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20話 噂の波紋
しおりを挟む闘技トーナメントから数日。
軍事学校は、ソウタの勝利と、ルースへの「プロポーズ」の噂で、連日賑わっていた。
「ソウタ様が、平民のルースにプロポーズしたらしいぞ!」
「あんなに美しい短剣を贈るなんて、本気なのでは?」
ソウタがどこへ行っても、そんな噂が耳に入ってくる。
ソウタがルースを愛している、そして二人は婚約寸前だという話は、瞬く間に学校中に広まっていた。
そして、その噂を助長するかのように、ルース本人は、贈られた短剣を肌身離さず身につけ、出会う人全てに、満面の笑みで見せびらかしているのだ。
その様子を見るたびに、ソウタは内心で大きくため息をついた。
ソウタは、噂を否定するのも面倒になり、かといって肯定するのも違うため、ひたすら笑顔でごまかす日々を送っていた。
(まあ、生き残るためだしいっか……。ルースの好感度が上がって、僕に害が及ばないなら……)
ソウタは、そう割り切ることにした。ルースへの愛が誤解であることは知っているが、結果として自身の「生存戦略」にプラスに働くのであれば、構わないと考えることにしたのだ。
そんな中、ソウタは、ルースの怪我の経過について医務室から報告を受けた。
「ルース君の右腕は、奇跡的に回復が早く、1週間ほど安静にすれば、後遺症も残らず完治するとのことです」
その報告を聞いたソウタは、心から安堵した。
(よかった……本当に良かった。あんな大怪我、もし後遺症が残ったらどうしようかと思った……)
ソウタは、ルースの無事を心から喜んだ。
一方、オリオンは、複雑な思いを抱えていた。
ルースがソウタのために植木鉢を受け止め、大怪我を負って以来、オリオンは自分がルースには敵わないと痛感していた。
ソウタを守るという点において、ルースの行動は、オリオンの心を深く揺さぶったのだ。
(ソウタ君の隣にいるのは、ルース君なんだ……僕なんかじゃ、ソウタ君を守ることなんてできない……)
オリオンは、ソウタへの深い愛情を抱きつつも、ソウタの隣にいるべきは自分ではないと、次第に考えるようになっていた。
彼らは親友だ。友人としてそばにいられれば、それで十分なのではないか……?
オリオンは、そんな思いを抱きながら、一人、校舎の中を歩いていた。
その時、オリオンの行く手を、数人の貴族令嬢が塞いだ。
彼女たちは以前からオリオンに執拗に迫ってくる、彼の熱狂的なファンだった。
「オリオン様! 少しだけ、お話させてください!」
「あの、お茶でもご一緒しませんか!?」
貴族令嬢たちは、オリオンの周りを囲み、熱烈な視線を送ってくる。
オリオンは、穏便に彼女たちから抜け出す方法を考えていた。
彼は、ファンに冷たくあしらうことはできない性格だったため、いつも困り果てていたのだ。
(どうすれば、穏便にこの場から抜け出せるだろう……)
オリオンが、困り果てた表情で悩んでいる、その時だった。
「オリオン!」
突然、背後から、見慣れた声が聞こえた。
ソウタの声だった。
ソウタは、オリオンの元へと歩み寄ると、何のためらいもなく、オリオンの肩に腕を回した。
その距離は、誰が見ても親しい友人、あるいはそれ以上の関係性を想像させるほどだ。
ソウタは、貴族令嬢たちに向かって、にこやかに微笑んだ。
「すまないね、お嬢さん。オリオンは今、僕と用事があるんだ。悪いけど、また今度にしてやってくれない?」
ソウタの声は、あくまで穏やかだったが、その言葉には、はっきりと拒絶の意が込められていた。
彼は、オリオンが困っているのを見て、反射的に助けようとしたのだ。
オリオンに群がる貴族令嬢たちは、ソウタの存在感と、彼らの親しいアピールに、思わず後ずさりした。
ソウタは、オリオンを人気のない場所まで連れて行くと、オリオンの肩から腕を外し、心配そうにオリオンの顔を覗き込んだ。
「困っているように見えたんだけど……余計だったかな?」
ソウタは、自分が助けたつもりが、かえってオリオンを困らせてしまったのではないかと、少し不安に思っていた。
オリオンは、ソウタの言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
彼の顔は、まだ赤いが、その瞳には、ソウタへの感謝と、複雑な感情が入り混じっていた。
「い、いや……ありがとう、ソウタ君」
オリオンは、照れながら、そして心から感謝の気持ちを込めてお礼を言った。
ソウタの優しさは、いつもオリオンの心を温かくする。
(ソウタ君……やっぱり、君を諦めるのは難しいな……)
オリオンは、ソウタの隣で、そんな思いを心の中でつぶやいた。
ルースに敵わないと諦めようとした気持ちは、ソウタの無自覚な優しさによって、またしても揺らいでしまうのだった。
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