【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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22話 家族の思惑



 翌日。ソウタは、登校するとすぐに、オリオンが婚約したという噂を耳にした。
 学校中は、その話題で持ちきりだった。

 ソウタは、オリオンを見つけると、すぐに声をかけた。

「オリオン。婚約したって本当なのか?」

 その問いかけに、オリオンは少し驚いたような顔をした。
 彼の表情には、どこか諦めと寂しさが混じっている。

「ああ、本当だよ。あまり乗り気ではないけれど……公爵家の義務だから、仕方ないんだ」

 オリオンの声は、普段の彼からは想像できないほど沈んでいた。

「本当は……」

 言いかけたそのとき、オリオンはソウタの少し後ろにルースが立っていることに気づいた。
 ルースは、ソウタとオリオンの会話をじっと見つめている。
 オリオンは、それ以上言葉を続けるのをやめた。

 ソウタは、オリオンの言葉を聞いて、顔をしかめた。

「へえ……貴族様は大変だね」

 まるで他人事のように、ソウタは呟いた。
 彼にとって、貴族の家の事情は、どこか遠い世界の出来事のように感じられていた。

 そのソウタの言葉に、ルースが口を開いた。

「ソウタも貴族だろう?侯爵家の嫡男じゃないか」

 その声には、ソウタが自分の身分を軽んじていることへの、わずかな不満が込められていた。

「ああ、僕の家は、弟が継ぐからさ。僕には関係ないよ」

 ソウタは、あっさりとそう言った。
 爵位や権力への執着は、彼の中に一切なかった。


 それからしばらくして、ソウタの元に、侯爵家から一通の手紙が届いた。

 そこには、来週の休学日に、家族と一緒に食事をしないかという誘いが書かれていた。

「はぁ……面倒だな」

 手紙を見たソウタは、うんざりしたように溜息をついた。

 だが、そのときふと、脳裏に浮かんだのは、元の身体のソウタの姿だった。

(そういえば、元のソウタは、家族と仲良くしたかったのかもしれないな……)

 そんなことを考える自分に、ソウタは少し驚いた。

(でも、一人で行くのは心細いな……)

 そう思って、隣にいるルースに目をやる。

「あのさ、ルース。僕の家族が、食事に誘ってくれたんだけど……君も一緒に行かないか?」

 ソウタは、そっと声をかけた。ルースがいれば、この面倒な食事も少しは気が楽になると思ったのだ。

 その誘いに、ルースの心臓は飛び跳ねるほど喜んだ。

(ソウタが、私を家族の食事に……!これは、ついに、恋人として正式に紹介してくれるのか!?)

 浮かんでくる喜びと期待を隠しきれず、ルースの顔は明るくなる。

「ぜひ、ご一緒させてくれ!」

 満面の笑みで、ルースは力強く答えた。


 ⸻

 休学日。
 ソウタとルースは、侯爵邸の広大なダイニングルームで、ソウタの家族と向かい合って座っていた。

 ソウタの父である侯爵、継母、そして異母弟のベルナルドがそこにいた。

 食事は、沈黙の中で進んだ。
 ソウタと家族の間には、相変わらず冷たい空気が流れている。

 ソウタは、あまり食事に手をつけることもなく、隣のルースと小声で話していた。

 その時、突然、ベルナルドが苦しそうにうめき声を上げた。

「うっ……うう……」

 ベルナルドは、顔を蒼白にし、胸を押さえて、そのまま椅子から倒れ込んだ。

「ベルナルド!どうしたの!?」

 継母が悲鳴を上げる。
 周囲の使用人たちも、混乱に陥った。

「これは……まさか、毒……!?」

 侯爵がベルナルドの傍らに駆け寄り、その様子を見て顔色を変える。

 その瞬間、継母がソウタを指差し、怒鳴った。

「ソウタ!あなたが、ベルナルドに毒を盛ったのね!?」

 突然の言葉に、ソウタは心底びっくりした。

「はあ!?何を言ってるんだ?僕がそんなことするわけないだろう!」

 身に覚えのない濡れ衣に、ソウタは怒りを露わにした。

 ルースは、ソウタが疑われていることに激怒した。

 「継母殿、そのような根拠のない発言は、お控えください!」

 彼はソウタを庇うと、鋭い観察眼で状況を分析し始めた。

 そして、数分後。ルースはテーブルにあった一輪挿しの花瓶を指差しながら、はっきりと告げた。

「ベルナルド殿のフォークには、この花瓶の花に仕込まれた毒が付着していました。食事が始まる前に、この花を替えていたのはあなたでしたね、継母殿?」

 ルースの完璧な推理によって、継母とベルナルドの自作自演の陰謀が明らかになった。二人は顔を真っ青にして、その場に崩れ落ちた。

 冷静ながら、一切の反論を許さない。
 その言葉には、絶対的な真実が込められていた。

 ルースの完璧な推理によって、犯人が自作自演の継母とベルナルドであることが明らかになった。

 継母とベルナルドは、顔を真っ青にして、その場に崩れ落ちた。
 彼らの陰謀は、完全に暴かれたのだ。


 後日、侯爵から事の顛末が明かされた。

「実は……最近のソウタの優秀さを見て、私がソウタに家を継がせたいと言い始めたんだ……」

 父親は、まさかこんなことになるとは思わなかったと、申し訳なさそうに語った。

 ソウタの活躍は侯爵の心を動かし、嫡男である彼に再び期待を抱かせたのだ。

 それを知った継母とベルナルドが、焦り、自作自演でソウタを陥れようとしたらしい。

 ソウタは真実を知り、心底うんざりしたように溜息をつく。

「はぁ……お騒がせな家族だよ、本当に」

 そう言って、肩をすくめたソウタ。
 その顔には、呆れと、そしてどこか諦めのような感情が浮かんでいた。

 しかし、ソウタの心の中には、いつもの彼らしくない、複雑な思いが渦巻いていた。

(僕、もしかしたら、家族と仲良くできるかもしれないって……無意識に、少し期待してたのかな……)

 自分でも気づかないうちに、家族からの愛情を求めていたのかもしれない。

 その淡い期待が裏切られたことに、ソウタはらしくなく、少し落ち込んでいた。

 その様子を見て、ルースがそっと隣に寄り添った。
 彼は、ソウタの繊細な感情の動きを、敏感に察していた。

「ソウタ……私が、ずっとそばにいて君を守るよ」

 その声は、深い愛情と温かい安堵に満ちていた。
 ルースの言葉は、ソウタの心にそっと寄り添うように響いた。

 ソウタは、ルースの言葉を聞き、顔を上げた。
 真剣な眼差しと温かい声に、彼の心はじんわりと温かくなるのを感じる。

 家族に裏切られた寂しさが、ルースの存在によって、少しずつ癒されていく。

(ああ……そうか。僕には、ルースがいるんだな……)


 毒殺容疑の一件で、ソウタの継母と異母弟であるベルナルドは、帝国騎士団によって逮捕された。

 フランゼ家は、このスキャンダルによって、一時的に混乱に陥った。

 しかし、ソウタの父である侯爵は、この一件を機に、ソウタの優秀さを再認識した。

 そして、悩んだ末、侯爵はソウタに、侯爵家の後継者となることを正式に打診した。

「はあ?僕が後継者……?」

 ソウタは、侯爵の言葉に、心底面倒くさそうな顔をした。

 彼にとって、侯爵家を継ぐことは、煩わしい責務が増えるだけで、メリットがあるとは到底思えなかったのだ。

 しかし、ソウタはすぐに考え直した。

(待てよ……侯爵になれば、色々な面で楽ができるし、生き残りやすくなるのでは?)

 ソウタの頭脳は、瞬時に自身の「生存戦略」に有利な点を計算した。

 侯爵としての立場は、彼の安全を確保するための、強力な後ろ盾となるだろう。

「……分かりました。お受けします」

 ソウタは、侯爵の打診を承諾した。
 彼の顔には、面倒くささから一転、どこか乗り気な表情が浮かんでいた。


 侯爵家の後継者となったソウタは、多忙な日々を送るようになった。

 しかし、ふと、あることに気づいた。最近、彼のもとへ届く縁談の手紙が、ぱったりと来なくなったのだ。

(おかしいな……後継者になったら、もっと手紙が舞い込むと思ってたのに。まあ、別にいいけど)

 ソウタは、不思議に思いながらも、深く考えることはなかった。

 縁談は面倒だと考えていたソウタにとっては、むしろ好都合だったからだ。

 しかし、その裏では、ルースが暗躍していた。
 ルースは、ソウタがトーナメントで優勝した直後から、ソウタのもとに届くはずだった縁談を、全て水面下でねじ伏せていたのだ。

 そして、ルースは、ソウタがルースにベタ惚れであるという噂を、学園内だけでなく、貴族社会にまで広めていた。

 ルースは、自分の計画が順調に進んでいることに、ほくそ笑んだ。
 これで、ソウタは完全に自分のものになる。

 そんな中、ソウタは、友人であるオリオンが最近元気がないことが気がかりだった。
 オリオンは、ソウタの前では明るく振る舞おうとするが、その瞳の奥には、影が差しているように見えた。

 ある日、ソウタは、オリオンの婚約相手の家がレイエス家だと知った。

 その名前を聞いた瞬間、ソウタの頭の中に、原作の記憶が蘇った。

(レイエス家……確か、原作では、皇帝派のふりをしながら、実は貴族派のスパイだったはずだ)

 ソウタの脳裏に、原作の重要情報が閃いた。
 レイエス家は、表向きは皇帝派に属しているが、裏では貴族派と通じ、皇帝派の情報を貴族派に流していたのだ。

 ソウタの心臓が、ドクリと鳴った。

(オリオンの婚約者が、そんな危険な家の人間だなんて……!
 オリオンは、僕の大切な親友だ。絶対に幸せになってほしい……!)

 ソウタは、オリオンの幸せを心から願った。
 彼にとって、オリオンは、この世界に来て初めてできた、本当に信頼できる友人だった。

(何とかして、この婚約を無効にできないか……)

 ソウタは、オリオンの婚約を無効にするための方法を考え始めた。

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