もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ

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 国の王の息子として生を受けたイライジャは、十五歳となる年に王立学園に入学し、同時に、生徒会長となった。この国では、王位継承権のある者が生徒会長となるのが習わしだった。

 ──さて。

 イライジャには、同じ年の婚約者がいた。公爵令嬢の、クラリス・リンドバーグだ。他にも婚約者候補はいたが、クラリスを選んだ理由は一つ。

 顔が好みだったから、だ。

 しかし、イライジャにしてみれば、クラリスを選んだのは大正解だった。王妃教育に日々、勤しんでいるから。優秀だから。そういったことではなく。


「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」

 入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、イライジャが並んで歩くクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。

「やはり、イライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」

「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」

「……それはそうかもしれませんが」

「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」

 イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。

「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」

 こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。

「そ、それは嫌です!」

「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」

 イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。


 ──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。


 イライジャはそっと、口角をあげた。



 二人が婚約したのは、互いに十二歳のとき。イライジャがクラリスを婚約者に選んだ次の日に、クラリスは頬を染め、イライジャにこう告げてきた。

 前からお慕いしておりました、と。

 むろん、イライジャは悪い気はしなかった。だが、生来の女好きであるイライジャは、一人の女だけで満足したくなかった。

「未来の正妃はきみだ。けれどぼくは、側妃を何名か迎え入れたいと考えている」

 王宮内にある庭の東屋でお茶をしながら、イライジャは正面に座るクラリスにそう告げた。まだ婚約してからそれほど日は経っていなかったが、クラリスが前から自分を慕っていたと知ったイライジャは、断られることはないだろうという自信を持っていた。

「側妃、ですか」

「ああ。父上にも、側妃が一人いたことは知っているだろう?」

「はい」

「未来の王たるぼくの血は、できるだけ多く後世に残さなければならないからね」

「……そうですね」

 哀しげにうつむくクラリスを、席から立ち上がったイライジャは、後ろから抱き締めた。

「そんな顔をしないでくれ。これはあくまで、未来の王たるぼくの使命なのだから」

「……わかっているつもりです」

 クラリスの返しを、イライジャは肯定と受け取り、口元を緩めた。

「ありがとう、クラリス。愛しているよ」

 これで側妃探しという名目のもと、可憐な令嬢と遊べる。イライジャは、この婚約は正解だったと、心から喜んだ。

 とはいえ、まだ学園に通う前のことだったので、イライジャが見知らぬ令嬢と会えるのは、せいぜいが王宮内で開かれるパーティーのときだけだった。だからまだ誰も、イライジャが病的なまでに女好きだったとは、気付いていなかった。

 
 ──それから三年後。

 王立学園に入学したイライジャは、期待に胸を膨らませていた。まわりを見渡せば、好みの令嬢が大勢いたから。しかも、イライジャが王子だとわかれば、自らすり寄ってきた。

「婚約者はもう決まっているけれど、ぼくは、側妃を数名迎え入れたいと考えているんだ。ぼくの側妃になりたいという、美しい令嬢はいる?」

 大勢の令嬢の前で、イライジャは問いかけた。令嬢たちは目を輝かせ、是非にと、イライジャに詰め寄ってきた。その噂はあっという間に学園中に広まり、側妃になりたいという令嬢が、日々、イライジャの元に集まるようになった。

 イライジャにとってそれは、夢にまでみた光景だった。



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