【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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42話 秘められた企み

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 帝国皇宮。

 最近、ソウタは侯爵邸に戻らず、皇宮内で休暇を取ることが増えていた。

 その理由は、皇太子であるルースが、ソウタのために皇宮内にソウタ専用の素敵な私室を用意してくれたからだ。

 その部屋は、日当たりも良く、窓からはソウタの好きな木々や様々な植物がよく見えた。

 自然の光と緑に囲まれた空間は、ソウタにとって最高の癒しであり、彼はその部屋を心底気に入っていた。

 しかも、その私室には備え付けのキッチンまで完備されていた。

 これにより、ソウタは転生前からの趣味である菓子作りを、時間を気にせず、誰に気兼ねなく行うことができるようになった。

「やったー! これでいつでもお菓子が作れる!」

 ソウタは、新しいキッチンを見て、子供のように喜びの声を上げた。

 実は、この部屋は、ソウタのためにルースが特別に改装を命じたものだった。

 その真の目的は、ソウタの「手作りのクッキー」が食べたいがため。

 ルースは、その甘い誘惑に抗うことができなかったのだ。

「レオ・ロウ、ユノ・セリウス。ソウタが菓子を作り始めたら、私に報告してくれ」

 ルースは、いつものようにレオ・ロウとユノ・セリウスを呼び出し、命令を下した。

 その命令を受けた近衛兵の二人は、すぐにルースの目論見に気づいた。

 どうせ殿下は、ちょうどお菓子ができる頃を見計らって、ソウタの私室を訪問するつもりなのだろう。

 レオ・ロウとユノ・セリウスは、皇太子のソウタへの執着心と、そのための行動力に、もはや呆れるというよりは畏敬の念すら感じ始めていた。

(殿下、そこまでしますか……)

 彼らは、頭の中で複雑な思いを巡らせながらも、与えられた任務を遂行するため、密かにソウタの私室に気を配り始めたのだった。

 ――

 帝国皇宮。
 ソウタの私室前の庭園。

 レオ・ロウとユノ・セリウスは、ルースの命令に従い、ソウタが菓子を作り始めるのを報告するため、私室前の庭園の茂みに身を潜めていた。

「まさか、ソウタ殿が菓子作りするのを待つために、こんなところに隠れる日が来るなんてな……」

 レオ・ロウは、自嘲気味に小さく笑った。

 日中の陽光が降り注ぐ中、草木の陰に隠れる自分たちの姿が、なんとも滑稽に見えた。

 ユノ・セリウスは、冷静に答える。

「以前から殿下はソウタ様の手作り菓子が食べたいとは仰っていましたが、まさかここまでなさるとは、私も予想外でした」

 二人がしばらく待っていると、ソウタが私室のキッチンで菓子作りの準備を始めたのが見えた。

 小麦粉を計り、卵を割り、手際よく材料を混ぜていく。

 それを見て、レオ・ロウはひそかに喜んだ。任務遂行の時が来たのだ。

 テキパキとクッキーを馴れた動作で作るソウタの姿に、ユノ・セリウスは感心したように目を細めた。

 クッキーを焼き始めるのを確認してからルースに報告しようと考えていた二人。

 その時だった。

「まだ行かないのか?」

 レオ・ロウの真後ろから、ルースの声が聞こえた。

 その声に、レオ・ロウとユノ・セリウスは驚き、思わず大きな音を立ててしまった。

 ガサリ、と茂みが大きく揺れる。

 その物音に気づいたソウタが、訝しげに窓を開けて外を確認した。

 しかし、庭園は静かで、鳥のさえずりしか聞こえない。

「……気のせいかな?」

 ソウタは首を傾げながら、クッキー作りの作業に戻っていった。

「驚かせないでください、殿下!」

 レオ・ロウは、小声でルースを咎めた。心臓が飛び出しそうになったのだ。

「驚かせるつもりはなかった……」

 ルースは、まさか二人がそこまで驚くとは思わなかったらしく、しょんぼりと肩を落とす。

「報告しろと言ったのに、なぜここにいらっしゃるのですか?」

 ユノ・セリウスが、半ば呆れたように尋ねた。

 ルースは、少し照れたように視線を逸らし、ごまかすように言った。

「たまたま、庭園を散歩していたら、ソウタが菓子を作る姿が見えたのだ」

(絶対に嘘ですね……待ちきれずに、ご自分で来てしまったんですね……)

 ユノ・セリウスは、顔には出さず、心の中で深いため息をついた。

 皇太子の執着心と食い意地は、今日も健在なようだった。

 ――

 ソウタがクッキーを焼き始めるのを確認し、今度こそとばかりにソウタの私室へ向かおうとするルースを、ユノ・セリウスが慌てて呼び止めた。

「殿下、お待ちください! まだクッキーは焼きあがっていません。今から訪れては不自然です」

 ユノ・セリウスの冷静な指摘に、ルースは素直に立ち止まった。

 彼は少しの間、むずむずとしながら大人しく待つ。

 レオ・ロウは、口裏合わせのために尋ねた。

「そういえば、殿下はどんな口実でソウタ殿の私室を訪れるつもりなのですか?」

 レオ・ロウの問いに、ルースはハッとした。
 あまりにもクッキーへの思いが先行し、そんなことは何も考えていなかったのだ。

 彼は慌てて、もっともらしい口実を考え始めた。

 しかし、ルースの考えがまとまる前に、ソウタがオーブンから焼き上がったばかりのクッキーを取り出す姿が見えた。

 甘く香ばしい匂いが、庭園にまで微かに漂ってくる。

「今度こそ!」

 ルースは、逸る気持ちを抑えきれず、考えるのをやめて一目散にソウタの私室へ向かおうとする。

「殿下!」

 レオ・ロウは、まだどんな口実を使うのか聞いていないので止めようとするが、ルースの動きの方が早く、阻止できない。

 レオ・ロウは叫びながら、その背中を追った。

 ユノ・セリウスもまた、

「まだクッキーを冷ましていないのに……」

 と小さく呟きながら、二人の後を追った。

 ソウタが焼き上がったクッキーを冷まそうとトレイに乗せていると、突然ドアがノックされた。

 ソウタが不思議に思いながらドアを開けると、そこに立っていたのは息を弾ませたルースだった。

「殿下!?」

 ソウタは、突然の訪問に目を丸くした。

 ルースは、ソウタの驚いた顔を見て、少し照れながら言った。

「た、たまたま、この部屋の前を通りかかったら……その、ソウタが菓子を作っているのが見えたから……様子を見に来たんだ」

 ルースの後を追って、息を切らせながらレオ・ロウが到着する。

 彼の額には、冷や汗がにじんでいた。

 ドアの前からでは、ソウタが菓子を作っている姿など、全く見えない。 

 ユノ・セリウスは、その事実に気づき、深く長い溜息をついて額に手を当てた。

 しかし、ソウタはそんな彼らの思惑には全く気づかない。

「ちょうどクッキーを作ったところなんです! よかったら、食べていきませんか?」

 ソウタは、明るい笑顔で三人をもてなし、部屋の中へと招き入れた。

 やっとソウタの手作りクッキーが食べられる。
 ルースは、念願が叶って上機嫌な様子でクッキーを手に取った。

 突然の休日訪問にもかかわらず、嫌な顔一つせず、優しく出迎えてくれるソウタ。

 その温かい心遣いに、レオ・ロウとユノ・セリウスは、心の中で深く感動していた。

 四人は、甘い香りに包まれた部屋で、それぞれ異なる思いを抱きながらも、ソウタの作ったクッキーを楽しく食べたのだった。

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