愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの

文字の大きさ
29 / 36

29 娘 ディアン視点

しおりを挟む
「放せ!!!私を誰だと思っているんだ!!!」
「静かにしてください、旦那様」


声を荒らげる私に、騎士は冷たい声でそれだけ言った。


(何だその態度は!?私はこの公爵家の当主だぞ!)


父の代からこの公爵家に仕えている騎士が、不敬にも程があるのではないか。


しかも、それだけではない。
通りすがりの使用人たちが口元に笑みを浮かべて私を見ているのだ。


――まるで”ざまあみろ”とでもいうかのように。


(クソッ!一体どういうことなんだ!)


私が家を空けている間に彼らは随分と変わってしまったらしい。
主の自分にそのような態度を取る使用人たちにも腹が立つが、今はそんなことどうでもいい。


(それよりあのクソ女を殺しに行かなければ……あいつだけは絶対に……!)


あんなのに騙されていた自分がとても情けない。
何故私はあんな女を好きになっていたのだろうか。


今さら後悔しても遅すぎるのは分かっている。
しかし、アイツだけは私の手で殺らなければ腹の虫が収まりそうにない。


「おい、放せ!アイツだけは私の手で殺るんだ……!」
「旦那様、あの女は裁判を経て確実に死刑になるでしょうからその必要はありません」
「それでは意味がないのだ!私が直接殺ることで……」
「はいはい、私刑は良くないですよ」
「おい、私の話を聞け!」


騎士は面倒くさそうに私の言葉を聞き流した。
その態度にムカついて暴れてみるが、筋力の無い私では全く歯が立たない。


「おい、私をどうする気だ!」
「それは奥様にお聞きください」


(奥様だと!?アイツはいつから私よりも上の立場になったんだ!!!)


他家の貴族令嬢に過ぎないアイツが何故当主のように扱われているんだ。


心の中でそんな不満を抱きながらも大人しく歩いていると、前から小さな子供が歩いてきた。
最初は誰だか分からなかった。


しかし、一歩一歩近付くたびにゆるくウェーブのかかった黒い髪がハッキリと見えた。
侍女を引き連れて歩いていた子供は、私の前で立ち止まった。
黒い大きな瞳が私を映す。


「……」
「……お前は……」


「リ、リアお嬢様!」


騎士が焦ったように声を上げた。


(お嬢様だと!?もしかして、あの女の娘か!?)


アイツに娘がいることは知っていたが、顔を見て驚いた。
私の子供の頃にそっくりではないか。


(リアと言ったか……)


誰がどう見ても間違いなく私の血を継いだ子だ。
ルヴァンは私の息子では無かったが、この子は確実に私の子だろう。


「リア……」


娘の姿を見て、何故だか胸が温かくなる。


(これが私の……)


見れば見るほど私に似ている。
何て愛らしいのだろう。


私は思わず、娘に飛びつきそうになった。


「リア!」
「――くそやろう」


「……………………………え?」


非常に冷たい目でそれだけ言うと、娘は侍女を連れて私の前から足早に立ち去って行った。


(い、今何て……)


驚いてその場から動けないでいる私をよそに、同行していた騎士は笑いを堪えきれないかのように口元をおさえてプルプルと震えている。


(ク、クソ野郎……?私は娘にクソ野郎と言われたのか……?)


ショックで立ち直れない。
それから私は放心状態のまま騎士に自室まで連れられ、沙汰を待つこととなった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。

Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...