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40 第二王子セシル
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その日の夜。
一人王宮の廊下を歩いていた私は、ある人物に声をかけられた。
「――バインベルク公爵夫人」
「貴方は……」
振り返ると、エイベル殿下と同じ綺麗な金髪が目に入った。
「――セシル殿下」
この国の第二王子セシルだった。
(身分の低い側妃……いや、現王妃との間に生まれたエイベル殿下の腹違いの弟……)
聞いた話によると、兄であるエイベル殿下との仲はあまり良くないらしい。
当然だろう、二人は王位を巡って対立する立場なのだから。
(現時点ではエイベル殿下よりセシル殿下の方が次期国王に近いと言われているのよね……)
第二王子ではあるものの、国王陛下からの愛を独占している彼が王位を継ぐのではないかともっぱらの噂だ。
そのことを殿下はどう思っているのだろうか。
「会うのはあの舞踏会以来だな、怪我をしたと聞いたが……」
「かなり回復しました、第一王子殿下のおかげです」
「そうか、それは良かった」
彼が優しく微笑んだ。
その笑みは少しだけエイベル殿下に似ていた。
兄のエイベル殿下とは対照的に、彼は品行方正な王子様として知られていた。
「ここ最近兄上の宮で暮らしているそうだな」
「ええ、第一王子殿下が特別に許可してくださいました」
「あの兄上が特別に……そんなことがあるんだな……」
セシル殿下は消えそうなくらい小さな声でポツリと呟いた。
「どうやら兄上はよほど君のことを大切に思っているようだ」
「大切だなんて……そんなことは……」
否定しようと口を開くと、彼がその言葉を遮った。
「――バインベルク夫人」
「……?」
低い声に顔を上げると、不機嫌そうな顔のセシル殿下が顔をグッと近付けてきた。
「君は兄上のことを何も知らないのか」
「……何のことでしょうか」
「――兄上の過去の女性遍歴のことさ」
「……!」
エイベル殿下が女性にだらしない生活を送っていたことは国中の誰もが知っている事実だった。
私も少し前まではその話を信じ、彼に良い感情を抱いていなかった。
しかし、今なら分かる。
(彼はきっと寂しかったんだわ……母親を亡くし、頼れる人も誰もいない孤独な王宮で一人過ごしていたんだもの)
その寂しさを埋めるため、多くの女性たちと関係を持っていたのだろう。
結局誰一人として愛することは無かったと侍女が言っていたが。
「……全て過去のことではありませんか」
「過去か……兄上は元々ああいう人だ、誰かを愛することなんて出来ないのさ。血の繋がった父親の愛さえ得られなかったんだから」
「……貴方に殿下の何が分かるというのですか」
「これでも幼い頃から兄上のことは見てきてるつもりだ」
彼は私を嘲笑うかのようにフッと口角を上げ、耳に唇を近付けた。
「思い上がるなよ、大切にされているのは今だけだ。数ヶ月も経てばすぐに飽きられて捨てられるだろう。――過去の女たちがそうだったように」
「……」
殿下はそれだけ言うと、そのまま私の前から去って行った。
一人王宮の廊下を歩いていた私は、ある人物に声をかけられた。
「――バインベルク公爵夫人」
「貴方は……」
振り返ると、エイベル殿下と同じ綺麗な金髪が目に入った。
「――セシル殿下」
この国の第二王子セシルだった。
(身分の低い側妃……いや、現王妃との間に生まれたエイベル殿下の腹違いの弟……)
聞いた話によると、兄であるエイベル殿下との仲はあまり良くないらしい。
当然だろう、二人は王位を巡って対立する立場なのだから。
(現時点ではエイベル殿下よりセシル殿下の方が次期国王に近いと言われているのよね……)
第二王子ではあるものの、国王陛下からの愛を独占している彼が王位を継ぐのではないかともっぱらの噂だ。
そのことを殿下はどう思っているのだろうか。
「会うのはあの舞踏会以来だな、怪我をしたと聞いたが……」
「かなり回復しました、第一王子殿下のおかげです」
「そうか、それは良かった」
彼が優しく微笑んだ。
その笑みは少しだけエイベル殿下に似ていた。
兄のエイベル殿下とは対照的に、彼は品行方正な王子様として知られていた。
「ここ最近兄上の宮で暮らしているそうだな」
「ええ、第一王子殿下が特別に許可してくださいました」
「あの兄上が特別に……そんなことがあるんだな……」
セシル殿下は消えそうなくらい小さな声でポツリと呟いた。
「どうやら兄上はよほど君のことを大切に思っているようだ」
「大切だなんて……そんなことは……」
否定しようと口を開くと、彼がその言葉を遮った。
「――バインベルク夫人」
「……?」
低い声に顔を上げると、不機嫌そうな顔のセシル殿下が顔をグッと近付けてきた。
「君は兄上のことを何も知らないのか」
「……何のことでしょうか」
「――兄上の過去の女性遍歴のことさ」
「……!」
エイベル殿下が女性にだらしない生活を送っていたことは国中の誰もが知っている事実だった。
私も少し前まではその話を信じ、彼に良い感情を抱いていなかった。
しかし、今なら分かる。
(彼はきっと寂しかったんだわ……母親を亡くし、頼れる人も誰もいない孤独な王宮で一人過ごしていたんだもの)
その寂しさを埋めるため、多くの女性たちと関係を持っていたのだろう。
結局誰一人として愛することは無かったと侍女が言っていたが。
「……全て過去のことではありませんか」
「過去か……兄上は元々ああいう人だ、誰かを愛することなんて出来ないのさ。血の繋がった父親の愛さえ得られなかったんだから」
「……貴方に殿下の何が分かるというのですか」
「これでも幼い頃から兄上のことは見てきてるつもりだ」
彼は私を嘲笑うかのようにフッと口角を上げ、耳に唇を近付けた。
「思い上がるなよ、大切にされているのは今だけだ。数ヶ月も経てばすぐに飽きられて捨てられるだろう。――過去の女たちがそうだったように」
「……」
殿下はそれだけ言うと、そのまま私の前から去って行った。
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