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34話 静かに燃える火種
しおりを挟むオリオンは、ソウタから渡された高級チョコケーキを一口食べると、その美味しさに顔を綻ばせた。
ソウタとオリオンは、ケーキを囲んで談笑していた。学校での思い出話や、これからの仕事について、温かい空気が二人の間に流れる。
そこに、レオ・ロウとユノ・セリウスが補佐官室を訪れた。
レオ・ロウは、心なしか申し訳なさそうな表情でオリオンに告げた。
「オリオン殿。皇太子殿下が、君だけを執務室に呼んでいる」
突然の呼び出しに、オリオンは少し困惑した。
「私だけ、ですか……?」
ソウタは、心の中で考えた。
(今度はオリオンがお茶会に呼ばれたのかな? 僕があげたチョコケーキは、余計だったかな……)
ソウタは、またお節介をしてしまったと、少し後悔していた。
オリオンは、ソウタにケーキのお礼を言い、皇太子に会うため席を立った。
「ソウタ君、ありがとう。また後で」
ソウタは、オリオンに返事をして、手を振った。
「うん! みんな、またね」
帝国皇宮、皇太子執務室。
執務室に入ると、オリオンは玉座に座るルースに、丁寧な挨拶をした。
「皇太子殿下、オリオン、ただいま参りました」
ルースは、その挨拶に冷たく答えた。
彼の表情は、先ほどまでのご機嫌な様子とは打って変わって、不機嫌そのものだ。
どのような用件で呼ばれたのか、オリオンは緊張した。何か、自分に落ち度があったのだろうか。
しかし、ルースの口から飛び出したのは、予想外の質問だった。
「オリオン。ソウタとは、どのようにして親友になった? それと、ソウタの好きな物は知っているか?」
ルースは、オリオンを呼び出したにもかかわらず、ソウタのことばかり質問してきた。
その問いは、ソウタへの嫉妬と執着が滲み出ている。
オリオンは困惑しながらも、事実を答えた。
「軍事学校で、彼がアタッカーからサポーターに転向した際、私が勉強を教えるようになりまして……それを通して、仲良くなりました。ソウタ君は、甘いもの全般が好きです」
オリオンの言葉を聞いたルースは、ムッとした表情のまま、ソウタがただ友人思いの良い子なのだと不本意ながら納得した。
「……わかった。下がっていい」
ルースは、冷たく言い放ち、オリオンに退室を促した。
オリオンは、執務室を出た直後、全身の緊張がほどけるのを感じ、大きく息を吐き出した。
皇太子の不機嫌な雰囲気に、ただでさえやつれた体が、さらに疲弊したようだった。
一緒に出てきたユノ・セリウスが、そんなオリオンの様子を見て、からかうように声をかけた。
「オリオン殿。貴方も大変ですね」
オリオンは、ソウタとルースの間の複雑な関係を理解しているため、力なく首を振った。
「いいえ……」
すると、ユノ・セリウスは、意味深に笑みを浮かべた。
「ライバルが皇太子で」
その言葉に、オリオンは凍りついた。
ユノ・セリウスは、オリオンのソウタへの感情に気づいている。
オリオンは、ユノ・セリウスを見つめ、心の中で苦笑した。
(この人は……本当に目ざといな)
ソウタを巡る三角関係は、知られざる場所で、静かに、しかし確実に深まっていた。
――
自分のせいでオリオンが皇太子に呼び出されているなど、ソウタは露ほども知らなかった。
彼は、補佐官室の自分の席で、心ゆくまでくつろいでいた。
オリオンが面倒な仕事を率先して引き受けてくれるおかげで、ソウタの仕事は驚くほど少ない。
以前よりもはるかに快適な日々を過ごせていることに、ソウタはご満悦だった。
(殿下も「休んでいい」って言ってたしな……)
ソウタは、ルースの「自分の心を大切にしろ」という言葉を、都合よく「もっとサボっていい」という意味だと解釈していた。
明日は特にやることもないし、どうしようかと考えを巡らせる。
(そうだ、明日は市街地にいるライエルにでも会いに行ってみようかな)
ソウタは、ライエルからの手紙を思い出し、ふとそんなことを考えた。
そんなことをぼんやり考えていると、オリオンが補佐官室に戻ってきた。思ったよりも早い帰りに、ソウタは少し驚いた。
「オリオン、おかえり! どんな用件だったんだ?」
ソウタが尋ねると、オリオンは少し困ったような顔をして笑った。
「ああ、ちょっとしたことだよ。大したことじゃない」
オリオンは、ルースから受けた理不尽な質問を話す気にはなれなかった。
ソウタに余計な心配をかけたくなかったし、あの皇太子の執着を、ソウタが知る必要はないと思ったからだ。
ソウタは、オリオンの言葉に特に疑問を抱かず、明日出かけることを告げた。
「そっか。あのさ、オリオン。明日、行きたい所があるんだけど……仕事、任せてもいいかな?」
ソウタに頼られて、オリオンの顔には喜びの表情が浮かんだ。彼は笑顔で快諾した。
「もちろんだよ! 任せてくれ、ソウタ君」
オリオンは、ソウタの頼みを引き受けることを、むしろ光栄に思っていた。
(有能で、本当に良い友人を持ったな!)
ソウタは、頼りになるオリオンの姿を見て、心の中で満ち足りた思いを噛み締めた。
彼の周りには、いつも彼を支え、助けてくれる人々がいた。
そしてソウタは、そのことに何の疑いもなく、ただただ感謝していた。
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