【完結】公爵家の妾腹の子ですが、義母となった公爵夫人が優しすぎます!

ましゅぺちーの

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十七年ぶりの……

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「ん……」


朝日が昇り始めて部屋に日差しが差し込んだ頃、シルフィーラは広い寝台の上で目を覚ました。
彼女の隣ですやすやと吐息を立てて寝ていたのは、他でもない彼女の夫であるオズワルドだった。


「あ……」


シルフィーラはそこで昨夜起きたことを全て思い出し、顔を真っ赤に染めた。


彼女がオズワルドと褥を共にするのはまさに十七年ぶりのことだった。


シルフィーラはオズワルドが目を覚ましたら最初に何を言うべきか悩んだ。
昨日は何も考えず、衝動的に彼に抱かれたためその後のことなどまるで考えていなかったのである。
しかし、悪い気はしなかった。


「……」


シルフィーラは起きる気配の無いオズワルドの寝顔を見てクスリと笑った。
彼は誘拐された彼女をずっと捜していたのだ。


そのことを考えると、シルフィーラの中でオズワルドに対する愛おしさがこみ上げてくる。


彼女は隣で寝ているオズワルドの頬を指でツンツンと押した。
昔、シルフィーラとオズワルドが恋人同士だった頃に居眠りをしている彼を見てはよくしていたことである。
こうしているとまるであの頃に戻ったようで、何だか嬉しくなる。


「ふふふ」


二人とも年は取ったが、シルフィーラの心は少しも昔と変わらなかった。
今でも変わらずにオズワルドを愛している。


ちょっかいをかけても起きない彼が愛おしくてたまらない。
シルフィーラの口元が自然と緩んだ。


彼女はベッドに入ったままオズワルドの胸に頭を寄せた。
眠りに就いている彼は上半身裸だったため、彼の素肌がシルフィーラの頬に当たる。
どこか懐かしいような、そんな香りが彼女の鼻をくすぐった。


そんなシルフィーラの腰を、突然逞しい腕がギュッと抱き寄せた。


「あ……」


一瞬にして彼の胸に包まれたシルフィーラは、先ほどよりもずっと赤くなった顔をゆっくりと上げた。


「……………………旦那様」


オズワルドの薄っすらと開かれた青い瞳がシルフィーラを映した。
どうやら彼が目覚めたようだ。
まだ昨日の疲れが完全には取れていないようで眠そうな顔をしていたが。


「……シルフィーラ、おはよう」
「あ……おはようございます……」


疲弊しきっているはずのオズワルドは、シルフィーラを見て瞬く間に顔を綻ばせた。
そんな彼を見るのは久しぶりで、彼女の胸は高鳴った。


「旦那様、寒くありませんか?」
「いや、全然」


二人の体を覆っていた布団がずり落ちて肩が出ていることに気付いたシルフィーラがオズワルドに尋ねたが、彼は彼女を抱き締めたまま首を横に振るだけだった。


「そ、そうですか……」


オズワルドを意外そうに見つめたシルフィーラに、彼は真剣な面持ちで口を開いた。


「君が傍にいない夜の方がよっぽど冷たかった」
「だ、旦那様……」


オズワルドの苦しそうな表情を見てシルフィーラの胸は締め付けられた。
あの一件はオズワルドを信じることが出来なかった自分に非があったと、彼女はずっとそう思っていたからだ。
しかし、そこでオズワルドから出てきたのは予想外の言葉だった。


「俺はずっと……君はもう俺のことを嫌いになったのかと思っていた」
「……え!?私が旦那様をですか!?そんなことありえません!」


オズワルドの思いがけない告白に、シルフィーラは驚いた。
彼女はオズワルドを嫌いになったことなど一度も無かったからだ。
嫌っているのはむしろ――


「旦那様こそ……私に愛想を尽かしたのかと……」
「……俺が君に?そんなわけがないだろう、俺が愛しているのは君だけだ。それは今も昔も変わらない」
「旦那様……」


初めて語られる二人の本音。
お互いがお互いを誤解していたのだと、十七年の年月を経て二人はようやく気付いたのである。
シルフィーラはそれを聞いて涙が出そうになった。


「つまり……旦那様は……今も私のことが好きだと?」
「当たり前だ、嫌いになるわけがない」
「旦那様……!」


今にも泣きそうになっているシルフィーラを見て、オズワルドがフッと笑った。
そして、シルフィーラの肩口に顔を埋めるようにして彼女をギュッと抱き締めた。
彼女もまたそんなオズワルドの背中に手を回して抱き締め返した。


オズワルドはシルフィーラを抱き締めながら、彼女の金髪を手で撫で下ろした。
その慎重で優しい手にシルフィーラはこみ上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。


「それより、体は平気か?」


シルフィーラとコツンと額を合わせたオズワルドが、彼女を気遣うようにして尋ねた。
彼の温もりが全身に伝わってくる。


「あ……それが……その……久しぶりだったので……少し……」
「そ、そうか……」


昨夜の出来事を鮮明に思い出したのか、今度は二人揃って顔が真っ赤になった。
顔を赤くしたまま、オズワルドはシルフィーラにある提案をした。


「なら、今日は昼まで寝ていよう」
「え……そんな、大丈夫なのですか?」
「リデルは賢い子だからきっと分かってくれるさ」
「そ、そうでしょうか……」
「十七年ぶりなんだから、もう少しくらい一緒にいてもいいじゃないか」


オズワルドがシルフィーラを抱き締めたまま彼女の唇にキスをして優しく微笑んだ。
その笑みを見たシルフィーラは、いけないことだと分かっていながらも断ることが出来なかった。


「……はい、旦那様」


彼女の返事を聞いたオズワルドが、笑みをさらに深くして愛しそうにシルフィーラの額にキスをした。


その日、二人は昼を迎えるまでベッドの上でお互いの温もりを感じ合った。
もちろん、オズワルドは後になってそのことについてリデルから文句を言われることとなるのだが。

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