44 / 68
43話 黒き馬の嫉妬
しおりを挟む帝国皇宮。
ソウタは、仕事が忙しくない時は皇宮内にある自身の私室でゆったりと休暇を過ごすようになっていた。
昨日は皇太子ルース、レオ・ロウ、ユノ・セリウスと共にクッキーを食べて楽しく過ごした。
今日は何をして過ごそうかと考えたソウタは、ふと思いつく。
(たまには乗馬の練習でもしに行こうかな……これから馬で移動する時、いつまでも殿下の後ろに乗せてもらうわけにもいかないし……)
そう決意すると、ソウタは馬のいる厩へと向かった。
厩に到着すると、ソウタの目に飛び込んできたのは、レオ・ロウの愛馬である栗毛の茶色い馬だった。
ソウタは親しみを込めてその馬に挨拶をする。
「こんにちは!」
茶色い馬は、短く可愛らしい鳴き声で応え、ソウタに好意的な仕草を見せた。
その反応を見て嬉しくなったソウタは、厩の管理人に声をかけた。
「乗馬の練習がしたいんですけど、この茶色い馬に乗ってもいいですか?」
厩の管理人である騎士は、補佐官であるソウタに恭しく敬礼しながら、丁寧に答える。
「ソウタ様。この馬はレオ・ロウ殿の愛馬ですので、レオ・ロウ殿の許可が必要となります」
それは当然だと納得したソウタは、今からレオ・ロウにお願いしに行こうと考えていた。
その時、ナイスタイミングでレオ・ロウがやってきた。
「ソウタ殿、どうかしたのか?」
「レオ兄さん!」
ソウタは、希望が叶うと喜びに満ちた声でレオ・ロウを呼んだ。
「乗馬の練習がしたいんだけど、この馬に乗せてもらってもいい?」
レオ・ロウは笑顔で頷き、茶色い馬の手綱をソウタに渡した。
「馬が嫌がらなければ、いつでも乗って構わないよ」
実はレオ・ロウがこの場にいたのは、ルースに「ソウタの様子を見てくるように」と言われたからだった。
そんなこととは知らず、ソウタは嬉々として茶色い馬に乗ろうとした。
しかし、ソウタが茶色い馬に乗ろうとした、その瞬間だった。
漆黒のルースの愛馬が、まるで不満を訴えるかのように、大きないななき声をあげて激しく暴れ始めた。
その突然のけたたましい声に、ソウタとレオ・ロウは驚いて飛び上がる。
「どうしたんだ、ノワール!」
いつもは大人しいはずの漆黒の馬が暴れる姿に、厩の管理人も困惑する。
漆黒の馬、ノワールは、暴れる勢いのままに柵を飛び越え、ソウタの前にいた茶色い馬を邪魔だとばかりに鼻先で押し退けた。
そして、「自分に乗りなさい」と言わんばかりの態度で、ソウタの目の前でぴたりと止まった。
その一連の行動を無言で見ていたレオ・ロウと厩の管理人は、心の中で同時に呟いた。
(……飼い主に似ている……)
レオ・ロウの茶色い馬と、ユノ・セリウスの白い馬は、まるで呆れたかのように、小さく鼻を鳴らしたのだった。
皇太子ルースの漆黒の愛馬ノワールが、自分の目の前でぴたりと止まったことに、ソウタは少し驚いた。
ノワールの黒い瞳は、真っ直ぐにソウタを見つめている。
「乗せてくれるの?」
ソウタはそう言いながら、恐る恐るノワールの漆黒の毛並みに優しく触れた。
温かく、なめらかな感触が指先に伝わる。
ソウタの思いが通じたかのように、ノワールは喜びのいななきをあげた。
その大きな鳴き声に、ソウタはにこやかに微笑んだ。
「よろしくね、ノワール」
初めて名前を呼ばれたノワールは、さらに嬉しそうに首を揺らした。
ソウタは鞍にひらりと乗り込み、馬場へと向かう。
その様子を感心したように見ていたレオ・ロウは、小さく呟いた。
「あの漆黒の馬まで手懐けてしまうなんて……ソウタ殿はすごいな……」
そんな中、「報告に戻ってこないから様子を見てきてくれ」とルースに言われたユノ・セリウスが、レオ・ロウの元へやってきた。
ユノ・セリウスは状況をすぐに察したらしい。
レオ・ロウは、ユノ・セリウスに不満そうに言った。
「ソウタ殿が俺の馬に乗ろうとしたら、殿下の馬が邪魔をしてきたんだ」
それを聞いたユノ・セリウスは、呆れたように、しかしどこか面白そうに笑った。
「飼い主にそっくりの馬ですね……」
ユノ・セリウスはそう言いながら、自分の愛馬である白い馬のたてがみを優しく撫でた。
白い馬も、まるで同意するように小さく鼻を鳴らした。
馬場。
ソウタは、漆黒の馬ノワールに乗りながら、馬の感触を確かめていた。
最初は、体が大きく真っ黒なノワールがカッコいいけれど、少し怖いと感じていた。
しかし、走り出してすぐに、ノワールが自分を乗せていることを気遣うように、繊細な足取りで走っていることに気づいた。
(ノワール、君は優しいんだね)
ソウタは、ノワールの首筋を優しく撫で、誰にも聞こえない声でそっと呟いた。
「ノワール、君は……ルースに似ているね」
ソウタは、その言葉と共に、優しい微笑みを浮かべた。
しばらく乗馬の練習をした後、ソウタはノワールやレオ・ロウとユノ・セリウス、そして厩の他の馬たちに別れの挨拶をして、私室に戻った。
ソウタは、乗馬は少し疲れたけれど、ノワールと仲良くなれて良かったな……と思いながら、心地よい疲労感に包まれて眠りについた。
一方、皇太子の執務室では、レオ・ロウとユノ・セリウスがルースにソウタの今日の様子を報告していた。
「殿下。ソウタ様は乗馬の練習をなさっておられました」
ユノ・セリウスは、ルースの愛馬であるノワールがレオ・ロウの馬の邪魔をしたことは言わず、ただ事実だけを報告した。
「そして、ノワールに乗って練習なさっておられました」
ルースはそれを聞いて、途端にご機嫌になった。
「ソウタがわざわざ私の馬を選んで乗ったのか!」
自分の馬がソウタに選ばれたことに、喜びを隠せないルース。
レオ・ロウは、さらにルースを喜ばせようと報告を続けた。
「はっ。ノワールは、ソウタ殿に大変懐いておられました」
しかし、その報告を聞いた途端、ルースの表情は曇った。
ソウタと仲良くするノワールを想像して、嫉妬でムッとしてしまったのだ。
レオ・ロウは、心の中で呟いた。
(殿下に喜んで欲しくて、ノワールが懐いていたことを報告したのに……逆に不機嫌になってしまうとは……難しいな……)
ユノ・セリウスもまた、レオ・ロウに同情の眼差しを向けた。
皇太子の気分を読むことは、彼らにとって常に至難の業なのだった。
99
あなたにおすすめの小説
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる