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40話 花の祭り
しおりを挟む未確認生物との交戦と、その後の白髪の青年による襲撃、そしてソウタの予想外の態度により、一行の間には重苦しく気まずい空気が漂っていた。
特に、ソウタに無視され、しょんぼりと一人馬に乗る皇太子ルースの存在が、その空気を一層重くしていた。
この気まずさを何とかしたいと思ったユノ・セリウスは、ふと故郷の話題を切り出した。
「そういえば、私たちの故郷ではもうすぐ花の祭りがあります」
ユノ・セリウスの言葉に、オリオンが興味を引かれたように尋ねた。
「花の祭り、ですか? どんな祭りなのですか?」
オリオンの問いに、レオ・ロウが答えた。
「この花の祭りではな、大切な人に自分の好きな花を贈るんだ」
その説明を聞き、ユノ・セリウスは楽しそうに昔を振り返った。
「昔、この時期にレオ・ロウと大喧嘩したことがありました。その時、レオ・ロウが泣きながら花を渡して謝ってくれたので、仲直りしました」
ユノ・セリウスの言葉に、レオ・ロウが即座に反論した。
「おいおい! それはずっと子供の頃の話だろう! その後に喧嘩した時は、ユノが花を渡しながら謝ってきたから、許してやったんだ!」
二人は、まるで漫才のように言い争い始め、その場を騒がせた。
オリオンは、そんな二人のやり取りを見て、微笑んだ。
「昔から仲が良いんですね」
「ただの腐れ縁だ!」
レオ・ロウとユノ・セリウスは、そう言いながら、声を上げて笑った。
彼らの昔からの親しい関係性が、場の空気を少し和ませていく。
その賑やかな会話を聞きながらも、ルースとソウタは依然として無言だった。
ソウタは少し先を、ルースはその後ろを、それぞれ別の思いを抱いて進んでいた。
ルースは、馬に揺られながら、レオ・ロウたちの話を聞いていた。
(花……ソウタに花を贈れば、機嫌が直るかもしれない……)
ソウタの怒りの理由を正確には理解していないルースだが、花の祭りの話が、ソウタの機嫌を直すための良い機会となるかもしれないと、わずかな希望を見出したのだった。
――
馬を走らせ目的地へ向かう皇太子ルースたちは、ついにレオ・ロウとユノ・セリウスの故郷へと到着した。
街の門をくぐると、そこは一変して、笑い声と色とりどりの花で溢れかえっていた。
どこを見ても鮮やかな花々が飾られ、人々が行き交い、賑やかで美しい。
(この街になんの被害も及ばなくて、本当に良かった……)
ソウタは、心から安堵し、周囲の光景に目を奪われた。
レオ・ロウとユノ・セリウスの顔を見ると、街の知り合いたちが次々と声をかけてくる。
そして、そこに皇太子がいることに気づいた人々で、街は少し騒がしくなった。
「美しい街ですね」
ルースは、周囲からの視線に応えながら、優雅に微笑んだ。
その憂いを帯びた美しい皇太子に、街の女の子たちが歓声をあげる。
ユノ・セリウスの家は子爵家で、この界隈では一番綺麗な屋敷だ。
一行は、そこで休憩をとることにした。
ユノ・セリウスの家に向かう途中、ルースは露店に並ぶ色とりどりの花を必死で眺めていた。
どの花をソウタに渡そうか、真剣に悩んでいる。
(白い花がいいだろうか? いや、青い花が好きかもしれない……黄色い花か? いや、やはり情熱的な赤か……)
傍らでその様子を見ていたレオ・ロウとユノ・セリウスは、心の中でルースを応援していた。
一方、オリオンは紫色の花を手に取っていたが、それをソウタに渡すべきか、迷っている様子だった。
ユノ・セリウスの子爵家に到着すると、それぞれ客室を用意してもらい、皆は休息をとることにした。
真夜中。
ソウタは、日中の激戦と、ルースへの複雑な感情で、なかなか眠りにつけずにいた。
外の空気を吸おうと、客室のバルコニーに出る。
ふと隣の部屋のバルコニーを見ると、そこにはルースが立っていた。
ソウタはなんとなく気まずくて、軽く会釈すると部屋に戻ろうとした。
「ソウタ」
しかし、ルースに呼び止められる。
ルースは身軽にバルコニーの柵を乗り越え、音もなくソウタの隣に着地した。
そして、その手に持っていた真っ赤な花を、ソウタに差し出した。
ソウタは、その燃えるような赤い花を受け取りながら、静かに問いかけた。
「殿下は……僕がなぜ怒っているか、ご存知ですか?」
ルースは、差し出した花が受け取られたことに安堵しつつも、ソウタがなぜ不機嫌なのか、その本当の理由は分からなかった。
「すまない……。だが、許して欲しい」
ルースは、ソウタがまだ怒っていることに戸惑いながらも、謝罪の言葉を口にした。
しかし、ソウタは突然、声を荒げた。
「僕が怒っているのは……殿下が、自分の身を大切にしないからです!」
ソウタの声は、怒りと共に、わずかに震えていた。
その感情の爆発に、ルースは驚き、目を見開いた。
ソウタは、ルースの胸を叩くように言葉を続けた。
「僕には『自分の心を大切にしろ』と言うくせに、なぜ殿下は自分のことを大切にしないのですか!?貴方が傷ついたら、悲しむ人がどれだけいるか分からないのですか!」
ソウタの言葉は、ルースの胸に突き刺さった。
ソウタが自分をこれほどまでに案じてくれている。その純粋な怒りに、ルースの心は喜びと、同時に申し訳なさで胸が痛んだ。
「ソウタ……」
ルースは、ソウタを強く抱きしめた。
「すまない……本当に軽率だった。もう二度と、そんなことはしない……約束する」
ルースは、ソウタを腕の中に閉じ込めるように、何度も何度も謝罪の言葉を繰り返しながら、強く抱きしめた。
「ルース……」
ソウタは、彼の腕の中で小さく呟き、静かに目を閉じて、その体を抱き締め返した。
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