もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ

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 まわりの目を気にすることを知らないイライジャは、毎日、容姿の優れた複数の令嬢に囲まれていた。はじめのころは顔を出していた生徒会室も、次第に足は遠のき、本来なら生徒会長としての仕事をこなさなければならない時間も、令嬢たちと遊ぶことに費やすようになった。

 正直なところ、クラリスは安堵していた。これで生徒会の仕事が忙しくて、という言い訳もできるし、イライジャの相手は他の令嬢たちがしてくれるから。実際、学園に入学してからのイライジャは、ほとんどクラリスに構わなくなっていた。

 婚約者であるクラリスには、お可哀想に、という同情の目と、もっときちんと殿下に注意ができる令嬢がいいのではないかという、厳しい目が集中していた。でも、それはまっとうな意見だとクラリスは理解していたし、それで自分の評価が下がっても、構わなかった。

 あくまで、今は。

 王立学園に通う者は、ほとんどが貴族の子どもだ。子どもの話しは、親に伝わる。そうしてイライジャがどんな王子なのか、貴族社会にどんどん広がっていく。反比例するように、デクスターの株は、どんどん上がっていくことだろう。

(大丈夫。きっと、大丈夫。いくら陛下が次期国王がイライジャ殿下だと押しても、デクスター様を次期国王にとの意見が、大多数を占めれば……)

 ──ああ。けれど、いったいいつまで。

 ふと、心が折れそうになり、たまらなくデクスターに会いたくなるときがある。

(デクスター様の心はまだ、わたしにあるのかしら……)

 素敵な令嬢など、まわりにいくらでもいる。まだ婚約者も恋人もいないと聞くが、いつ、その噂が耳に届くかわからない。

(……そのとき、わたしはどうするのかな)

 イライジャより、デクスターが王に相応しい。その想いは、きっと変わらない。でも、これまでのように振る舞えるかは、自信がなかった。

 ──クラリスにとっての転機が訪れたのは、そんなときだった。

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