【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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43話 黒き馬の嫉妬

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 帝国皇宮。

 ソウタは、仕事が忙しくない時は皇宮内にある自身の私室でゆったりと休暇を過ごすようになっていた。
 
 昨日は皇太子ルース、レオ・ロウ、ユノ・セリウスと共にクッキーを食べて楽しく過ごした。
 
 今日は何をして過ごそうかと考えたソウタは、ふと思いつく。

(たまには乗馬の練習でもしに行こうかな……これから馬で移動する時、いつまでも殿下の後ろに乗せてもらうわけにもいかないし……)

 そう決意すると、ソウタは馬のいる厩へと向かった。

 厩に到着すると、ソウタの目に飛び込んできたのは、レオ・ロウの愛馬である栗毛の茶色い馬だった。

 ソウタは親しみを込めてその馬に挨拶をする。

「こんにちは!」

 茶色い馬は、短く可愛らしい鳴き声で応え、ソウタに好意的な仕草を見せた。

 その反応を見て嬉しくなったソウタは、厩の管理人に声をかけた。

「乗馬の練習がしたいんですけど、この茶色い馬に乗ってもいいですか?」

 厩の管理人である騎士は、補佐官であるソウタに恭しく敬礼しながら、丁寧に答える。

「ソウタ様。この馬はレオ・ロウ殿の愛馬ですので、レオ・ロウ殿の許可が必要となります」

 それは当然だと納得したソウタは、今からレオ・ロウにお願いしに行こうと考えていた。

 その時、ナイスタイミングでレオ・ロウがやってきた。

「ソウタ殿、どうかしたのか?」

「レオ兄さん!」

 ソウタは、希望が叶うと喜びに満ちた声でレオ・ロウを呼んだ。

「乗馬の練習がしたいんだけど、この馬に乗せてもらってもいい?」

 レオ・ロウは笑顔で頷き、茶色い馬の手綱をソウタに渡した。

「馬が嫌がらなければ、いつでも乗って構わないよ」

 実はレオ・ロウがこの場にいたのは、ルースに「ソウタの様子を見てくるように」と言われたからだった。

 そんなこととは知らず、ソウタは嬉々として茶色い馬に乗ろうとした。

 しかし、ソウタが茶色い馬に乗ろうとした、その瞬間だった。

 漆黒のルースの愛馬が、まるで不満を訴えるかのように、大きないななき声をあげて激しく暴れ始めた。
 その突然のけたたましい声に、ソウタとレオ・ロウは驚いて飛び上がる。

「どうしたんだ、ノワール!」

 いつもは大人しいはずの漆黒の馬が暴れる姿に、厩の管理人も困惑する。

 漆黒の馬、ノワールは、暴れる勢いのままに柵を飛び越え、ソウタの前にいた茶色い馬を邪魔だとばかりに鼻先で押し退けた。
 そして、「自分に乗りなさい」と言わんばかりの態度で、ソウタの目の前でぴたりと止まった。

 その一連の行動を無言で見ていたレオ・ロウと厩の管理人は、心の中で同時に呟いた。

(……飼い主に似ている……)

 レオ・ロウの茶色い馬と、ユノ・セリウスの白い馬は、まるで呆れたかのように、小さく鼻を鳴らしたのだった。


 皇太子ルースの漆黒の愛馬ノワールが、自分の目の前でぴたりと止まったことに、ソウタは少し驚いた。

 ノワールの黒い瞳は、真っ直ぐにソウタを見つめている。

「乗せてくれるの?」

 ソウタはそう言いながら、恐る恐るノワールの漆黒の毛並みに優しく触れた。

 温かく、なめらかな感触が指先に伝わる。

 ソウタの思いが通じたかのように、ノワールは喜びのいななきをあげた。

 その大きな鳴き声に、ソウタはにこやかに微笑んだ。

「よろしくね、ノワール」

 初めて名前を呼ばれたノワールは、さらに嬉しそうに首を揺らした。

 ソウタは鞍にひらりと乗り込み、馬場へと向かう。

 その様子を感心したように見ていたレオ・ロウは、小さく呟いた。

「あの漆黒の馬まで手懐けてしまうなんて……ソウタ殿はすごいな……」

 そんな中、「報告に戻ってこないから様子を見てきてくれ」とルースに言われたユノ・セリウスが、レオ・ロウの元へやってきた。

 ユノ・セリウスは状況をすぐに察したらしい。

 レオ・ロウは、ユノ・セリウスに不満そうに言った。

「ソウタ殿が俺の馬に乗ろうとしたら、殿下の馬が邪魔をしてきたんだ」

 それを聞いたユノ・セリウスは、呆れたように、しかしどこか面白そうに笑った。

「飼い主にそっくりの馬ですね……」

 ユノ・セリウスはそう言いながら、自分の愛馬である白い馬のたてがみを優しく撫でた。

 白い馬も、まるで同意するように小さく鼻を鳴らした。


 馬場。

 ソウタは、漆黒の馬ノワールに乗りながら、馬の感触を確かめていた。

 最初は、体が大きく真っ黒なノワールがカッコいいけれど、少し怖いと感じていた。
 しかし、走り出してすぐに、ノワールが自分を乗せていることを気遣うように、繊細な足取りで走っていることに気づいた。

(ノワール、君は優しいんだね)

 ソウタは、ノワールの首筋を優しく撫で、誰にも聞こえない声でそっと呟いた。

「ノワール、君は……ルースに似ているね」

 ソウタは、その言葉と共に、優しい微笑みを浮かべた。

 しばらく乗馬の練習をした後、ソウタはノワールやレオ・ロウとユノ・セリウス、そして厩の他の馬たちに別れの挨拶をして、私室に戻った。

 ソウタは、乗馬は少し疲れたけれど、ノワールと仲良くなれて良かったな……と思いながら、心地よい疲労感に包まれて眠りについた。

 

 一方、皇太子の執務室では、レオ・ロウとユノ・セリウスがルースにソウタの今日の様子を報告していた。

「殿下。ソウタ様は乗馬の練習をなさっておられました」

 ユノ・セリウスは、ルースの愛馬であるノワールがレオ・ロウの馬の邪魔をしたことは言わず、ただ事実だけを報告した。

「そして、ノワールに乗って練習なさっておられました」

 ルースはそれを聞いて、途端にご機嫌になった。

「ソウタがわざわざ私の馬を選んで乗ったのか!」

 自分の馬がソウタに選ばれたことに、喜びを隠せないルース。

 レオ・ロウは、さらにルースを喜ばせようと報告を続けた。

「はっ。ノワールは、ソウタ殿に大変懐いておられました」

 しかし、その報告を聞いた途端、ルースの表情は曇った。

 ソウタと仲良くするノワールを想像して、嫉妬でムッとしてしまったのだ。

 レオ・ロウは、心の中で呟いた。

(殿下に喜んで欲しくて、ノワールが懐いていたことを報告したのに……逆に不機嫌になってしまうとは……難しいな……)

 ユノ・セリウスもまた、レオ・ロウに同情の眼差しを向けた。

 皇太子の気分を読むことは、彼らにとって常に至難の業なのだった。


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