【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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19話 闘技トーナメント

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 闘技トーナメント当日。軍事学校の闘技場は、大勢の観客で埋め尽くされていた。

 高貴な貴族たち、熱狂的な生徒たち、そして一般市民まで、あらゆる人々がこの一大イベントを見守るために集まっている。

 会場は、期待と熱気に包まれ、ざわめきが止まない。

 ソウタは、闘技場へと続く薄暗い通路で、静かに呼吸を整えていた。

 彼の身体は、レオ・ロウのスパルタ教育によって、しなやかな美しさと、洗練されたアタッカーの風格を纏っている。

 その瞳には、並々ならぬ決意と、獲物を捉えるような鋭い光が宿っていた。

「ソウタ君!頑張って!」

 オリオンが、ソウタの元へ駆け寄り、声をかけた。
 彼の顔には、ソウタへの深い心配と、そして勝利への切なる期待が入り混じっていた。

「ソウタ殿、己の力を信じろ。そして、必ず勝て」

 レオ・ロウもまた、ソウタの肩を力強く叩き、静かに激励した。

 彼の言葉には、ソウタの想像を絶する努力を知る者としての、確かな信頼が込められている。

 その時、ソウタの視線の先に、腕に包帯を巻いた人影が見えた。

 大怪我で安静にするよう言われていたはずのルースだった。

 彼は、ソウタの姿を見つけると、ふわりと、心からの安堵と愛情を込めた笑顔を向けた。

「ソウタ……君なら、必ず勝てる。信じているよ」

 ルースの声は、ソウタへの揺るぎない信頼と、そして愛おしさに満ちていた。
 その優しい響きが、ソウタの心に温かく染み渡る。

 ソウタは、ルースの笑顔を見て、心の中で強く誓った。
(よし。僕が、絶対に優勝してやる。ルースのために、そして、あの黒幕を捕らえるために……!)

 ソウタは、ルースに涼やかな笑顔を向けた。

「うん、絶対優勝するから。見ててよ!」

 ルースは、ソウタの言葉に、満足げに、そして誇らしげに微笑み返した。

 彼の心は、ソウタの勝利への決意と、自分への深い思いやりで満たされていた。


 トーナメントが始まった。

 ソウタは、レオ・ロウのスパルタ教育で得たアタッカー技能と、元々持っていた天才的なサポート能力を駆使して、次々と対戦相手を打ち破っていった。

 彼の動きは、予測不能で、そして精密だった。アタッカーとしての攻撃を繰り出しながら、瞬時にシールドを展開して防御する。
 その攻防一体の戦い方は、観客を魅了し、彼の名を轟かせた。

 ソウタの対戦相手のアタッカーたちは、彼の戦い方に不満を漏らした。

「おい!君!シールドなんてずるいぞ!」

 彼らの不満の声は、闘技場に響き渡った。
 しかし、その時、審判席から、毅然とした声が響いた。

「シールドの使用は、闘技トーナメントのルール違反ではありません」

 ソウタが声の主の方を見ると、そこにいたのは、もう一人の近衛兵、レオ・ロウの相棒であるユノ・セリウスだった。

(あれ?あの近衛兵の人、審判だったのか……)

 ソウタは、少し驚いた。
 彼が、レオ・ロウの相棒が審判を務めていることを知らなかったからだ。

 だが、これで、ルールは明確になり、ソウタは自分の戦い方を堂々と続けることができた。

 ⸻

 そして、ついに決勝戦。

 ソウタの決勝戦の相手は、皮肉なことに、彼の婚約者であるライエルだった。

 ライエルは、ソウタの対戦相手だと知ると、不敵な笑みを浮かべた。

「ソウタ。まさか貴様と決勝で当たるとはな。だが、貴様がいくら強くなったところで、この俺に勝てるわけがない」

 ライエルの傲慢な言葉に、ソウタの瞳が、鋭く光った。

 ソウタは、このトーナメントの裏で、ルースの剣に細工をした黒幕が、ライエルの手下である貴族だと、既に決定的な証拠を掴んでいたのだ。

 ソウタは、不敵な笑みを浮かべた。

「ふん、それはどうかな?」

 そう言い放つと、ソウタは持っていた剣を、カラン、と音を立てて足元に捨てた。観客席から、どよめきが起こる。

「僕は剣は使わず君に勝つ!」

 その声は、闘技場全体に響き渡り、観衆は騒然となった。
 ライエルは、それを最大の挑発だと感じ、怒りに顔を歪ませる。


 審判の開始の合図とともに、ライエルが勢いよく切りかかる。
 その剣閃を、ソウタは紙一重で軽やかに避けた。

 レオ・ロウに習ったのは、単なる剣さばきだけではない。アタッカーとしての体術、そして相手の動きを読む洞察力も磨かれていた。

 攻撃を避けられ、ライエルは苛立ちを募らせる。

 しかし、ライエルもまた、公爵家の嫡男として伊達に訓練を積んできたわけではない。

 彼の剣技は鋭く、ソウタはシールドを駆使して防御するものの、次第に場外付近へと追い詰められていく。

 ライエルが、勝利を確信したかのような鋭い一撃とともに叫んだ。

「終わりだ、ソウタ!」

 その瞬間を待っていたかのように、ソウタは自身の背後にシールドを張り巡らせた。
 それは単なる防御ではなく、足場として利用するためのものだった。

 シールドを蹴り、ソウタはしなやかな身体で宙を舞うようにバク転し、一瞬でライエルの背後に回り込んだ。

 そして、ライエルの足元に向かって、練習を重ねていた攻撃拘束魔法を打ち込む。

 不意を突かれたライエルは直撃を受け、その場に縫い付けられたかのように動けなくなってしまう。

 ソウタは、にっこりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「終わりだ、ライエル」

 そう言いながら、動けないライエルを、場外へと軽く蹴り飛ばした。
 ライエルは、コロコロと転がり、場外に落ちていく。


 静まり返る闘技場。

 そして、我に返った人々の間から、地鳴りのような大きな歓声が上がった。

「武器を使わずに攻撃魔法が使えるなんて!」
「天才にしかできないことだよ!」

 ソウタは、その歓声に応えるように、嬉しそうに周囲に手を振った。

 そしてその後、一転して真面目な顔になり、大きな声で宣言した。

「皆さんにお知らせしたいことがあります」

 ソウタは審査員席の方を向き、毅然とした態度で告げた。

「ライエルの剣の能力は認めます。しかし、彼の仲間の貴族たちが、この剣に細工をした形跡があったため、今回、私は剣を使用しませんでした!」

 ソウタの声は、闘技場全体に響き渡った。
 観客席が、ざわめきに包まれる。

 ライエルは、ソウタの言葉に、驚きと怒りで顔を真っ赤にした。

「なっ……何を言っているんだソウタ! そんなはずはない!」

「証拠は、ここにある。お前たちの卑劣な行為は、全て明るみに出る!」

 ソウタは、ライエルをさらに追い詰めるように、決定的な証拠を提示した。

 彼が審判に渡した剣には、確かに貴族派によって細工された微細な痕跡があり、それは貴族派の陰謀を、白日の下に晒すものだった。

 ソウタの証拠提示により、審判は協議に入った。

 そして、数分後、審判から下された裁定は、ライエルを含める貴族派たちの失格だった。

「そんな……! まさか……!」

 ライエルは、信じられないというように、呆然と立ち尽くした。
 彼は、剣の細工のことなど、全く知らなかったのだ。

 ライエルは、失格を告げられた瞬間、ソウタに視線を向け、そして、自分の手下である貴族たちを睨みつけた。

「貴様ら……! そんな卑劣な小細工をするなんて……! 貴族の面汚しが!!」

 ライエルは、激しい怒りに震えていた。
 彼は、自身のプライドが、手下の愚かな行動によって踏みにじられたことに、激怒していたのだ。

 ライエルの言葉は、ソウタの読み通り、彼が陰謀に直接関与していないことを示していた。

 こうして、ソウタは、見事、闘技トーナメントの優勝者となった。

 優勝者に与えられるのは、純粋な力を象徴する、美しい短剣だった。

 その刃は、光を反射し、観客席の歓声がソウタの勝利を祝福する。

 ソウタは、短剣を受け取ると、迷うことなく、観客席のルースの方へと視線を向けた。
 そして、最高の笑顔で、短剣をルースに差し出した。

「ルース。これ、君にあげるよ!」

 ソウタは、純粋な喜びと、ルースの無念を晴らすことができたという達成感で満たされていた。
 彼にとって、この短剣は、ルースへのお土産であり、「君を陥れた奴を捕まえたよ」という、ささやかな贈り物だった。

 しかし、その瞬間、観客席が、ざわめきに包まれた。

「あれは……まさか……」
「短剣を贈るなんて……!」

 ソウタは、周囲のざわめきに、何が起こったのか分からず、首を傾げた。

(え? 何でみんな、そんなに驚いてるんだ?)

 ソウタは、全く知らなかった。

 帝国では、短剣を贈る行為は、プロポーズと同等の、非常に重い意味を持つことを。

「ち、違う! これは、あの、ルースがトーナメントに出られなくなったから、その、代わりに……! えっと、だから……プロポーズとか、そういうんじゃないからね!?」

 ソウタは、慌てて否定しようとしたが、その言葉は、混乱の中でしどろもどろになってしまった。

 彼の顔は、耳まで真っ赤に染まっている。

 しかし、ルースは、ソウタの焦った様子を見て、満更でもない顔で、ふわりと笑った。

 彼の瞳は、ソウタへの揺るぎない愛で満たされていた。

(ソウタ……そんなに慌てなくてもいいのに。分かっているよ。これは、君からの、私への愛の証なんだろう?)

 ルースの心の中では、ソウタの戸惑いは、照れ隠しと変換され、彼の喜びをさらに増幅させた。

 その場から少し離れた場所で、ソウタに貰った紋章入りのハンカチを、オリオンが、きつく握りしめていた。

 彼の顔には、喜びと、そして、ソウタへの切ない恋情が入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。

 ソウタの優しさと無自覚な行動が、またしても周囲に誤解を生み、オリオンの心を揺さぶるのだった。


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