【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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21話 それぞれの婚約

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 オリオンは、ソウタに助け出された後、ソウタへの想いを諦めきれないと改めて決意していた。
 彼の心には、ソウタの隣にいたいという強い願いが再び芽生えていたのだ。

 しかし、その決意も虚しく、その日の午後、オリオンの元に一通の手紙が届いた。

 それは、オリオンの公爵家からで、別の貴族との婚約が決まったという内容だった。

「そんな……!」

 オリオンは、手紙を握りしめ、顔を蒼白にした。
 ソウタへの想いを諦めないと決心したばかりだというのに、あまりにも酷いタイミングだった。
 彼の心は、絶望的な重みに沈んでいった。


 一方、ソウタは、闘技トーナメントの一件で、ライエル率いる貴族派と完全に決裂していた。

 トーナメントでの一件は、貴族派の陰謀を白日の下に晒しただけでなく、ライエルの貴族としての威信をも傷つけたのだ。

 数日後、ソウタの元に、ライエルの公爵家から、正式な婚約破棄の申し出が届いた。

「よし、これで一石二鳥だな!」

 ソウタは、婚約破棄の手紙を見て、思わずガッツポーズをした。

 彼にとって、ライエルとの婚約は面倒でしかなかったため、これで自身の「生存戦略」における不要な障害が一つ減ったのだ。

 ソウタの隣でその報告を聞いたルースもまた、内心で大喜びしていた。

 ソウタが、ライエルという邪魔者から解放された。

 これで、ソウタは完全に自分だけのものになる。ルースの顔には、隠しきれない満面の笑みが浮かんでいた。

 しかし、ソウタの喜びは、すぐに別の面倒によって打ち消された。

 最近のソウタの優秀さが、ついにソウタの父親の耳にも入ったらしい。

 ソウタの部屋には、ソウタの父親からの手紙が、何通も届き始めていた。

 全て、ソウタの近況を尋ねるものや、将来の進路に関するものだ。

「はぁ……面倒だな」

 ソウタは、山のように積まれた手紙を見て、うんざりしたように愚痴をこぼした。

 父親からの手紙は、ソウタにとって、ただの煩わしい事務処理でしかなかった。

 ソウタの愚痴を聞いたルースは、その場で考え込んだ。

(ソウタの父親が、ソウタの優秀さに気づき始めた……ということは、ソウタが、もっと注目されるようになるということか……)

 ルースの心に、また別の焦りが芽生えた。
 ソウタが優秀になればなるほど、彼を狙う者が増える。

 そして、婚約破棄されたばかりのソウタに、新たな縁談の話が舞い込んでくる可能性も、十分にあった。


 その日の夕方。
 ソウタは、まだ安静にしていなければならないルースを、彼の部屋まで送っていった。

「じゃあ、また明日ね!ルース」

 ソウタは、ルースに声をかけ、自身の部屋へと戻ろうとした。

 その帰り道、ソウタは、校舎の廊下で、オリオンを見かけた。

 オリオンは、壁にもたれかかり、何かを深く考えているようだった。

「オリオン?どうしたんだ?そんなところで」

 ソウタは、オリオンに声をかけた。
 しかし、オリオンの様子が、少しおかしいことに気づいた。

 彼の顔は、普段の穏やかさがなく、どこか沈んだ表情をしている。

 オリオンは、ソウタの問いかけに、はっと顔を上げた。

 彼の右手に握られていたのは、以前怪我の手当てのために巻いてくれた、ソウタの家の紋章入りのハンカチだった。

 そのハンカチは、綺麗に洗濯され、丁寧にたたまれていた。

 オリオンは、この数日間、このハンカチを返すかどうかでずっと悩んでいたのだ。

 愛の告白と誤解されてしまう可能性を考えれば、返すべきだ。

 しかし、ソウタへの想いを諦めたくないと決心したばかりのオリオンにとって、このハンカチは、ソウタとの大切な絆の証であり、どうしても手放したくなかった。

 オリオンの心の中で、理性と感情が激しくせめぎ合っていた。

 ソウタは、オリオンの様子を見て、再び心配そうな表情になった。

「何かあったの?元気がないみたいだけど」

 ソウタの、心から心配した顔が、オリオンの視界に入った。
 その綺麗な瞳を見た
瞬間、オリオンの決意は、揺らいでしまった。
 やはり、このハンカチは返せない。

 オリオンは、握りしめていたソウタから貰ったハンカチを、そっと自分の制服のポケットにしまった。

 そして、代わりに、以前から用意していた、自分の好きな色である藤色のハンカチを取り出した。

 そのハンカチには、家紋など入っていない、ごく普通のハンカチだった。

 オリオンは、藤色のハンカチをソウタに差し出した。

「この前は、ありがとう、ソウタ君。その……ハンカチ、助かったよ」

 オリオンの声は、わずかに震えていたが、
 その表情には、ソウタへの深い感謝と、そして、彼への秘めたる想いが込められていた。

 ソウタは、オリオンから差し出された藤色のハンカチを、笑顔で受け取った。

「ああ、どういたしまして。無事でよかったよ、オリオン」

 ソウタは、オリオンが藤色のハンカチをくれた意図を全く理解していなかった。

 彼にとっては、オリオンが怪我のお礼を言ってくれただけであり、それ以上の意味はなかったのだ。

 ソウタは、オリオンの顔をじっと見つめた。

「オリオン……もし、何か悩み事があるなら、いつでも言ってよ。僕は、君の友達だから」

 ソウタの言葉は、オリオンへの心からの気遣いだった。

 彼は、オリオンの様子がおかしいことに気づいており、友人として何か力になりたいと考えていたのだ。

 オリオンは、ソウタのその優しさに、胸が締め付けられる思いがした。

 ソウタは、自分の気持ちを知らずに、いつもこんなにも優しい。

「ああ……ありがとう……ソウタ君……」

 オリオンは、ソウタにそれ以上何も言えず、ただ頷いた。

 ソウタは、オリオンに微笑みかけると、自分の部屋へと戻っていった。

 オリオンは、ソウタの背中を、切なげな眼差しで見送った。

 彼の心の中には、婚約の現実と、ソウタへの募る想いが、複雑に絡み合っていた。

 ソウタの無自覚な優しさが、オリオンの心をさらに揺さぶるのだった。


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