

 やっぱり、そういうお茶だったのね!

 「ディー?大丈夫?」

 私はディートハルトの隣に移動して、背中をさすった。そしてハンカチで額の汗をぬぐった。

 すると突然ガシっと手首を捕まれる。

 「えっ?」

 翡翠の瞳は充血していて、その瞳には確かに熱をはらんでいた。呼吸も荒く、肩で息をしている。

 「今の俺に触れない方がいい……」

 そういってディートハルトは立ち上がった。そして、ベッドサイドにおいてあった水差しから、直接水を飲み込んだ。

 口の端から漏れ出た水が衣類を濡らしていく。ほぼ水差しの水を飲み干し、口元の水を袖で拭った。

 「ちょっと寝れそうにないから、剣の稽古してくる……。はぁ……、アーシュは先に寝ていて」

 ディートハルトはこちらを振り向かずに、そう言って部屋を出て行ってしまった。その声色にいつもの優しさは含まれていなかった。

 どうしよう……。ディートハルト、きっと何か気づいてた……。お茶が普通じゃないって、わかったのかもしれない。

 だから、あんなに水を飲んで汗をかきに行ったんだ。……嫌われたかもしれない……。

 私は自分の行いを悔いて、眠れずに長い夜を過ごした。

 ◇◇◇


 「うん、排卵されてますね。よい感じですよ」

 義母から言われていたので、久々に治療院に来てみた。今の状態を確認しましょうと言われて、内診をしてもらった。

 「今日されるのがよろしいかと思います」

 ノエル先生がカルテを確認しながら、伝えてきた。

 「今日ですか……」

 あのあと、結局ディートハルトは寝室に帰ってこなかった。朝も顔を合わせられず、そのまま仕事に行ってしまったのだ。

 今日と言われても、出来る気がしない……。

 「今日は難しそうですか……」

 ノエル先生が心配そうに眉をハの字にして、覗き込んできた。水色の瞳が美しかった。

 「いえ、今日頑張って向き合ってみます」

 ノエル先生が力の入った私の手を優しく包み込んでくれた。

 「今回がダメでも、また来月があります。アーシュ様はとてもお若いのですから、あせらずいきましょうね」

 「はい……」

 私は、下がり眉のまま笑顔を作った。

 「妊娠しやすくする注射もありますが、どうしますか?」

 今日は無理かもしれないとおもいつつ、もしかしたらの気持ちも捨てきれず、私は二つ返事をした。

 

 深夜一時、寝室の扉が開いた。

 音を立てないように、歩き反対側のベッドがきしむ。

 「ディー……?」

 私は眠い目をこすりながら、声をかけた。

 ベッドサイドのライトをつけると、湯あみをしたばかりで、髪を濡らしガウンを着たディートハルトと目が合った。

 私が寝ていると油断したのか、ガウンの胸元ははだけ、胸筋から腹直筋まで見えており、今日も色気を振りまいている。

 「あ、ごめん起こしちゃったよね。ライト消していいよ。もう寝よう」

 そう言ってディートハルトは掛布団をかぶり、ディートハルトは私に背を向けた。

 幾度この広い背中を見つめただろうか……。でも、今日は逃げないって決めたから。

 「ディートハルト、話があるの。ちょっとだけ聞いてくれる?」

 ディートハルトはこちらを振り向き、私と目線を合わせてきた。私の表情から何かを察してくれたディートハルトが起き上がってくれた。

 私もベッドに座り、向かい合った。

 「お義母様に言われて、前にいった妊活の治療院に、今日行ってきたの。そしたら、排卵していて今日子作りすると良いってお医者様に言われたわ。あと妊娠しやすい注射も打ってきたの……。疲れて帰ってきて、ディートハルトの負担だってわかってるんだけど……。ディートハルトが大丈夫だったら、今日……」 

 続きを放そうとした時、ディートハルトに遮られた。

 「アーシュ!」

 いつもより大きな声に、体がビクっと反応してしまった。

 「すまない、おおきな声を出して……。本当はもっと早く言わなければいけなかったんだ。俺は……、俺は……」

 「うん……」

 ディートハルトが眉間にシワを寄せ、苦しそうにこう言った。

 「もう、女性を愛することは出来ない」

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