もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ

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「あの、少しよろしいですか?」

 びくっと肩を揺らすコルホネン公爵令嬢。けれど、顔を上げようとしない。

「わたしの見間違いでなければ、そのハンカチ、イライジャ殿下のもの、ですよね?」

 クラリスの指摘に、コルホネン公爵令嬢は、はっと顔をあげた。

「わ、わたくし、別に盗んだわけではありません! ただ、イライジャ殿下がこれを落とされたのを目撃して、だから……っ」

「大丈夫ですよ。盗んだ、だなんて思っておりません。わたしはただ、あなたが泣いている理由を知りたいだけなのです」

 優しく、ゆっくりと語りかけてくるクラリスにほっとしたのか、コルホネン公爵令嬢は、いくぶん、落ち着いた様子だった。

「ここでは何ですから、よければ生徒会室にどうぞ。いまは、誰もいませんから」

「……いえ。けっこうですわ」

 弱く頭をふるコルホネン公爵令嬢に、クラリスは「そうですか」と呟き、コルホネン公爵令嬢を真正面から見据えた。

「では、謝罪だけでもさせてはもらえませんでしょうか」

「……どうして、ですか? 事情も何も知らないのに?」

「そう、ですね。でも……」

 クラリスはそこで、言葉を切った。イライジャは、笑顔で、平気で、人を傷付ける。それを知っているからこその謝罪。けれどいま、それを言うわけにはいかなかった。

「……いえ。憶測でものを言い、申し訳ありませんでした」

 クラリスが頭を下げると、コルホネン公爵令嬢は、目を丸くした。そして──。

「……そうですよね。あんな酷いことをおっしゃる方ですもの」

 え、と顔をあげるクラリス。コルホネン公爵令嬢は、左手の中にあるハンカチを見詰めた。

「婚約者のあなたに仕事を押し付け、毎日、容姿のいい令嬢と遊びほうけているのは、もはや学園中の周知の事実……」

 コルホネン公爵令嬢はそのハンカチを、廊下の窓から捨てた。

「……そんなあなたが傷付いていないはず、ないですよね。わたくしなどより、よほど……」

 それからコルホネン公爵令嬢は、クラリスに目線を移した。

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