愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの

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12 ドロシーとディアンの息子ルヴァン

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(今日はここまでにしておこうかな……)


今頃屋敷の中では幽霊が出たことで大騒ぎになっている。
これ以上暴れるのは良くないだろう。


そう思った私は、転移魔法を再び発動して邸宅の外へ出た。


(これ以上ここにいると、リアとの昼食に遅れてしまうもの)


ディアン様への報復はもちろん大事だが、愛娘との時間はもっと大切だ。
邸の外へ出た私は透明化を解除し、帰路につこうとした。


そのときだった――


「――おばさん、こんなところで何してるの?」
「!!!」


背後から突然子供の声が聞こえて振り返った。
その視線の先にいたのは――


「あれ……?貴方は……?」


リアと同じ、黒い髪に黒い瞳を持った幼い少年だった。
黒い髪に黒い瞳はグクルス公爵家の象徴だ。
つまり、それが意味するのは……


(もしかしてこの子は……!)


「ルヴァンって言います」
「……」


私の予想通り、ディアン様とドロシー様の息子のルヴァンだった。
男の子ではあるが、顔は母親であるドロシー様によく似ていて美しい。


「こんにちは、ルヴァン」


私は体をかがめて優しく挨拶をした。
いくら憎い相手の子供であろうと、何の罪も無い子にキツく当たることなど出来やしない。


「こんにちは、おばさんはここに何をしに来たの?」
「私は……貴方のご両親のお友達なの」
「お友達……」


(両親の知り合いだと聞いたらきっと警戒を解くはずよ)


幼い子供を利用するのは胸が痛むが、あの二人のことを聞くくらいなら大丈夫だろう。


「貴方のご両親はどんな人?」
「お父さんはすごく優しい人だよ!お母さんは……ちょっと変な人だけど好き」
「そう……」


(子供のことは可愛がってるみたいね)


リアとの格差には不満があるが、しっかりと子育てをしているようで安心した。


「おばさん、この近くにすごく綺麗な場所があるんだ!連れてってあげるよ!」
「あ、ルヴァン!そんなに走ると危ないわよ!」


突然方向を変えて走り出したルヴァンは案の定転びそうになってしまった。


「ルヴァン!!!」


私はすぐにそんな彼の体を支えた。
至近距離でルヴァンと目が合う。


「……おばさん、ありがとう」
「……」


ルヴァンは照れ臭そうに笑った。
彼の瞳をしばらく凝視していた私は、ある違和感を感じた。


(……ちょっと待って、これは)


あることに気が付いた私はルヴァンをそっと離すと、立ち上がった。


「ルヴァン、おばさん他に用が出来て今すぐ行かなければいけなくなったわ」
「え、そうなんだ……寂しいな」


ルヴァンは悲しそうに目を伏せた。


「私がここにいたことはお父さんとお母さんには内緒にしておいてくれるかしら?」
「どうして?」
「近いうちに……ご両親にサプライズをする予定だから」
「そっか、分かったよ!」


その言葉に納得したようで、彼は嬉しそうに笑った。


「またね、おばさん!今度は一緒に遊ぼう!」
「ええ、楽しみにしているわ!」


ルヴァンが邸宅の中に入ると、その姿が見えなくなるまで私は手を振り続けた。
それから魔法で公爵邸に戻ると、すぐに実家に手紙を送った。


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