【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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32話 皇太子とお茶会

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 オリオンと一緒に働けることになり、ソウタは上機嫌だった。

 新しい仕事への期待と、友との再会に心が弾む。

 皇宮へと出勤したソウタは、さっそく皇太子であるルースの執務室へと呼び出された。
 仕事の話だろうと資料を手に部屋に入ると、ルースは玉座からソウタを見つめ、意外な言葉を口にした。

「ソウタ。仕事の前に、一緒にお茶でもどうだ?」

 ルースの言葉に、ソウタは一瞬、眉を寄せた。

(え……上司とお茶なんて、めんどくさいな……)

 彼の頭の中には、堅苦しい会話と、退屈な時間が浮かんだ。

 しかし、すぐに別の考えが脳裏をよぎる。

(いや待てよ……皇宮のお茶会なら、きっと美味しいお茶菓子があるはずだ!)

 ソウタの表情は、たちまち明るくなった。
 美味しいものには目がないソウタにとって、それは抗いがたい誘惑だった。

「はい! 喜んで!」

 ソウタは、満面の笑みで即座に了承した。

 皇太子ルースは、そんなソウタのコロコロと変わる表情をじっと見ていた。

 眉をひそめたかと思えば、すぐに破顔するソウタの様子に、ルースは内心ご機嫌になった。

(やはり……私といると、私への恋心が痛むのだろう……だが、それでも私と一緒にお茶が飲めることが、ソウタにとっては嬉しいに違いない……)

 ルースは、またもや自分の都合の良いようにソウタの感情を解釈し、

 その「愛」を確認できたことに満足していた。

 ソウタとルースは、執務室に用意された小さなテーブルで、向かい合ってお茶を飲んでいた。

 目の前には、彩り豊かなお茶菓子が並んでいる。

(そういえば、ルースと二人きりになるのは、ルースが平民だった時以来だな……)

 ソウタは、温かいカップを手に、しみじみと思った。

 皇太子となったルースは、以前よりもずっと威厳が増し、その存在感は圧倒的だ。
 しかし、こうして二人で向かい合っていると、どこか懐かしいような、不思議な感覚がした。

 ルースは、ソウタの様子をじっと見つめながら、優しく尋ねた。

「ソウタ。補佐官としての仕事は、大変じゃないか?」

 ソウタは、にこやかに答えた。

「いえ、皇太子殿下のおかげで、楽しくやれております!」

 ソウタの言葉に、ルースは満足そうに微笑んだ。

「それは良かった。これからも、自分の心を大切にしてくれ」

 ルースは、ソウタが自分への「恋心」を抱いていると信じているため、その感情に無理をさせないよう、気遣いの言葉をかけたのだ。

 ソウタは、ルースの言葉に深々と頭を下げた。

 そして、お茶を飲みながら、ルースがよく言う「自分の心を大切に」という言葉の意味について、考えを巡らせた。

(殿下の言う「自分の心を大切に」って、どういう意味なんだろう……?もしかして、もっとサボってもいいってことかな?)

 ソウタの頭の中には、仕事の量を減らして、もっとのんびり過ごす自分の姿が浮かんだ。

 それは、彼にとって、まさに「心を大切にする」ことだった。

 ソウタは、その解釈に納得すると、優しく微笑みながら、ルースに向かって言った。

「ありがとうございます、殿下! 自分の心を大切にします!」

 ソウタの純粋な笑顔は、ルースの心を強く揺さぶった。

 ルースは、その微笑みを見た瞬間、胸がドキドキと高鳴るのを感じた。

(ああ……ソウタは、本当に私を想ってくれているのだな……)

 ルースは、ソウタの言葉と笑顔を、自分への深い愛情の証だと確信した。


 ソウタは自分の顔を見つめてぼんやりしているルースに、優しく声をかけた。

「殿下? どうかされましたか?」

「……はっ!」

 ソウタの声に、ルースは我に返った。
 ソウタの笑顔にドキドキしていたことを悟られないよう、ルースは話をそらすように、目の前にあった銀色のトレイに乗せられたケーキを、ソウタの前に差し出した。

「これは、帝都で有名なケーキ屋に特別に作らせた高級チョコケーキだ。ソウタが甘いものが好きだと聞いたからな。試してみてくれ」

 その高級チョコケーキの上には、貴重な真っ赤なベリーが乗せられていた。

 その色合いは、ルースの燃えるような赤い瞳を思わせる。

 このケーキが、自分の容姿をイメージして作られていることを知っているのは、ルースだけだ。

 ソウタに、その隠された意味に気づいてほしいと願いながら、ルースはソウタにケーキを勧めた。

 ソウタは、ケーキに込められたルースの想いには気づかず、ただ高級チョコケーキの豪華さに目を輝かせた。

「わあ、美味しそう!」

 ソウタは、嬉しそうにフォークを手に取り、一口食べた。とろけるようなチョコレートの甘さと、ベリーの甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。

「美味しいです、殿下!これは絶品ですね!」

 ソウタは、心から満足したように微笑んだ。

 自分の容姿をモチーフにしたケーキを、無邪気に、そして心から「美味しい」と喜んで食べるソウタを見て、ルースはご機嫌になった。

「そんなに気に入ったのなら、まだある」

 ルースは、優しく言いながら、もう一つケーキを用意しようとした。

 すると、ソウタは、ふと何かを思い出したように、心の中で呟いた。

 (そういえば、オリオンが少しやつれていて可哀想だったな……)

 ソウタは、オリオンのやつれた顔を思い出し、胸が締め付けられるような気持ちになった。

「ありがとうございます、殿下! これも頂いてもよろしいでしょうか?」

 ソウタは、満面の笑みでルースに尋ねた。

 ソウタの言葉を聞いたルースは、そんなに自分イメージのケーキが好きなのかと、有頂天になった。

 彼の頭の中には、ソウタがケーキを持ち帰って、自分を思い浮かべながら幸せそうに食べる想像が広がる。

 ルースは、満面の笑みでお茶を飲み、ソウタへの愛おしさを噛み締めた。そして、さらにある思惑を巡らせる。

(よし……ソウタがこのケーキを持ち帰ってどのように食べるのか、後でレオ・ロウに観察させて報告してもらおう)

 ルースの心の中では、ソウタへの執着が、密かに膨らんでいく。

 二人の間には、それぞれの解釈に基づいた、幸せな時間が流れていった。

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