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53話 皇弟との出会い
しおりを挟む名を呼ばれたことに気づいたルースは、すぐに皇弟の方を向き、丁寧に挨拶した。
「叔父上」
その声は、皇太子としての威厳を保ちつつも、親愛の情が滲んでいた。
ソウタもそれに倣い、恭しく頭を下げる。皇族の中でも特に高位の人物である皇弟を前に、彼の心臓はわずかに速く鼓動していた。
皇弟は、ソウタに向かって優しい眼差しを向けた。彼の顔には、どこか穏やかな笑みが浮かんでいる。
「君がソウタ君かい?」
ソウタは、少し緊張しながらも、背筋を伸ばして丁寧に挨拶を返した。
「はい! お初お目にかかります。フランゼ侯爵家のソウタと申します。」
皇弟は、ふわりと上品に微笑んだ。
「いつもルースの手紙で、君の名前がよく出てくるから知っているよ。本当に仲が良いんだね、羨ましい限りだ」
ルースは、叔父の言葉に顔を赤くし、焦ったように声を上げた。
「叔父上!そのようなことを、ソウタの前で……!」
皇弟は、そんなルースの様子を見て、さらに楽しそうに笑う。
そして、皇弟はソウタに問いかけた。
「ソウタ君。少し、二人で話せないか?」
突然の申し出に、ソウタは驚きに目を見開いた。皇弟と二人きり。一体何を話されるのだろうか。
緊張しながらも「はい……喜んで」と答える。
ルースは心配そうにソウタについてこようとするが、皇弟は優しく、しかし有無を言わさぬ口調で諭した。
「少しだけだから。ルースはここで待っていなさい」
そう告げると、皇弟はソウタだけを連れて、夕焼けに染まる湖の見える道をゆっくりと歩き始めた。
ソウタは、その背中を黙って追いかける。湖面は夕日の光を反射して、きらきらと輝いていた。
やがて、皇弟が静かな声で口を開いた。その声には、深い感謝の念が込められている。
「ソウタ君……ルースを救ってくれて、本当にありがとう」
ソウタは、戸惑いながら答える。
「いえ、僕は何も、大したことはしていません……」
皇弟は、再びくすくすと笑った。その眼差しはとても優しくて温かい。
「以前のルースの手紙は、ほんの数行だけだったのに、君と知り合ってからは、一度の手紙に三枚も入っているんだよ」
それを聞いて、ソウタは目を丸くした。三枚もの手紙に、一体どんな話を書いているのだろう、と考える。
皇弟は、夕焼けに照らされながら、ソウタに微笑みかけた。その顔は、どこか寂しげでありながらも、深い満足感に満ちていた。
「私は身体が弱いから、もう先は長くない。だけど、去る前にルースがこんなにも幸せそうな姿が見れて、本当に良かった。君のおかげだ」
ソウタは、皇弟が身体が弱いことは知っていたが、本人から直接告げられて、動揺を隠せない。
言葉が出ず、ただじっと皇弟を見つめることしかできなかった。
皇弟は、ソウタの肩にそっと手を置いた。その手は、細く、しかし温かかった。
「ルースのことを……どうか宜しくね」
そう言い残すと、皇弟は近くに控えていた従者と共に、来た道を戻らず、待たせていた馬車に乗り込もうとした。
その背中を見つめ、ソウタは胸に込み上げる思いを抑えきれなかった。
皇弟の言葉、そして彼がルースのことを大切に思っているのを感じ取り、ソウタの心に強い決意が芽生えた。
「ルースは、僕が絶対に守ります!」
真剣な顔で放たれたソウタの言葉に、皇弟は馬車に乗り込む直前、わずかに振り返って微笑み、静かに頷いた。
その微笑みは、ソウタへの信頼と、安堵に満ちていた。
二人の帰りを待っていたルースは、一人で戻ってきたソウタに尋ねた。
「叔父上は?」
ソウタは、「皇弟は、従者と一緒に馬車で戻られました」とルースに伝え、少し考えた後、意を決したようにルースの名前を呼んだ。
「……ルース」
「どうした、ソウタ?」
ルースの問いに、ソウタはまっすぐ彼の瞳を見つめた。夕焼けに照らされ、その瞳は決意の光を宿している。
「ルース、僕がずっとそばにいて、君を守るよ」
それは、かつてルースがソウタに告げ、彼の心を温かくした言葉だった。
突然のその言葉に、ルースは少し驚き、そしてソウタの顔を見つめた。
夕焼けに照らされ、優しく輝くソウタの姿は、ルースの目にまぶしく映った。
ルースは、ソウタの言葉の真意を理解し、心からの喜びを込めて、嬉しそうに微笑んだ。
--
閑話:皇弟の願い
帝国、皇弟の住居。
皇弟の専属従者である、常に無表情な男が、一枚の手紙を持って部屋に入ってきた。
「殿下、皇太子ルース様から、お便りが来ています」
皇弟は、ベッドの上に備え付けられた簡易テーブルの上で執務を行っていた。
悪かった顔色が、従者の言葉でわずかに明るくなる。
「ありがとう。こっちに持ってきてくれ」
従者から受け取った手紙を、皇弟はニコニコしながら読み始めた。
最近、甥であるルースからの手紙の枚数が増え、彼はその事実を心から喜んでいた。
(前は事務的な内容だったのに、今はソウタ君のことがたくさん書かれているね……)
皇弟は微笑みながら心の中で呟いた。
しかし、同時に小さな心配も胸によぎる。
(ルースよ、観覧車の話は、この手紙で三回目だよ……もしかして忘れっぽいのかい?)
手紙から伝わってくるルースの満ち足りた喜びが、皇弟自身にも何だか嬉しい気持ちをもたらした。
そして、彼はごく小さな声で、悲しそうに呟いた。
「私の兄上は愚かだ……こんなに素直ないい子を置いて逝ってしまうなんて」
だが、同時に、兄の悲しみに寄り添い、助けてあげられなかった自分自身の愚かさも悔やんでいた。
皇弟は、従者である男に語りかけた。
「影よ、私はルースが即位するまで生きられればいいと思っていたけど、最近はもっと長生きしたいと思ってるよ……ダメかな?」
影と呼ばれた従者は、いつもは無表情だが、この時ばかりはわずかに口角を上げて、生真面目な声で言った。
「長生きしてください、殿下」
それを聞いて、皇弟は心から楽しそうに笑った。
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