3 / 36
3 もう一つの家庭
しおりを挟む
ディアン様との結婚式は公爵家の当主と侯爵令嬢が結婚したとは思えないほど質素なものだった。
普通はもっと国内外から人を呼んで盛大にやるものだが、参列者は近親者のみとなった。
既に母親も亡くなっているディアン様に家族と呼べる者はおらず、結局式に訪れたのは私の両親のみだった。
後で聞いた話によると、これらは全てディアン様の希望らしい。
そこまで嫌われていたとは、何だか悲しくなる。
こっちだって別に彼と結婚したいわけでは無い。
このような経緯を経て、私はディアン様と結婚した。
地獄の結婚生活になるかと思ったが、公爵邸での暮らしは案外悪いものでは無かった。
夫に蔑ろにされる中で唯一の救いとなったのが、グクルス公爵家の使用人たちがとても親切にしてくれたことだ。
彼らは私がお飾りの妻であることなど気にもせず、ただただ優しくしてくれた。
それがたとえ同情だったとしても彼らの存在は私の心の支えとなった。
ディアン様との夫婦の営みは少し……いや、かなり苦痛だったが幸いなことに子供はすぐに出来た。
こうやって生まれたのが愛娘のリアだ。
子供が出来れば私を嫌っている彼だってきっと変わってくれる。
生まれた子を大切にしてくれる、と間違いなくそう思っていた。
しかし、ディアン様は生まれた子の顔を一目見るとこう言い放った。
「どうせアイツの子供だろう」
そして彼はこの日を境に公爵邸には帰らなくなった。
血の繋がった娘に軽蔑するような視線を向けたあの日からリアとは一度も会っていない。
ディアン様に娘に対する暴言を吐かれたその日は悲しくて苦しくて泣いてしまった。
何故生まれた子供まで悪く言われなければならないのかと。
慰めてくれる使用人たちがいなければ私の心は壊れていたかもしれない。
そして悩みの種はもう一つ存在した。
それがディアン様の愛人だった。
ディアン様の愛人の名前はドロシーというらしい。
彼女は元々グクルス公爵家のメイドで、離れに幽閉状態だったディアン様を献身的に支え続けた女性なのだという。
だからこそディアン様は彼女をずっと傍に置いているし、寵愛している。
(私では勝てそうにないわね……)
生まれた娘に一切会わないのは納得いかないが、彼がドロシー様に心酔してしまうのも理解出来なくはない。
彼は母親が亡くなってから絶望し、ずっと一人だったのだから。
そしてドロシー様との間には八歳になる息子がいるそうだ。
私はもちろん会ったことなんて無いが、時々離れを訪れる使用人の話によるとグクルス公爵家の象徴である黒い髪と瞳を持ち合わせているそうだ。
(黒い髪と瞳ならリアだって持ってるのに)
ディアン様は本気でリアをアース様の子供だと思っているようだ。
アース様もグクルス公爵家の人間なのでどちらの子供かなんて分かりはしないだろうが、私は神に誓ってアース様と体の関係を持っていなかったと言える。
それを何度説明しようとしてもディアン様は聞く耳を持たないのだ。
私とドロシー様の待遇に格差はあってもせめて子供だけは平等に愛してほしいと思っていたが、どうやらそれすら叶わないようだ。
普通はもっと国内外から人を呼んで盛大にやるものだが、参列者は近親者のみとなった。
既に母親も亡くなっているディアン様に家族と呼べる者はおらず、結局式に訪れたのは私の両親のみだった。
後で聞いた話によると、これらは全てディアン様の希望らしい。
そこまで嫌われていたとは、何だか悲しくなる。
こっちだって別に彼と結婚したいわけでは無い。
このような経緯を経て、私はディアン様と結婚した。
地獄の結婚生活になるかと思ったが、公爵邸での暮らしは案外悪いものでは無かった。
夫に蔑ろにされる中で唯一の救いとなったのが、グクルス公爵家の使用人たちがとても親切にしてくれたことだ。
彼らは私がお飾りの妻であることなど気にもせず、ただただ優しくしてくれた。
それがたとえ同情だったとしても彼らの存在は私の心の支えとなった。
ディアン様との夫婦の営みは少し……いや、かなり苦痛だったが幸いなことに子供はすぐに出来た。
こうやって生まれたのが愛娘のリアだ。
子供が出来れば私を嫌っている彼だってきっと変わってくれる。
生まれた子を大切にしてくれる、と間違いなくそう思っていた。
しかし、ディアン様は生まれた子の顔を一目見るとこう言い放った。
「どうせアイツの子供だろう」
そして彼はこの日を境に公爵邸には帰らなくなった。
血の繋がった娘に軽蔑するような視線を向けたあの日からリアとは一度も会っていない。
ディアン様に娘に対する暴言を吐かれたその日は悲しくて苦しくて泣いてしまった。
何故生まれた子供まで悪く言われなければならないのかと。
慰めてくれる使用人たちがいなければ私の心は壊れていたかもしれない。
そして悩みの種はもう一つ存在した。
それがディアン様の愛人だった。
ディアン様の愛人の名前はドロシーというらしい。
彼女は元々グクルス公爵家のメイドで、離れに幽閉状態だったディアン様を献身的に支え続けた女性なのだという。
だからこそディアン様は彼女をずっと傍に置いているし、寵愛している。
(私では勝てそうにないわね……)
生まれた娘に一切会わないのは納得いかないが、彼がドロシー様に心酔してしまうのも理解出来なくはない。
彼は母親が亡くなってから絶望し、ずっと一人だったのだから。
そしてドロシー様との間には八歳になる息子がいるそうだ。
私はもちろん会ったことなんて無いが、時々離れを訪れる使用人の話によるとグクルス公爵家の象徴である黒い髪と瞳を持ち合わせているそうだ。
(黒い髪と瞳ならリアだって持ってるのに)
ディアン様は本気でリアをアース様の子供だと思っているようだ。
アース様もグクルス公爵家の人間なのでどちらの子供かなんて分かりはしないだろうが、私は神に誓ってアース様と体の関係を持っていなかったと言える。
それを何度説明しようとしてもディアン様は聞く耳を持たないのだ。
私とドロシー様の待遇に格差はあってもせめて子供だけは平等に愛してほしいと思っていたが、どうやらそれすら叶わないようだ。
1,425
あなたにおすすめの小説
婚約解消したら後悔しました
せいめ
恋愛
別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。
婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。
ご都合主義です。ゆるい設定です。
誤字脱字お許しください。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。
Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
理想の妻とやらと結婚できるといいですね。
ふまさ
恋愛
※以前短編で投稿したものを、長編に書き直したものです。
それは、突然のことだった。少なくともエミリアには、そう思えた。
「手、随分と荒れてるね。ちゃんとケアしてる?」
ある夕食の日。夫のアンガスが、エミリアの手をじっと見ていたかと思うと、そんなことを口にした。心配そうな声音ではなく、不快そうに眉を歪めていたので、エミリアは数秒、固まってしまった。
「えと……そう、ね。家事は水仕事も多いし、どうしたって荒れてしまうから。気をつけないといけないわね」
「なんだいそれ、言い訳? 女としての自覚、少し足りないんじゃない?」
エミリアは目を見張った。こんな嫌味なことを面と向かってアンガスに言われたのははじめてだったから。
どうしたらいいのかわからず、ただ哀しくて、エミリアは、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
それがいけなかったのか。アンガスの嫌味や小言は、日を追うごとに増していった。
「化粧してるの? いくらここが家だからって、ぼくがいること忘れてない?」
「お弁当、手抜きすぎじゃない? あまりに貧相で、みんなの前で食べられなかったよ」
「髪も肌も艶がないし、きみ、いくつ? まだ二十歳前だよね?」
などなど。
あまりに哀しく、腹が立ったので「わたしなりに頑張っているのに、どうしてそんな酷いこと言うの?」と、反論したエミリアに、アンガスは。
「ぼくを愛しているなら、もっと頑張れるはずだろ?」
と、呆れたように言い捨てた。
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる