もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」

 王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。

「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」

「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」

「……それはそうかもしれませんが」

「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」

 イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。

「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」

 こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。

「そ、それは嫌です!」

「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」

 イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。

 ──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。

 イライジャはそっと、口角をあげた。


 だが。

 そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。

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