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41. 女神の雫

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 グラスホッパー商会の商売は順調。貴金属部門も軌道に乗った所で、エリザベスが、グラスホッパー商会カナワン支店で行われた、第2回取り締まり会議で、ぶっ飛んだ案件を議題に出してきた。

「来月、グラスホッパー騎士爵家の寄親でもある、イーグル辺境伯領に出張に行くわよ!
 そこで、ワイン好きのイーグル叔父様に、高級ワインをプレゼントしたいから、ヨナン君、出発までの間に、最高級ワインを作っておいて!」

 エリザベスは、何事でもないように生産部本部長でもあるヨナンにお願いしてくる。

「アホか! 最高級ワインなんか、ボジョレーじゃあるまいし、1ヶ月で作れる訳ねーだろ!
 というか、俺は未成年だから、そもそも酒飲めねーし、この世界のワインの味も分かんねーよ!」

「そこは、ソムリエでもあるセバスチャンと、協力してやって」

 エリザベスは、全て丸投げである。

「どうするよ?」

 ヨナンは鑑定スキルに話し掛ける。

『そうですね。まず、この世界の最高級ワインを何種類が飲まないと話になりませんね』

「エリザベス。勿論、この世界の最高級ワインは用意出来てるんだろうな?」

「ヨナン坊っちゃま。最高級ワインなら、ロードグラスホッパーホテルに、一通り揃っておりますが?」

 現在、この国、最高級ホテルとまで言われるようになった、ロードグラスホッパーホテルの総支配人でもあるセバスチャンが教えてくれる。

 因みに、ロードグラスホッパーは、殿様バッタを意味し、グラスホッパー商会の最高級ホテルのブランドであったりする。

「じゃあ、ロードグラスホッパーホテルに移動して、高級ワインの試飲会をしてみる?」

 エリザベスが、何故か嬉しそうに提案する。

「それでは、すぐに準備させますね」

 セバスチャンは、取り締まり会議に参加していたロードグラスホッパーホテル副支配人に目配せした。

 ーーー

 てな訳で、ロードグラスホッパーホテルに移動して高級ワインの試飲会。

 ソムリエでもあるセバスチャンが、コルクを開けて、それぞれのワインを説明する。

「まずこれはシャトー・イーグル。現在、最高級ワインと言われているイーグル辺境伯が所有するシャトーで作られてるワインでございます。
 ブドウの品種は、ニョピニオンと、ゴスピニオンのブレンド。華やかな香り、口当たりの滑らかさ、しっかりしたボディと繊細さを備えた味わいが特徴と言われ、女神ナルナーの宝石と言われております」

 ヨナンは、未成年だけど、飲まなければ何も分からないので、一口だけ飲んでみる。

『ウン。これはシャトー・マルゴーですね!』

 ヨナンが一口飲むと、代わり鑑定スキルが批評する。

「えっ?そうなのか?」

『ハイ。どうやらワインの味は、地球と何ら変わらないみたいですね!』

「次のワインは、シャトー・グリズリー。現在は、グリズリー公爵家が所有してるシャトーのワインでございます」

「あの?やたらと聞いた事がある貴族の名が冠するワインばかりなんだけど、何か意味が有るのか?」

 ヨナンは、なんとなく分かるが、一応、ソムリエのセバスチャンに質問する。

「ハイ。大貴族は、お気に入りのシャトーを買い取って経営するのが、一種のステータスとなっておりますので」

「そうなんだ……」

 やっぱり、思った通り。

『これは、シャトー・ラトゥールの味ですね』

 そして、鑑定スキルが、ヨナンの代わりに批評する。

「そしてこちらが、シャトー・カララム。王家が所有するシャトーのワインです」

 セバスチャンが、次のワインを注いでくれる。

『ウン。これはシャトー・ラフィト! 味は覚えましたので、この味を出せるブドウも、今飲んだワインを越える品種のブドウもオリジナルで作れると思います!』

 鑑定スキルが、ブドウは作れると太鼓判を出す。

「そうか、そしたら後は、どうやって早く熟成させるかの問題だな」

 ヨナンは、頭を捻る。何か早く熟成させる方法は無いか。

『それは、最初から熟成させた味のワインを作ってしまえば、問題ないのでは?』

 鑑定スキルは、折角、頭を捻り考えていたのに、元も子も無い事を言う。

「そんな事、可能なのか?」

『はて?ご主人様の大工スキルだったら可能なのでは?』

「うっそーん?」

 てな感じで、ヨナンは一人、生産拠点であるグラスホッパー領に戻り、ワインの試作品を4種類作って、再びロードグラスホッパーホテルで、試飲会を行った。

「これは、シャトー・イーグルを2倍程度美味しくした、(仮名)シャトー・ロードイーグルです!」

 ヨナンは、試飲会に訪れた、エリザベスとセバスチャン、それからカナワン伯爵、それからカナワン伯爵の弟で家相でもあるオビワンに、シャトー・ロードイーグルを振る舞う。

「ん? 本当に、シャトー・イーグルを2倍美味しくした味ね。こんなの飲んじゃったら、もうシャトー・イーグルなんか飲めなくなっちゃうわね……」

 エリザベスは、結構シャトー・イーグルに辛口だ。それほど、シャトー・ロードイーグルが美味しいのだろう。

「次は、シャトー・グリズリーを2倍美味しくした、(仮名)シャトー・ロードグリズリーです!」

「なるほど。これは本当に美味い。シャトー・グリズリーの特徴でもある力強く、荘厳さが、これまた2倍ですな。
 これは、グリズリー公爵には悪いですが、これを飲んでしまったら、もうシャトー・グリズリーは飲めませんな!」

 カナワン伯爵の評価も上々。

 そして、シャトー・ロードカララムの評価も以下同文。

 そして、エリザベスの注文であるこの世界で一番最高級のワインになる予定の、シャトー・ロードグラスホッパーの試飲である。

「それでは、どうぞ!これがグラスホッパーシャトーで生産した、グラスホッパー最高級ブランドである、ロードグラスホッパーの名前を冠した、シャトー・ロードグラスホッパー1965です」

 ヨナンは、王国歴1965年に製造した事を表すシャトー・ロードグラスホッパー1965を皆に振る舞う。

「それじゃあ、試飲するわよ」

 エリザベスが、ワインの試飲を始める。

「色はルビー。匂いはバラの香り。そして味は……」

 一口口に付けた、エリザベスは喋る事が出来ない。
 そして、一筋の涙を頬に流す。

「どうだった?」

「……これは、もう、口では言い表せないわ。それ程のワイン。他と比べるなんておこがましい……」

「そんなに……」

 エリザベスの感想を聞いて、他の人達も口につける。

「……」

 そして、数分間の沈黙。

「エクセレント! 完璧です。これこそ女神の雫。ここに伝説の女神の雫が完成したのです!」

 ソムリエであるセバスチャンが、感激の涙を流しながら、批評する。

「これは凄いです。こんなワインを飲んでしまったら、もう、他のワインなんて飲めませんよ!」

 カナワン伯爵も、絶賛。

「ブラボー! ブラボー!ブラボー! ブラボー!」

 弟のオビワンも、ブラボーの嵐。

「で、ワインの価格設定はどうする」

 ヨナンは、まだ未成年なので、ワインの味などどうでもいい。

「そうね。これ程美味しいワインなら、絶対にプレミア化するから、市場に売り出すのは、1年100本限定発売にしましょう。それ以外は、グラスホッパー商会の贈呈用に生産しましょうか。
 それから、ロードグラスホッパーホテルでは、常時完備して、いつでも飲めるようにするといいかもしれないわね。 そうすれば、ロードグラスホッパーホテルの格がより一層上がるわよ!」

 エリザベスが、今後のシャトー・ロードグラスホッパーの売り出し方を考える。

「それで、結局、1本幾らにするんだよ!」

「そうね。一応、20万マーブルくらいにしましょうか?」

「ならば、ロードグラスホッパーホテルで出すワインの値段は市場価格の2割増しぐらいで販売します」

 セバスチャンも、ロードグラスホッパーホテルでの販売価格を決める。

「という訳よ! 取り敢えず、ヨナン君。今回だけ宣伝という事で、シャトー・ロードグラスホッパー1000本、シャトー・ロードグリズリー500本、シャトー・ロードイーグル500本、シャトー・ロードカララム500本を大至急で生産して頂戴!」

「え? そんなにも……」

「すみません坊ちゃん。ロードグラスホッパーホテルにも、お嬢様と同じ数だけ発注致します。今後、ワイン目当てのお客様もたくさんおいでになると思いますので!」

「セバスチャンもかよ!」

 てな感じで、ヨナンは、またトンボ返りでカララム領に帰って、ワイン造りする羽目になったのだった。
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