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11 夫への小さな報復
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いたたまれなくなった私は、ドロシー様の部屋からディアン様の執務室へと転移した。
(無事に転移っと……仕事中みたいね)
部屋の中ではまさにディアン様が執務をこなしている最中だった。
「今日も仕事量が多いな……公爵とはこんなにも大変なものなのか」
(ディアン様が仕事してるところ初めて見た……)
彼はいたって真剣に執務に取り組んでいた。
しかし数分後、耐えられなくなったのかディアン様が後ろに控えていた老執事に対して声を荒らげた。
「おい、いくら何でも仕事が多すぎないか!?」
「そんなことはありません、公爵様。この程度は普通ですよ」
「しかし、これではいつまで経っても終わらないではないか!」
喚くディアン様に、老執事は冷たい目を向けた。
「終わらない……?公爵様の父君やアース様はこの量を毎日のようにこなしていましたが」
「くっ……!」
異母兄と比較されたのが屈辱だったのか、彼は顔をしかめた。
まぁ、本当のことを言うと彼とアース様では比較対象にすらならないが。
(ディアン様ってお世辞にも優秀とは言い難いものね)
性格は最悪だが執務面ではかなり優秀だったアース様と違って、ディアン様には本当に秀でたところが一つも無い。
そんな彼にとって公爵の執務はかなりきついはずだ。
(私も公爵夫人として協力しているけれど……それでも苦しいみたいね)
彼の現状に、思わず笑みが零れてしまう。
そうしたところで今私を咎める者など誰もいない。
「公爵様、この程度のことも出来なくてどうするのですか」
「う、うるさい!私はこれでも真剣にやっているんだ!お前も手伝え!」
「……」
老執事はとうとう彼に嫌悪の目を向けた。
元々アース様やその父君に忠誠を誓っていた彼が、突然公爵になった上に全く仕事も出来ないディアン様を良く思わないのは当然のことだった。
「そうだ、良いことを思い付いたぞ!」
「……何でしょうか」
(絶対くだらないことなんだろうな……)
そしてその予想は見事的中する。
「本邸にいるアイツに仕事を押し付ければいい!どうせ一日中子供と遊んでるだけのやつだ!これくらいしたっていいだろう!」
(ちょ、ちょっと待ったー!)
本当にくだらないことだった。
というか最悪だ。
仕事を増やされ、娘との時間が減るのは私も困る。
何とかして阻止しなければ。
そう思って足を踏み出した途端、近くの棚に身体をぶつけてしまった。
――ガタンッ
その拍子に、棚の上に置いてあった小物が音を立てて落ちてしまったのだ。
(ま、まずい!)
やらかした、と思ったのも束の間、物が落ちたことに気付いたディアン様が大声を上げた。
「ヒィッ!!!な、何だ!?」
彼は肩をビクリと震わせた。
そして酷く怯えているような顔でこちらを見て喚いた。
「今勝手に物が落ちたぞ!!!幽霊でもいるというのか!?」
「落ち着いてください、公爵様」
「これが落ち着いていられるか!お前も見ただろう!」
(あれ、何かすごい怖がってる……?)
てっきり侵入がバレて騎士を呼ばれるかと思ったが、彼は幽霊の仕業だと思い込んでいるようだ。
確信を得るため、今度は壁に飾ってあった肖像画をわざと床に落としてみた。
「ギャッ!!!また落ちた!!!」
ディアン様は席を立ち上がり、走って部屋の隅に移動した。
そして体をガタガタと震わせた。
「相当古くなってきたと思ったが幽霊まで出るとは……ドロシーは実際に幽霊を目撃したから今日あんなことを言っていたのか……?」
「何を馬鹿なことを言っているんですか、早く仕事をしてください。というか、ここに住むと言ったのは紛れも無い貴方ではありませんか」
老執事は呆れたような顔でディアン様に仕事の催促をした。
そして私はというと――
(アハハ!楽しい!)
次々と物を落とし、ディアン様を怖がらせていた。
これは彼への報復だ。
(まぁ、まだまだ復讐は始まったばかりだけどね)
心の中でそう呟いた私は怯えるディアン様を見てニヤリと笑った。
(無事に転移っと……仕事中みたいね)
部屋の中ではまさにディアン様が執務をこなしている最中だった。
「今日も仕事量が多いな……公爵とはこんなにも大変なものなのか」
(ディアン様が仕事してるところ初めて見た……)
彼はいたって真剣に執務に取り組んでいた。
しかし数分後、耐えられなくなったのかディアン様が後ろに控えていた老執事に対して声を荒らげた。
「おい、いくら何でも仕事が多すぎないか!?」
「そんなことはありません、公爵様。この程度は普通ですよ」
「しかし、これではいつまで経っても終わらないではないか!」
喚くディアン様に、老執事は冷たい目を向けた。
「終わらない……?公爵様の父君やアース様はこの量を毎日のようにこなしていましたが」
「くっ……!」
異母兄と比較されたのが屈辱だったのか、彼は顔をしかめた。
まぁ、本当のことを言うと彼とアース様では比較対象にすらならないが。
(ディアン様ってお世辞にも優秀とは言い難いものね)
性格は最悪だが執務面ではかなり優秀だったアース様と違って、ディアン様には本当に秀でたところが一つも無い。
そんな彼にとって公爵の執務はかなりきついはずだ。
(私も公爵夫人として協力しているけれど……それでも苦しいみたいね)
彼の現状に、思わず笑みが零れてしまう。
そうしたところで今私を咎める者など誰もいない。
「公爵様、この程度のことも出来なくてどうするのですか」
「う、うるさい!私はこれでも真剣にやっているんだ!お前も手伝え!」
「……」
老執事はとうとう彼に嫌悪の目を向けた。
元々アース様やその父君に忠誠を誓っていた彼が、突然公爵になった上に全く仕事も出来ないディアン様を良く思わないのは当然のことだった。
「そうだ、良いことを思い付いたぞ!」
「……何でしょうか」
(絶対くだらないことなんだろうな……)
そしてその予想は見事的中する。
「本邸にいるアイツに仕事を押し付ければいい!どうせ一日中子供と遊んでるだけのやつだ!これくらいしたっていいだろう!」
(ちょ、ちょっと待ったー!)
本当にくだらないことだった。
というか最悪だ。
仕事を増やされ、娘との時間が減るのは私も困る。
何とかして阻止しなければ。
そう思って足を踏み出した途端、近くの棚に身体をぶつけてしまった。
――ガタンッ
その拍子に、棚の上に置いてあった小物が音を立てて落ちてしまったのだ。
(ま、まずい!)
やらかした、と思ったのも束の間、物が落ちたことに気付いたディアン様が大声を上げた。
「ヒィッ!!!な、何だ!?」
彼は肩をビクリと震わせた。
そして酷く怯えているような顔でこちらを見て喚いた。
「今勝手に物が落ちたぞ!!!幽霊でもいるというのか!?」
「落ち着いてください、公爵様」
「これが落ち着いていられるか!お前も見ただろう!」
(あれ、何かすごい怖がってる……?)
てっきり侵入がバレて騎士を呼ばれるかと思ったが、彼は幽霊の仕業だと思い込んでいるようだ。
確信を得るため、今度は壁に飾ってあった肖像画をわざと床に落としてみた。
「ギャッ!!!また落ちた!!!」
ディアン様は席を立ち上がり、走って部屋の隅に移動した。
そして体をガタガタと震わせた。
「相当古くなってきたと思ったが幽霊まで出るとは……ドロシーは実際に幽霊を目撃したから今日あんなことを言っていたのか……?」
「何を馬鹿なことを言っているんですか、早く仕事をしてください。というか、ここに住むと言ったのは紛れも無い貴方ではありませんか」
老執事は呆れたような顔でディアン様に仕事の催促をした。
そして私はというと――
(アハハ!楽しい!)
次々と物を落とし、ディアン様を怖がらせていた。
これは彼への報復だ。
(まぁ、まだまだ復讐は始まったばかりだけどね)
心の中でそう呟いた私は怯えるディアン様を見てニヤリと笑った。
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