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33話 忍び寄る視線
しおりを挟む皇太子ルースにお礼を言い、ソウタは足取り軽く補佐官室へ向かった。
そこには、すでにオリオンが着席し、渡された資料に目を通している。
「オリオン!おはよう!」
ソウタが声をかけると、オリオンは顔を上げ、少しやつれた顔に優しい笑みを浮かべた。
「おはよう、ソウタ君。今日は予定よりゆっくりだったけど、どうしたんだい?」
ソウタは、嬉しそうに答えた。
「ああ、それがね、皇太子殿下に呼ばれて、一緒にお茶を飲んできたんだ」
オリオンは、ソウタの言葉を聞いた瞬間、ルースが記憶をなくしてもソウタに惹かれていることにすぐに気づいた。
あの皇太子が、わざわざ仕事を中断してソウタとお茶を飲むなど、尋常ではない。
オリオンの胸には、驚きと、そしてソウタへの特別な感情が交錯し、複雑な気持ちになる。
「そうなんだ……」
オリオンは、それ以上何も言わず、ただ静かに微笑んだ。
ソウタは、そんなオリオンの心情には気づかず、手に持っていた箱を差し出した。
「これ、君の分だよ!皇太子殿下が出してくれた高級チョコケーキなんだけど、すごく美味しいから、オリオンも食べてみて!」
オリオンは、ソウタが差し出した箱の中を見て、驚きに目を見開いた。
「これは……!帝都で絶大な人気を誇る、あのケーキ屋のものじゃないか!何ヶ月も前から予約しないと手に入らなくて……僕も一度しか食べたことがないんだ!」
オリオンは、その希少なケーキに、心から驚き、そして喜んだ。
ソウタは、オリオンの反応に、少し得意げになった。
「そんなに人気なの?知らなかったな。じゃあ、またお茶に誘ってもらえないかな……」
ソウタは、美味しいケーキをまた食べたいという純粋な気持ちで、小さく呟いた。
オリオンは、差し出されたケーキを前に、躊躇した。
「でも、こんな貴重なケーキ、僕が受け取るわけにはいかないよ」
ソウタは、オリオンの遠慮を、彼がまだ心を完全に開いていないからだと解釈し、優しく笑いかけた。
「いいから、いいから! 最近、色々大変だっただろう? 甘いものでも食べて、元気出してよ」
ソウタの温かい優しさに、オリオンは胸を打たれた。
「ソウタ君……君は本当に……」
オリオンは、それ以上言葉を続けることができなかった。
ソウタの深い友情と優しさに、ただ感動するばかりだった。
二人の間には、温かな空気が漂い、深い絆が感じられる。
しかし、その様子を、補佐官室の影から、レオ・ロウがこっそりと観察していた……。彼の脳裏には、先ほどのルースの命令がこだましていた。
「ソウタがこのケーキを持ち帰ってどのように食べるのか、レオ・ロウは観察してきなさい」
レオ・ロウは、皇太子の命を忠実に実行すべく、ソウタの行動を注意深く見守っていた。
――
帝国皇宮、皇太子執務室。
ルースは、レオ・ロウを執務室に呼び出した。
彼の表情は、期待に満ちている。
「レオ・ロウ。ソウタは、例のチョコケーキをどのような様子で食べた?詳細に報告しろ」
ルースの問いに、レオ・ロウはしっかりとした口調で答えた。
「はい、殿下。ソウタ殿は、チョコケーキを同僚であり親友であるオリオン殿に、笑顔で渡していました!」
その報告を聞いた途端、ルースは勢いよく席を立ち上がった。彼の顔には、怒りがはっきりと浮かんでいる。
「なんだと?! あのチョコケーキを、同僚のオリオンにだと!?」
突然怒鳴り出したルースに、レオ・ロウは心底驚き、すぐにその場に膝まずいた。
「はい! この報告に嘘偽りはございません、殿下!」
レオ・ロウのそばで一部始終を聞いていたユノ・セリウスは、額に手を当て、呆れたようにため息をついた。彼の予測通りの展開だ。
ルースは、ソウタが自分の容姿をモチーフにしたチョコケーキを、他の男に喜んで分け与えたという事実に、理解不能な怒りに震えていた。
「どうしてあんなに気に入っていたチョコケーキを、他人に喜んで渡してしまうんだ……!?」
ルースの瞳は、怒りで赤く燃えている。
彼は、ソウタの行動が、「ソウタは自分を愛している」という確信を揺るがすことに、激しく苛立っていた。
「すぐに、オリオンという者をここに呼び出せ! レオ・ロウ、ユノ・セリウス、急げ!」
ルースは、レオ・ロウとユノ・セリウスに、怒りを込めて命令した。
ユノ・セリウスは、オリオンを呼びに行く途中、レオ・ロウの腕を肘で軽くつつき、ひそひそと囁いた。
「レオ・ロウ、どうしてあんな報告をしたんですか。もしオリオン殿の家が取り潰しになったら、貴方のせいですよ」
ルースのソウタに対する複雑な感情を知らないレオ・ロウは、納得がいかない様子で言った。
「俺は観察したことをそのまま言っただけじゃないか。なんで皇太子殿下はあんなに怒るんだ?」
レオ・ロウは、ルースの理不尽な怒りに困惑していた。
ユノ・セリウスは、そんなレオ・ロウの素朴な疑問に、呆れながらも真剣な声で教えた。
「レオ・ロウ……皇太子殿下は、ソウタ様のことが好きなんですよ」
その情報に、レオ・ロウは目を見開いた。
「なっ……!?ソウタ殿が皇太子殿下を好きだという噂は聞いていたが……まさか、両思いだったとは知らなかったぞ!」
レオ・ロウは、長年の経験で多くの修羅場を潜り抜けてきたが、この情報には純粋に驚きを隠せないでいた。
ユノ・セリウスは、どこか悲しそうな表情で続けた。
「……殿下ご本人も、まだ完全に自覚していないのでしょう。それに、たとえ自覚したところで、彼はこの帝国の皇帝となる身。その恋が、叶うことは……」
ユノ・セリウスの言葉は、重く響いた。
レオ・ロウもまた、その言葉を聞いて、黙り込んだ。
皇太子という立場が、どれほどの重責を伴うか、彼ら近衛兵は誰よりも理解していたからだ。
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