愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの

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41 殿下の過去

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『――すぐ飽きられて捨てられるさ、過去の女たちがそうだったように』


「……」


一人部屋に戻った私はベッドに腰掛け、ついさっきセシル殿下に言われた言葉の意味をじっくりと考えていた。
エイベル殿下が優しい人だということは分かっている。


しかし、どうも不安だった。
エイベル殿下は夫アランの旧友ではあるが、そこまで深く関わってこなかった人だ。
そのため、私よりも弟であるセシル殿下の方が彼のことはよく知っているだろう。


(捨てられたというのは一体……)


考え込んでいると、突然部屋の扉が開いた。


「――アンジェ」
「殿下……」


入って来たのはエイベル殿下だった。


「浮かない顔をしているな、どうかしたのか?」
「……」


殿下は黙り込む私に近付くと、優しく肩に手を置いた。


「アランに何か言われたか?それとも、男爵令嬢の方か」
「いえ、そういうわけではなくて……ただ……殿下に一つだけお聞きしたいことがあるんです」
「何でも聞いてくれ」


彼は私の隣に座ると、安心させるように膝の上に置かれていた手を握った。


「殿下の過去について……教えてほしいんです……」
「過去というのは……」
「お付き合いしていた女性たちのこととか……」
「……」


そのようなことを聞かれるとは思っていなかったのか、殿下が固まった。


「さっきセシル殿下にお会いしたんです……そこで殿下の女性遍歴のことをお聞きして……」
「それで、突然そのようなことを……」


殿下はハァとため息をついた。
話したくなさそうだったが、ここで引き下がるわけにはいかない。


「私、殿下のことをあまり知らなくて……知りたいんです」
「……」


彼はしばらく黙り込んだ後、私の思いを汲み取ったのかゆっくりと口を開いた。


「――私は、幼い頃からずっと一人だった」


この国の第一王子として生を受けたエイベル殿下は、両親に愛された記憶が無かった。
側妃に夢中な父と、そんなろくでもない父を想い続ける母。
両親から放置された彼は孤独な幼少期を過ごさざるを得なかった。


「決して良い母親とは言えなかったが……一人部屋で涙を流す母を見ているのはとても辛かった……同時に父を憎んだ」
「殿下……」


それから少しして母親は病気で亡くなり、父は当然のように側妃を王妃にした。
その後すぐに生まれたのは腹違いの弟セシル殿下だった。
父親は病気で亡くなった前王妃のことなど忘れ、平然と愛する女性と新しい家庭を築いた。


「王宮に私の居場所は無かった……父親は無関心で、義母は私を毛嫌いしていたからな」


殿下の堕落した生活が始まったのは十五歳になってからだった。
見目麗しく、第一王子という地位を持つ彼に寄ってくる女性は多い。
彼は寂しさを埋めるように多くの女性と関係を持った。


しかし、誰かを本気で愛することは一度も無かった。


「恐ろしかったんだ……人を愛するということが。愛に溺れ、壊れてしまった人間の末路を誰よりもよく知っていたから」


そう口にした彼の表情は酷く悲しそうだった。
彼はどれだけ辛い幼少期を過ごしたのだろう。
胸がズキズキと痛んだ。





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