愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの

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14 裏の顔 ドロシー視点

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「ハァ……どうして私がこんな古い家に住まないといけないのよ……」
「ドロシー様……ここはディアン様と亡き母君が過ごした思い出の場所ですので仕方ないかと……」
「思い出?こんなボロい家が?」


私よりも既に死んだ母親の方が大事だというのか。


(私のことを愛してるだとか唯一残された家族とか言っていたわりには何一つ望みを叶えてくれないじゃない……)


こんなはずでは無かった。
私が望んでいたのはこんな生活では無い。


(公爵閣下ならもっと良い家に住んでもっと良い服を着れるはずでしょう?どうしてあの人はあんなにも庶民的なのかしら……)


公爵家の人間とはいえ所詮は愛人の子。
過去の煌びやかだった自分を思い浮かべた私は、小さな声で呟いた。


「あーあ……――様が生きていたらなぁ……」
「ドロシー様……?」
「いいえ、何でもないわ」


私はそれだけ言うと、侍女に出て行くよう命じた。
一人になった部屋で、私はじっくりと考え込んだ。


(どうにかして家を変えられないかしら……)


私の頭の中はそのことでいっぱいだった。
こんな古くてボロい家にこれ以上住み続けるのは限界だ。
それに、最近になって幽霊まで出たというのだ。


(きっとディアン様の母親の亡霊に違いないわ……いくら悲惨な死に方をしたからって私たちにまで迷惑をかけないでほしいわ)


ディアン様の母親。
平民出身で、先代公爵の子供を産んだというのに冷遇され続け、最後は惨めな死に方をした女。


(私は絶対にあんな風にはならないわ)


――正妻とその子供の座を奪ってでも、生き残る。
ルヴァンを産んだときにそう心に誓った。


そして自分のものを守るため、望みを叶えるためにはどんな手段だって使ってみせた。
だから今回の問題だって、別にそれほど難しいことではないのだ。


(そうね、私は何を迷っているのかしら。今まで通りにやればいいだけの話だわ)


私は一人きりの部屋でニヤリと口角を上げた。








***



ディアン様が領地の視察へ行った日のこと。
私はある人物と秘密裏に会っていた。


「こんなところに呼び出して、何の用だ?」
「貴方にしてほしいことがあるのよ」
「金さえ払うなら何だってする」
「もちろん、お金は用意してあるわ」


ローブのフードを深く被って顔を隠している彼の正体は裏社会の殺し屋だ。
金さえ払えばどんな悪事にだって手を染める、生粋の悪だ。
当然私と彼は初対面ではなく、彼に何度か仕事の依頼をしたことがある。


(結構長い付き合いなのよね)


ディアンよりも信頼出来、頼りになる存在かもしれない。
私は淡々と彼に今回の仕事内容を伝えていた。


「三日後の夜……家を燃やしてほしいんだけど」
「家?」
「ええ、この地図に示されている家を跡形も無く消してほしいの」
「殺人ではなく放火か?」
「そうよ、でもまぁ、誰かが死んだところで別にかまわないわ。あの忌まわしい家を消してくれるならね」
「そうか……分かった」


全て私の望みを叶えないディアン様のせいだ。
罪悪感なんて微塵も無い。


いや、むしろようやく新しい家に住めるのだと思うと清々した。


(あーやっとあの家から出られるのね!帰ったら新しい家を探しておかないと!)


彼と別れた私は明るい気持ちで邸宅へ戻った。



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