33 / 68
33話 忍び寄る視線
皇太子ルースにお礼を言い、ソウタは足取り軽く補佐官室へ向かった。
そこには、すでにオリオンが着席し、渡された資料に目を通している。
「オリオン!おはよう!」
ソウタが声をかけると、オリオンは顔を上げ、少しやつれた顔に優しい笑みを浮かべた。
「おはよう、ソウタ君。今日は予定よりゆっくりだったけど、どうしたんだい?」
ソウタは、嬉しそうに答えた。
「ああ、それがね、皇太子殿下に呼ばれて、一緒にお茶を飲んできたんだ」
オリオンは、ソウタの言葉を聞いた瞬間、ルースが記憶をなくしてもソウタに惹かれていることにすぐに気づいた。
あの皇太子が、わざわざ仕事を中断してソウタとお茶を飲むなど、尋常ではない。
オリオンの胸には、驚きと、そしてソウタへの特別な感情が交錯し、複雑な気持ちになる。
「そうなんだ……」
オリオンは、それ以上何も言わず、ただ静かに微笑んだ。
ソウタは、そんなオリオンの心情には気づかず、手に持っていた箱を差し出した。
「これ、君の分だよ!皇太子殿下が出してくれた高級チョコケーキなんだけど、すごく美味しいから、オリオンも食べてみて!」
オリオンは、ソウタが差し出した箱の中を見て、驚きに目を見開いた。
「これは……!帝都で絶大な人気を誇る、あのケーキ屋のものじゃないか!何ヶ月も前から予約しないと手に入らなくて……僕も一度しか食べたことがないんだ!」
オリオンは、その希少なケーキに、心から驚き、そして喜んだ。
ソウタは、オリオンの反応に、少し得意げになった。
「そんなに人気なの?知らなかったな。じゃあ、またお茶に誘ってもらえないかな……」
ソウタは、美味しいケーキをまた食べたいという純粋な気持ちで、小さく呟いた。
オリオンは、差し出されたケーキを前に、躊躇した。
「でも、こんな貴重なケーキ、僕が受け取るわけにはいかないよ」
ソウタは、オリオンの遠慮を、彼がまだ心を完全に開いていないからだと解釈し、優しく笑いかけた。
「いいから、いいから! 最近、色々大変だっただろう? 甘いものでも食べて、元気出してよ」
ソウタの温かい優しさに、オリオンは胸を打たれた。
「ソウタ君……君は本当に……」
オリオンは、それ以上言葉を続けることができなかった。
ソウタの深い友情と優しさに、ただ感動するばかりだった。
二人の間には、温かな空気が漂い、深い絆が感じられる。
しかし、その様子を、補佐官室の影から、レオ・ロウがこっそりと観察していた……。彼の脳裏には、先ほどのルースの命令がこだましていた。
「ソウタがこのケーキを持ち帰ってどのように食べるのか、レオ・ロウは観察してきなさい」
レオ・ロウは、皇太子の命を忠実に実行すべく、ソウタの行動を注意深く見守っていた。
――
帝国皇宮、皇太子執務室。
ルースは、レオ・ロウを執務室に呼び出した。
彼の表情は、期待に満ちている。
「レオ・ロウ。ソウタは、例のチョコケーキをどのような様子で食べた?詳細に報告しろ」
ルースの問いに、レオ・ロウはしっかりとした口調で答えた。
「はい、殿下。ソウタ殿は、チョコケーキを同僚であり親友であるオリオン殿に、笑顔で渡していました!」
その報告を聞いた途端、ルースは勢いよく席を立ち上がった。彼の顔には、怒りがはっきりと浮かんでいる。
「なんだと?! あのチョコケーキを、同僚のオリオンにだと!?」
突然怒鳴り出したルースに、レオ・ロウは心底驚き、すぐにその場に膝まずいた。
「はい! この報告に嘘偽りはございません、殿下!」
レオ・ロウのそばで一部始終を聞いていたユノ・セリウスは、額に手を当て、呆れたようにため息をついた。彼の予測通りの展開だ。
ルースは、ソウタが自分の容姿をモチーフにしたチョコケーキを、他の男に喜んで分け与えたという事実に、理解不能な怒りに震えていた。
「どうしてあんなに気に入っていたチョコケーキを、他人に喜んで渡してしまうんだ……!?」
ルースの瞳は、怒りで赤く燃えている。
彼は、ソウタの行動が、「ソウタは自分を愛している」という確信を揺るがすことに、激しく苛立っていた。
「すぐに、オリオンという者をここに呼び出せ! レオ・ロウ、ユノ・セリウス、急げ!」
ルースは、レオ・ロウとユノ・セリウスに、怒りを込めて命令した。
ユノ・セリウスは、オリオンを呼びに行く途中、レオ・ロウの腕を肘で軽くつつき、ひそひそと囁いた。
「レオ・ロウ、どうしてあんな報告をしたんですか。もしオリオン殿の家が取り潰しになったら、貴方のせいですよ」
ルースのソウタに対する複雑な感情を知らないレオ・ロウは、納得がいかない様子で言った。
「俺は観察したことをそのまま言っただけじゃないか。なんで皇太子殿下はあんなに怒るんだ?」
レオ・ロウは、ルースの理不尽な怒りに困惑していた。
ユノ・セリウスは、そんなレオ・ロウの素朴な疑問に、呆れながらも真剣な声で教えた。
「レオ・ロウ……皇太子殿下は、ソウタ様のことが好きなんですよ」
その情報に、レオ・ロウは目を見開いた。
「なっ……!?ソウタ殿が皇太子殿下を好きだという噂は聞いていたが……まさか、両思いだったとは知らなかったぞ!」
レオ・ロウは、長年の経験で多くの修羅場を潜り抜けてきたが、この情報には純粋に驚きを隠せないでいた。
ユノ・セリウスは、どこか悲しそうな表情で続けた。
「……殿下ご本人も、まだ完全に自覚していないのでしょう。それに、たとえ自覚したところで、彼はこの帝国の皇帝となる身。その恋が、叶うことは……」
ユノ・セリウスの言葉は、重く響いた。
レオ・ロウもまた、その言葉を聞いて、黙り込んだ。
皇太子という立場が、どれほどの重責を伴うか、彼ら近衛兵は誰よりも理解していたからだ。
あなたにおすすめの小説
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
推しの運命を変えるため、モブの俺は嫌われ役を演じた
月冬
BL
乙女ゲームの世界に転生した俺は、ただのモブキャラ。
推しキャラのレオンは、本来なら主人公と結ばれる攻略対象だった。
だから距離を置くつもりだったのに――
気づけば、孤独だった彼の隣にいた。
「モブは選ばれない」
そう思っていたのに、
なぜかシナリオがどんどん壊れていく。
これは、
推しの未来を知るモブが、運命を変えてしまう物語。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
【第1部完結しました。第2部更新予定です!】
処刑された記憶とともに、BLゲームの悪役会計に転生したことに気付いた主人公・カイル。
処刑されないために、チャラ男の仮面を被り、生徒会長に媚びを売り、能力を駆使して必死に立ち回る。
だが、愛された経験がない彼は、正しい人との距離感を知らない。
無意識の危うい言動は、生徒会長や攻略対象、さらには本来関わらないはずの人物たちまで惹きつけ、過剰な心配と執着、独占欲を向けられていく。
——ただ生き残りたいだけなのに。
気づけば彼は、逃げ場を失うほど深く、甘く囲われていた。
*カクヨム様でも同時掲載中です。