【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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65話 命を懸けた誓い

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 深淵の向こうに、ソウタの姿を見つけたルースの瞳が、獲物を見つけた猛禽のように輝く。

 ルースはノワールをさらに加速させ、崖の淵で馬から飛び降りた。

 彼を攻撃しようと待ち構えていたかのように、数体の未確認生物が空に現れる。

 次の瞬間、彼らは鋭い爪を剥き出しにして、ルースに向かっていく。

 ソウタは恐怖に目を見開き、声を上げた。

「ルース、危ない……!」

 襲いかかってきた怪物の腹部に、ルースは剣を深々と突き立てた。

 ぐらりと体勢を崩したその背に飛び乗り、一瞬の足場にする。再びそれを蹴り上げ、次の標的へ向かった。

 まるで、彼自身の意志で空中に足場を作り出しているかのように、次々と現れる怪物を踏み台にして、深淵を一直線に渡っていく。

 そして、空中で体勢を立て直して、アルヴァとソウタのいる場所に着地した。

 その顔には、ただひたすらに、揺るぎない決意が宿っている。

 彼は音もなく、流れるような動きで剣を正面に構えた。剣先は、まっすぐにアルヴァの心臓を指している。

 一歩、また一歩と、迷いのない足取りでアルヴァに歩み寄りながら、ルースは静かに、しかし威厳のある声で告げた。

「ソウタを返せ」

 ソウタは、すぐに駆け寄ろうとするが、アルヴァに強く腕を引き止められてしまう。

 アルヴァは、ルースを冷たく見つめながら言った。

「鍵がないと、結界のせいで入れないはずなのに、どうやってここに来たんだ?」

 ルースは、国王から渡された古びた鍵を、懐から取り出した。

 彼はそれを、アルヴァに見せつけるように掲げた。

「国王から鍵を受け取った。お前を殺す許可も得ている」

 アルヴァはそれを聞いて、狂ったように高笑いを上げた。

 その笑い声は、狂気と嘲笑に満ちている。

「あははは! 僕を殺すって? お前が? ……殺してみろよ!!」

 そう叫ぶと、背後に控えていた数体の未確認生物が、獲物に襲いかかる猛獣のようにルースへと突進した。

 ルースは、魔力抑制の場で未確認生物と戦うが、苦戦を強いられていた。

 敵の攻撃を受けるたびに、身体に痛みが走り、服が破け、鮮血が滲む。

 だが、彼は決して怯まなかった。

 その強固な意志は、どんな傷を負っても揺るがず、攻撃の威力は少しも衰えを見せない。

 ソウタを助け出すという、その一点のみに集中し、ボロボロになりながらも次々と敵を斬り伏せていく。

 ルースの燃え盛るような闘志を感じ、ソウタの胸は熱く、そして苦しくなった。

 彼は、アルヴァの腕の中で、ルースをただ見守ることしかできない自分の無力さが、どうしようもなく悔しかった。

 その時、ふと、アルヴァの胸元にあるポケットに目が留まった。

(あれは……!)

 ソウタは、その胸元から微かに放たれる、魔力の気配を感じ取った。

 先ほどアルヴァが言っていた「鍵」が、彼のポケットにあることに気づいた。


 未確認生物との激闘が続く中、ルースの足に強烈な一撃が直撃する。

 骨が砕けるような鈍い音が響き、バランスを崩したルースは、苦痛に顔を歪めながら膝をついてしまう。

 それを見たアルヴァは、「もう終わり? つまんないな」と嘲笑した。

 すると、まるで面白い遊びを思いついたかのように、アルヴァの顔に邪悪な笑みが浮かんだ。

「お前の心臓を僕にくれるなら、ソウタを解放してあげてもいいよ」

 動けないルースは、アルヴァに懇願する。

「……この命と引き換えに、ソウタを解放してくれ」

 ソウタは、怒りに震えながら叫んだ。

「何を言ってるんだ!!」

 それを聞いて、アルヴァは楽しそうに笑う。

「お前みたいな愚か者が皇太子で、帝国は可哀想だね」

 ルースは、アルヴァの言葉に自嘲するように呟いた。

「確かに、私は皇太子失格だ」

 そして、その瞳にソウタへの揺るぎない愛情を宿し、心から微笑んだ。

「だけど、ソウタがこれからも自由で幸せに暮らしていけるなら、後悔はない」

 ルースの視線が、強く、優しく、ソウタを捉える。

「……ソウタが好きだから」

 その言葉を聞いたソウタは、息を呑んだ。

 ルースの真っ直ぐな想いが、胸に響く。

 ずっと抱いていた、ルースへの感情が何だったのか、この一瞬で理解した。

 アルヴァは、声高に笑っていたが、突然その顔から表情を消し、真顔になった。

 その瞳には、純粋な憎悪が宿る。

「お前のそういう、綺麗事ばかり言う所が心底嫌いだよ! 消えろ!!」

 そう叫ぶと、アルヴァは怪物に最後のトドメを命じ、ルースへと鋭い攻撃を放たせた。

 攻撃の直前、ルースはゆっくりと目を閉じた。

 心の中で、ソウタに「自分を大切にする」と約束したことを思い出し、小さく、だが深く謝罪する。

 その瞬間、ルースの顔や首に、温かい飛沫が飛び散るのを感じた。

 鉄錆のような生臭い匂いが鼻腔を衝く。

 しかし、痛みはない。

 ルースはゆっくりと目を開けた。
 信じられない光景が、その視界に飛び込んできた。

 目の前に、ソウタが立っていた。

 彼の背中には、強大な一撃の傷跡が深く残り、血が滲んでいた。

 ソウタの身体は、その衝撃に耐えきれず、まるで糸が切れたかのように、ゆっくりと崩れ落ちていく。

 ルースの口から、悲痛な叫びが響いた。

「……ソウタ!!」

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