【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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52話 帝都の祭典

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 帝国皇宮、皇太子ルースの執務室。

 今日の皇太子はいつも以上に機嫌が良い。

 鼻歌まで歌っており、その陽気な旋律が執務室に響いている。

 レオ・ロウは、そんな殿下の様子をチラチラと盗み見ながら仕事を進めていた。

 すると、不注意にも腕がインク瓶に当たってしまい、大事な書類に黒い染みが広がった。

「申し訳ありません、殿下!」

 レオ・ロウは、全力で謝罪した。

 しかし、ルースはにこやかな笑顔で言った。

「気にするな、また書き直せばいい。その書類をこっちに渡しなさい」

(いつもなら注意されるのに……)

 レオ・ロウは心の中でそう思いながら、書類を渡すためにルースに近づいた。

 すると、ルースはレオ・ロウによく見えるように、さりげなく腕の袖をまくり上げ、手首につけたブレスレットをこれみよがしにアピールする。

 レオ・ロウはすぐにそれに気がつき、明るく言った。

「とても素敵なブレスレットですね!」

 ルースはここぞとばかりに、喜びを爆発させた。

「そうだろう!ソウタが私の誕生日にくれたんだ!」

「良かったですね、殿下!とてもよくお似合いです!」

 レオ・ロウが素直に褒めると、ルースは嬉々として語り始めた。

「赤い宝石が私の瞳の色に似ているから選んだそうだ!それに、ソウタが自分の私財で落札してくれたんだ!」

 レオ・ロウは、最初はきちんと聞いていたものの、ずっと同じような話を繰り返され、だんだんとげんなりとしてきた。

 そこに、席を外していたユノ・セリウスが執務室に戻ってきた。

「殿下、こちらが頼まれていた資料です」

 ユノ・セリウスがそう言ってルースに資料を渡そうと近づくと、ルースはニコニコしながら、資料を受け取る際に腕にあるブレスレットをユノ・セリウスにこれみよがしに見せつけた。

 すぐに状況を察したユノ・セリウスは、

「これは美しいブレスレットですね。殿下にお似合いです」

 と褒めた。

 ルースは、喜びの声で言った。

「そうだろう!ソウタが私の誕生日にくれたんだ!」

 そして、ソウタとノワールに乗って行った美しい丘で料理を食べたこと、一緒に流星群を見たことを、事細かに話し始めた。

 ユノ・セリウスは、これはまずい……長い話になりそうだと察し、相棒に助けを求めようと目線を送ったが、レオ・ロウは既に力尽きて気絶していた。

 暫くして、ルースは楽しそうに話しながらも、手際よく仕事を片付けた。そして、

「ソウタの様子を見てくる」

 と言って、ご機嫌な足取りで執務室を出て行った。

 ルースを見送る二人の近衛兵は、その長い惚気話を聞かされすぎて、とてもぐったりしていた。

 レオ・ロウは、伏せていた顔を上げ、深い溜息をついた。

「殿下は、同じ話をして飽きないんだろうか……」

 ユノ・セリウスは、疲れた声で答えた。

「何度繰り返しても足りないほど、嬉しかったのでしょう……」

 ユノ・セリウスは、ふと遠くを見つめながら、何となくといった感じで言った。

「でも、レオ・ロウ……殿下の喜ぶ顔を見るのは、悪くない気分ですね」

 レオ・ロウも、その言葉に笑って頷いた。

「そうだな。今日は俺が奢るから、一緒に飲もうか」

 ユノ・セリウスは、その誘いに、いつもより素が出た穏やかな笑顔を見せた。

「さすが私の相棒」

 ――


 翌日。
 帝国皇宮、補佐官室。

 ソウタは、もうすぐ開催される帝都の祭典に、胸を高鳴らせていた。

 隣ではオリオンが、祭典の催しについて朗らかに語っている。

「祭典の折には、珍しいお菓子や食べ物のお店が多数出店すると聞いているよ」

「楽しみだね!」

 ソウタは、目を輝かせて笑った。

 一方、皇宮の皇太子ルースの執務室。

 ルースとレオ・ロウ、ユノ・セリウスは、帝都の祭典準備の最終確認を進めていた。

 ルースは、いつも以上に背筋を伸ばし、書類の確認にも余念がない。

(皇太子としてのかっこいい姿を、ソウタに見せたい……!)

 ルースは、心の中でひそかに意気込んでいた。

 ユノ・セリウスが、静かに尋ねる。

「殿下、今回の祭典に皇弟様はご参加されますか?」

 ルースは、手元の手紙を思い出し、返事をする。

「体調が良ければ参加したいと、手紙には書いてあった」

 レオ・ロウは、少し心配そうに呟いた。

「参加できるといいですね」

「そうだな……」

 ルースはそう返事をしながら、ソウタに叔父である皇弟を紹介したいという思いが募り、知らず知らずのうちに口元が綻んでいた。

 その様子を見て、レオ・ロウとユノ・セリウスは、またソウタのことを考えているのだろうと、呆れながらも笑みを交わした。

 祭典当日、帝都は華やかな装飾で彩られ、目にも眩しいほどに美しかった。

 通りには色とりどりの旗がはためき、祭りの活気が帝都全体を包み込んでいる。

 ルースは、真っ白で上品かつ高貴な装束を身につけていた。

 その姿は普段よりも一層、皇太子としての威厳と風格を漂わせている。

 彼は、ソウタが執務室に来るのを、最も格好良く見える姿勢でじっと立って待っていた。

 やがて執務室の扉が開き、ソウタが入ってくる。
 ソウタは、ルースの姿を見るなり、目を輝かせた。

「殿下、今日は一段とカッコイイですね!」

 ソウタの素直な褒め言葉に、ルースはたちまちご機嫌になった。

 ルースと一緒に皇族の馬車に乗るソウタ。

 会場に向かってゆっくりと進む馬車に、沿道の市民が気づき始めた。

 特に若い女の子たちは、馬車に乗る皇太子ルースの姿に気づくと、黄色い声をあげて騒ぎ出す。

 ルースは、それに頷いて応え、市民の女の子たちの歓声は一層大きくなった。

 しかし、ソウタは馬車に乗っているため、露店に並ぶ美味しそうな菓子が買えないことに気づき、しょんぼりとしていた。

 ルースはソウタの様子を見て、嫉妬しているのだと勘違いし、内心喜びを噛みしめる。

 ソウタが落ち込む理由が嫉妬ではないことをなんとなく察したユノ・セリウスは、そんなルースを見て苦笑いを浮かべた。

 会場に到着し、それぞれに用意された席に着く。
 ルースは皇族であるため、ソウタとは少し離れた上座に座る。

 ソウタは、ルースの隣に、今まで見たことのない病弱そうな顔色の男が座っていることに気づいた。

「あの人は?」

 ソウタがオリオンに尋ねると、オリオンは静かに教えてくれた。

「あの方は、皇弟様だよ」

 オリオンは続けて説明する。

「皇弟様は摂政をされているけど、幼い頃から身体が弱くて、あまり公の場に姿を現さない方なんだ」

 ソウタは、それを頷きながら聞いた。

 祭典の主要な行事が終わり、ルースとソウタは合流した。

 ルースは、予め用意しておいたフード付きの外套を二つ持ち、ソウタに差し出した。

「ソウタ、これから街に遊びに行かないか?」

 その誘いに、ソウタは迷うことなく快諾した。

 二人で賑やかな街へと向かおうとしたその時、背後から優しい声が呼び止めた。

「ルース」

 皇弟だった。


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