もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ

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 ──いいえ。これは、公爵令嬢として生まれたわたしの責務。

 愛情などいっさい感じない。いっそ吐き気がするほどの相手ではあったが、クラリスは、ありがとうございます、とイライジャにゆるり頭を垂れた。

 クラリスは、思った。デクスターに会いたい。会って、せめて、好きだったと伝えたい。今はもう、他に好きな女性がいると言われても、受け止められるから。

 ──だから。

「……イライジャ殿下。わたし、気持ちを落ち着かせるため、少し王宮内を歩いてきてもよろしいでしょうか」

 どんな言葉も自分の都合のいいように解釈するイライジャは、きっと婚約者に選ばれた嬉しさのあまり、興奮しているのだろうと思い、笑顔でそれを許可した。


 クラリスは、デクスターの部屋に向かって足を進めた。一度だけ、ここが僕の部屋だよと、連れてきてもらったことがあったから。

(……デクスター様。お部屋におられるかしら)

 自然と、歩くスピードがどんどん早くなっていく。会いたい。会いたい。その一心で、クラリスは足を動かした。

 デクスターの部屋の前に着くと、クラリスはごくりと唾を呑み、扉をノックした。はい。中から応えた声色に、胸が高鳴ると同時に、涙が溢れそうになった。

「……デクスター様。クラリスです」

 冷静に。冷静に。心で唱えながら、クラリスが名前を名乗ると、扉がゆっくりと開かれた。

「──どうして」

 いつも会うのは、パーティーのときだけだったからだろう。デクスターは驚いた様子で、こちらを見ていた。それが少しおかしくて、クラリスは小さく笑ってしまった。

「──イライジャ殿下の、婚約者候補としてきました」

「……え?」

「そしてわたしが、婚約者に選ばれました」

 デクスターが目を見開いたまま、絶句する。嬉しい。少しは動揺してくれたのかしら。クラリスは、僅かな勇気を得たような気がした。


「デクスター様。わたし、あなたのことが大好きでした」


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