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第一章 ヨナン・グラスホッパー編
42. 暗殺者
しおりを挟む最近、ずっとグラスホッパー商会の研究室で寝泊まりしていたヨナンは、久しぶりに実家に帰る。
すると、玄関入ってすぐのリビングで、エドソンが安酒を飲んで号泣していた。
「どうしたんだ?エドソン?」
ヨナンは、それとなくエドソンに話し掛けてみる。
「それがよ、ヨナン聞いてくれよ!エリザベスと、コナンとシスが黙って家出しちまったんだよ!」
なんか、完全にエドソンは勘違いしてる。
というか、エリザベスもコナンもシスも、何も言わずに家を留守にしていたのか……。
ヨナンは少し青ざめる。
ヨナン自体は、ずっと生産拠点でもあるグラスホッパー商会本店に居た。
だけれども、エリザベスとコナンとシスは、1ヶ月以上も、ずっとカナワン城塞都市の最高級ホテル、ロードグラスホッパーホテルで寝泊まりしていたのだ。
多分、エリザベス達的には、俺がエドソンに話してると思っているのだろう。
「あの……エドソン……明日、エリザベス達に会いに行く?」
ヨナンは、恐る恐るエドソンに聞く。
「お前、エリザベス達の居場所を知ってるのかよ!」
「一応、知ってるけど……」
「何で黙ってたんだよ!」
「だって、エリザベス達が話してたと思ってたし……」
「で! 何処に居るんだ! 今すぐ会いに行って来る!」
「もう、遅いから止めとけって!」
「俺は、今すぐエリザベスとコナンとシスと会いたいんだよ!」
「だから、エリザベス達は今、カナワン城塞都市に居るんだって! どう考えても遠いだろ!」
「何で、そんな遠くに居るんだよ! ヤッパリ甲斐性なしの俺を捨てたのかよ!」
「甲斐性なしって、エドソンは、もう何もしなくても、1日何百万も稼げる成金貴族だろ! 全然、甲斐性なしじゃないって!」
「成金って、お前、酷い奴だな!」
エドソンは、よっぽど悔しかったのか泣きじゃくる。
「ほら、コレ?うちの商会で新しく作ったワイン。これでも飲んで今日は早く寝な!
明日、カナワン城塞都市まで行く、うちの商会の定期便が毎日出てるから、それに乗って、エリザベス達に会いに行こ!」
「ヨナン絶対だぞ! 絶対に連れていけよ!
うち、もう馬も居ないから、歩きでカナワン城塞都市まで行くとまる2日も掛かるんだからな!」
そうだった。そう言えば、エドソンから馬を借りてからそのまま買い上げていたのである。
まあ、今は、グラスホッパー商会がたくさん馬を保有してるけど、グラスホッパー家自体には、馬は一頭居ないのである。
そして、馬が無くて領外に出られなくなった最近のエドソンの娯楽は、完全にグラスホッパー商会の慰安施設になってる、温泉スパ。
そこで毎日、一人でボーリングをしたり、ゴルフの打ちっぱなしをしたり、温泉に入ったり、夜には食事処で、グラスホッパー商会の従業員と飲むのが日課になってたりしている。
簡単に言うと、毎日、日本のスーパー銭湯で一日中遊んでる感じである。
とか考えながら、ちょっと可哀想になってると、
「なんだこれ? メッチャうめーじゃねーか!
お前、こんな上手い酒作ったのかよ!」
「まあね!」
「だったら、今度、美味いエールも作ってくれよ!」
「ああ、考えとく!」
そんな感じで、エドソンは酒に酔っ払い、大人しく寝てくれたのであった。
次の日、約束通り、寝てるエドソンをカナワン城塞都市の定期便まで運び、御者に、カナワン城塞都市に着いたら、エリザベスに会わせてやってくれと頼んでおく。
でもって、ヨナンは大至急、ワイン作りに没頭する。
ついでに、エドソンのリクエストも叶える為に大麦の栽培も始める。
『ご主人様、本当にエドソンに甘いですよね……』
「そりゃあ、エドソンには世話になってるから、飲みたい酒ぐらい作ってやるよ!
それに、ビールならこの世界でもたくさん売れるだろ!」
『まあ、そうですけど、それより、いつの間にか、グラスホッパー商会に、トップバリュー商会の間者が潜りこんでるみたいですよ』
鑑定スキルと話しながら大麦畑を耕してると、鑑定スキルが、トップバリュー商会の間者が潜り込んでる事を教えてくれて、それから、敵のステータスを見せてくれる。
名前: ガルム
職業: 暗殺者
所属: トップバリュー商会暗部
スキル: 暗殺、暗器
ユニークスキル: 隠密
力: 800
HP: 950
MP: 300
「ちょっと、ヤバい人じゃないか……相当強いぞ……」
『トップバリュー商会の暗部の方ですね』
「どうしよう?泳がせとくか?」
『う~ん。どう見ても、ご主人様を狙う暗殺者ですね……職業暗殺者と書いてますから……』
「どうするんだよ! グラスホッパー家の最大戦力のエドソンも、エリザベスも、コナンも、シスもみんな居ないんだぞ!」
『そしたら、ご主人様でどうにかするしかないですね!』
「どうしよう。そうだ、武器だ! 武器を今から作ろう!」
『敵が目の前に居るのに、今から武器作るんですか?』
鑑定スキルが呆れている。
「しょうがねーだろ! なんも、武器持ってねーんだから!
メッチャスゲー武器作ってやんよ!」
ヨナンは急いで、生産工場に走って行き、適当に魔法の鞄から、色々出して鍛冶場を作り、そして硬い鋼材やら、魔法特性を持つ鉱石やらを、適当に叩いて精錬し、一本のヤバそうな刀を作ったのだった。
『ご主人様、その刀、相当ヤバいですよ……』
「そりゃあ、命の危険を感じて、必死に打った刀だからな!」
『一応、刀のステータスを出しますね』
聖剣ムラサメ
属性: 雷、火、風、氷
スキル: 斬撃波、雷撃、炎剣、氷剣、自己修復、HP自動回復、MP自動回復、魔法攻撃無効、所有者の攻撃力3倍、防御力3倍、素早さ3倍、即死系攻撃1回無効
攻撃力: 10000
耐久力: 50000
「なんじゃこれ……」
『これは、世に出してはいけないタイプの刀ですね』
「これでどうしよう……」
『まあ、トップバリューの暗部の人間ですから殺しちゃっていいんじゃないですか。
殺しても、記録に残らないと思いますし』
「殺すのは、ちょっとな……」
『まあ、軽く攻撃してみては?』
「やってみる?」
『やってみて下さい。即死系攻撃1回無効とかいうチートスキルまでついてる聖剣なので、1回までは死ねますしね』
「だな」
ヨナンは、トップバリュー商会の暗殺者の前まで歩いて行き、聖剣ムラサメを構える。
「ええと……何の冗談ですか?」
トップバリュー商会の暗殺者は、何食わぬ顔をして、誤魔化そうとする。
「分かってんだよ! お前は、トップバリュー商会の暗部の人間だろうが?」
「何を言ってるんですか?」
「黙れ!」
「チッ! 何でバレてんだ? しょうがねーな。まあ、元々、お前は暗殺対象だったし、今は、英雄エドソンも居ないようだから、余裕だろ!」
喋りながら、暗殺者はイキナリ攻撃を仕掛けてくる。
だけれども、相当早く動いてるようにも見えるが、何故かヨナンにはスローモーションに見えている。
『左手に猛毒を塗ってあるナイフ、右手に暗器を隠し持ってますよ!』
鑑定スキルが、敵の持つ武器を解説をする。
「ああ。普通に見えてる。というか、相手が何故かスローモーションで見えてるんだけど?」
『それは、聖剣ムラサメの素早さ3倍の効果じゃないですか?』
「えっ?そうなの?どうしよう、これで相手を斬ったら、攻撃力3倍の効果で凄い事になっちゃうんじゃないのか?」
『いえいえ、聖剣ムラサメ自体の攻撃力10000ですから、相手は風圧だけで破裂しゃいますね!』
「ダメだろ! この刀!」
『だから、世に出したらヤバいレベルの刀なんですよ!』
「じゃ、どうすればいいんだよ!」
『スキルの斬撃波を使ってみたらどうですか?』
「お前さっき、風圧だけで、相手を破裂させると言ってたのに、スキルまで使ったら、この一帯の土地が消滅するんじゃねーのか!」
『じゃあ、雷撃スキルは?』
「攻撃力10000、攻撃力3倍の雷撃って、どんなだよ!」
『じゃあ、武器持って無い手でデコピンするしかないですね!』
「それじゃあ、武器持ってる意味ねーじゃねーかよ!」
『それは、ご主人様が、とんでもない刀を打っちゃたのが原因でしょ!』
「だって、自分の身に危険を感じたら、いつもより集中してモノ造りしちゃうもんだろ!」
『もう、なんか、本当に目の前まで迫ってきてますよ! ほら、ご主人様が一瞬、ナイフ見たから、隠し持ってた暗器を出そうとしてますよ!』
鑑定スキルが、相手の動きを詳しく解説する。
「糞っー! 折角、刀打ったのに、使えねーなんて……」
ヨナンは、ブツブツいいながら、暗殺者のおデコに、デコピンを軽く当てる。
グワッ!
デコピンしてから、ヨナンの体感速度で、5秒ぐらい経ってから、暗部の男が、イキナリ後方に吹っ飛ぶ。
「おっそ!」
『そりゃあ、素早さ3倍の世界ですから』
「俺、コイツが吹っ飛んでくのずっと見とかないといけないのか?」
『多分、刀を鞘に戻せば、普通の時間軸に戻るんじゃないですか?』
ヨナンは、鑑定スキルに言われて、刀を鞘に戻す。
バキバキバキバキバキバキ、ズドーン!
暗殺者は、おデコを陥没骨折して、食物倉庫を粉々にして、そして首の骨を折って即死してた。
「おい! 俺、デコピンで人を殺しちまったぞ! まだ、13歳の子供なのに!」
ヨナンは、焦りに焦る。
『やっぱり、ご主人様に得物を持たすと恐ろしい事になりますね……これから持つ武器は、刃こぼれした果物ナイフぐらいしか使わない方がいいんじゃないですか?』
鑑定スキルは、冷静に分析する。
「お前、初めて人殺しちゃった子供の俺に、なんか、フォローとかないのかよ!」
『え? 今更、何かフォローとか要りますか?既に、自分で自分を1回殺してるのに?』
鑑定スキルは、思いの外クールに答えた。
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