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2 夫が私を嫌う理由
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思い出すのはディアン様と結婚することになった日のことだ。
「――アイツの元婚約者と結婚だなんて虫唾が走る」
夫婦になるのだからと親しくなろうと口を開きかけたそのとき、彼は初対面の私に冷たくそれだけ言った。
あの横暴な人から逃れられたと思ったのに、結局は彼もまた私を嫌悪した。
「……申し訳ございません」
相手の方が立場は上だったため、私はそう返すしか出来なかった。
ディアン様が最初から私を嫌っているのは痛いほど分かっていた。
そうなるであろう理由もたしかに存在したから。
「お嬢様、こんなのあんまりです……何故公爵様はそこまでお嬢様を……」
「きっと私がアース様の婚約者だったことが気に入らないのよ」
「ですが、お嬢様には何の罪も無いではありませんか!」
実家の侯爵家から連れて来たメイドはディアン様の態度に憤慨した。
もちろん、私だって何か言ってやりたかったが我慢するほかない。
アース様とはディアン様の実の兄であり、前グクルス公爵だった方である。
私の婚約者でもあったのだが、数か月前に馬車事故で母親である大奥様と共に亡くなられたのだ。
そしてグクルス公爵家は必然的に弟のディアン様が継ぐこととなった。
婚約は当然白紙になると思ったが、既に結婚の準備が進められていたこともあり、すぐに私とディアン様との婚約が決まってしまったのだった。
私の家族は反対していたが、格上の公爵家相手に成す術は無かった。
彼が私を嫌っている理由は明白だ。
ディアン様は兄であるアース様との仲が良くなった。
いや、むしろ横柄な性格をしていたアース様の一番の被害者と言ってもいいだろう。
ディアン様とアース様は兄弟ではあるが母親が違う。
アース様の母親は正妻の公爵夫人で、ディアン様の母親は平民出の愛人だった。
幼い頃に本邸に引き取られたディアン様を正妻やアース様が良く思わないのは当然のこと。
義母となった夫人とアース様は徹底的にディアン様を苛め抜いた。
そして父親である先代公爵はそんなディアン様を助けることなく、妻と息子の行為を黙認したのだ。
しばらくして先代の公爵が亡くなり、アース様が爵位を継いで権力を手に入れてからそれはもっと酷いものとなった。
公爵となったアース様は真っ先にディアン様の母親を処刑したのだ。
公爵閣下とその母親である先代公爵夫人の殺害を企てたというとんでもない理由からだった。
もちろんディアン様の母君にそのようなことをする理由は無い。
誰もが冤罪だと知っていたが、アース様の不興を買うのを恐れ彼女を助けようとする者は誰一人としていなかった。
そしてアース様は母親が亡くなって絶望するディアン様を大罪人の息子として離れに幽閉した。
信じられないようなことだが、これは全て紛れも無い事実なのである。
アース様は暴君として有名で、貴族たちは皆彼を恐れていた。
そして彼は私のことも嫌っていた。
それは私が一度アース様に体の関係を迫られたときに断ったせいである。
プライドを傷つけられたようで激しい怒りを買ってしまったが、あのときのことを後悔はしていない。
元々あの人は遊び人で色んな女性に手を出していたようだから尚更だ。
「お嬢様、私は納得いきません。どうしてこんなにも優しいお嬢様がこのような扱いを受けなければならないのですか!」
「落ち着いて、あの方もこれまで散々辛い目に遭ってきたのよ。彼の元婚約者である私にあんな態度を取ってしまうのも仕方が無いことだわ」
ディアン様の壮絶な過去を知っているからか、どうも彼を責める気にはなれなかった。
(別に良いじゃない、政略結婚だなんて貴族にとっては当たり前のこと。アース様の妻にならなかっただけマシだわ)
理不尽さを感じながらも、そう必死で自分に言い聞かせた。
「――アイツの元婚約者と結婚だなんて虫唾が走る」
夫婦になるのだからと親しくなろうと口を開きかけたそのとき、彼は初対面の私に冷たくそれだけ言った。
あの横暴な人から逃れられたと思ったのに、結局は彼もまた私を嫌悪した。
「……申し訳ございません」
相手の方が立場は上だったため、私はそう返すしか出来なかった。
ディアン様が最初から私を嫌っているのは痛いほど分かっていた。
そうなるであろう理由もたしかに存在したから。
「お嬢様、こんなのあんまりです……何故公爵様はそこまでお嬢様を……」
「きっと私がアース様の婚約者だったことが気に入らないのよ」
「ですが、お嬢様には何の罪も無いではありませんか!」
実家の侯爵家から連れて来たメイドはディアン様の態度に憤慨した。
もちろん、私だって何か言ってやりたかったが我慢するほかない。
アース様とはディアン様の実の兄であり、前グクルス公爵だった方である。
私の婚約者でもあったのだが、数か月前に馬車事故で母親である大奥様と共に亡くなられたのだ。
そしてグクルス公爵家は必然的に弟のディアン様が継ぐこととなった。
婚約は当然白紙になると思ったが、既に結婚の準備が進められていたこともあり、すぐに私とディアン様との婚約が決まってしまったのだった。
私の家族は反対していたが、格上の公爵家相手に成す術は無かった。
彼が私を嫌っている理由は明白だ。
ディアン様は兄であるアース様との仲が良くなった。
いや、むしろ横柄な性格をしていたアース様の一番の被害者と言ってもいいだろう。
ディアン様とアース様は兄弟ではあるが母親が違う。
アース様の母親は正妻の公爵夫人で、ディアン様の母親は平民出の愛人だった。
幼い頃に本邸に引き取られたディアン様を正妻やアース様が良く思わないのは当然のこと。
義母となった夫人とアース様は徹底的にディアン様を苛め抜いた。
そして父親である先代公爵はそんなディアン様を助けることなく、妻と息子の行為を黙認したのだ。
しばらくして先代の公爵が亡くなり、アース様が爵位を継いで権力を手に入れてからそれはもっと酷いものとなった。
公爵となったアース様は真っ先にディアン様の母親を処刑したのだ。
公爵閣下とその母親である先代公爵夫人の殺害を企てたというとんでもない理由からだった。
もちろんディアン様の母君にそのようなことをする理由は無い。
誰もが冤罪だと知っていたが、アース様の不興を買うのを恐れ彼女を助けようとする者は誰一人としていなかった。
そしてアース様は母親が亡くなって絶望するディアン様を大罪人の息子として離れに幽閉した。
信じられないようなことだが、これは全て紛れも無い事実なのである。
アース様は暴君として有名で、貴族たちは皆彼を恐れていた。
そして彼は私のことも嫌っていた。
それは私が一度アース様に体の関係を迫られたときに断ったせいである。
プライドを傷つけられたようで激しい怒りを買ってしまったが、あのときのことを後悔はしていない。
元々あの人は遊び人で色んな女性に手を出していたようだから尚更だ。
「お嬢様、私は納得いきません。どうしてこんなにも優しいお嬢様がこのような扱いを受けなければならないのですか!」
「落ち着いて、あの方もこれまで散々辛い目に遭ってきたのよ。彼の元婚約者である私にあんな態度を取ってしまうのも仕方が無いことだわ」
ディアン様の壮絶な過去を知っているからか、どうも彼を責める気にはなれなかった。
(別に良いじゃない、政略結婚だなんて貴族にとっては当たり前のこと。アース様の妻にならなかっただけマシだわ)
理不尽さを感じながらも、そう必死で自分に言い聞かせた。
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