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3 公爵家へ
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「お嬢様……とうとう行ってしまわれるのですね」
「アビー……そんなに心配しないで」
あっという間に二ヶ月が経ち、私が公爵家へ嫁ぐ日となった。
公爵邸に向かう馬車の前でアビーと熱く抱擁を交わした。
「どうかお嬢様が幸せでありますように」
「アビー……」
溢れそうになる涙を堪え、馬車へ乗り込んだ。
いつ帰って来れるかは分からない。
もしかすると永遠に帰れないかもしれないし、すぐに戻ってくるかもしれない。
(さよなら……どうか元気でね……)
不安な私を一人乗せたまま、馬車はブリントン公爵家へと向かった。
***
「――ブリントン公爵邸へ到着致しました」
「今行くわ」
しばらくして、外から御者の声が聞こえた。
馬車から降りた私の視界に入ったのは王宮にも劣らないほどの大豪邸だ。
(伯爵邸もかなり大きかったけれど、やはり公爵家は別格ね……)
元々由緒正しい家門であるブリントン公爵家はウィルベルトが当主になってからさらに力をつけてきているらしい。
今や王国一の家門と言ってもいいだろう。
――今の私にとっては何の魅力も感じられないが。
「オーブリー伯爵令嬢、お待ちしておりました」
「……」
公爵邸へやって来た私を最初に出迎えたのは老齢の執事だった。
何かが変だと感じた私は、遠慮がちに彼に尋ねた。
「あの……公爵様はどちらへ?」
「旦那様はお仕事が忙しいようで……現在留守にしております」
「……」
執事は気まずそうにそれだけ言って前を歩いた。
それが何を意味しているのか、分からないほど馬鹿ではない。
(私が来る時間は知っているでしょうに……妻として扱うつもりは無いという意思表示かしら……)
伯爵家から嫁いできた妻を出迎えるのが屋敷の執事だけとは。
もちろん歓迎されるとは思っていなかったが、最初からこれほどの冷遇をされるとも思っていなかった。
(何だか辛いわね……)
前を歩く執事について邸宅へと入る。
使用人たちの刺すような視線が痛い。
あからさまに敵意を露わにする者、初日から冷遇を受ける私を嘲笑する者。
どれも気分のいいものではない。
「――こちらのお部屋をお使いください」
「え……ここ……ですか……?」
しばらくして私が通されたのは公爵邸の隅にある質素な造りの部屋だった。
(ここは……どこからどう見ても公爵夫人の部屋では……)
私が通されたのは一介の使用人が暮らすような部屋だ。
いくら何でも変だと思い、執事に確認する。
「何かの間違いでは……」
「いえ、公爵様からこちらを奥様に宛がうようにと言われております」
「……」
ウィルベルトが私にこの部屋を宛がっただなんて。
ここはおそらく屋敷で働く侍女が使う部屋だ。
(そんな部屋を……公爵夫人になる私に使えと……?)
躊躇してなかなか部屋に入ろうとしない私に、執事が鋭い目を向けた。
「何か不満でも?貴方のような家門の人間が王国屈指の名門であるブリントン公爵家に嫁げるだけ感謝するべきでは?」
「あ、いえ……そういうわけでは……」
オーブリー伯爵家はブリントン公爵家とも釣り合うほどに由緒正しい家門だ。
しかし、隙あらば悪事を働く父のせいで社交界での評判は最悪。
そんな伯爵の娘である私にはいつだって父の悪名がまとわりついた。
(彼らからしたら私は悪徳伯爵の娘……こんな扱いを受けるのも当然かしら……)
言い返したかったが、面倒なことになると思い何とか抑えた。
部屋に入り荷物を置いた私は、つい不安になって執事に尋ねた。
「明日……本当に結婚式があるのですよね?」
「ええ」
彼は表情を変えることなく頷いたが、どうしても聞かずにはいられなかった。
「公爵様は……式までには戻られますよね……?」
「……」
その質問に、彼が答えることは無かった。
「アビー……そんなに心配しないで」
あっという間に二ヶ月が経ち、私が公爵家へ嫁ぐ日となった。
公爵邸に向かう馬車の前でアビーと熱く抱擁を交わした。
「どうかお嬢様が幸せでありますように」
「アビー……」
溢れそうになる涙を堪え、馬車へ乗り込んだ。
いつ帰って来れるかは分からない。
もしかすると永遠に帰れないかもしれないし、すぐに戻ってくるかもしれない。
(さよなら……どうか元気でね……)
不安な私を一人乗せたまま、馬車はブリントン公爵家へと向かった。
***
「――ブリントン公爵邸へ到着致しました」
「今行くわ」
しばらくして、外から御者の声が聞こえた。
馬車から降りた私の視界に入ったのは王宮にも劣らないほどの大豪邸だ。
(伯爵邸もかなり大きかったけれど、やはり公爵家は別格ね……)
元々由緒正しい家門であるブリントン公爵家はウィルベルトが当主になってからさらに力をつけてきているらしい。
今や王国一の家門と言ってもいいだろう。
――今の私にとっては何の魅力も感じられないが。
「オーブリー伯爵令嬢、お待ちしておりました」
「……」
公爵邸へやって来た私を最初に出迎えたのは老齢の執事だった。
何かが変だと感じた私は、遠慮がちに彼に尋ねた。
「あの……公爵様はどちらへ?」
「旦那様はお仕事が忙しいようで……現在留守にしております」
「……」
執事は気まずそうにそれだけ言って前を歩いた。
それが何を意味しているのか、分からないほど馬鹿ではない。
(私が来る時間は知っているでしょうに……妻として扱うつもりは無いという意思表示かしら……)
伯爵家から嫁いできた妻を出迎えるのが屋敷の執事だけとは。
もちろん歓迎されるとは思っていなかったが、最初からこれほどの冷遇をされるとも思っていなかった。
(何だか辛いわね……)
前を歩く執事について邸宅へと入る。
使用人たちの刺すような視線が痛い。
あからさまに敵意を露わにする者、初日から冷遇を受ける私を嘲笑する者。
どれも気分のいいものではない。
「――こちらのお部屋をお使いください」
「え……ここ……ですか……?」
しばらくして私が通されたのは公爵邸の隅にある質素な造りの部屋だった。
(ここは……どこからどう見ても公爵夫人の部屋では……)
私が通されたのは一介の使用人が暮らすような部屋だ。
いくら何でも変だと思い、執事に確認する。
「何かの間違いでは……」
「いえ、公爵様からこちらを奥様に宛がうようにと言われております」
「……」
ウィルベルトが私にこの部屋を宛がっただなんて。
ここはおそらく屋敷で働く侍女が使う部屋だ。
(そんな部屋を……公爵夫人になる私に使えと……?)
躊躇してなかなか部屋に入ろうとしない私に、執事が鋭い目を向けた。
「何か不満でも?貴方のような家門の人間が王国屈指の名門であるブリントン公爵家に嫁げるだけ感謝するべきでは?」
「あ、いえ……そういうわけでは……」
オーブリー伯爵家はブリントン公爵家とも釣り合うほどに由緒正しい家門だ。
しかし、隙あらば悪事を働く父のせいで社交界での評判は最悪。
そんな伯爵の娘である私にはいつだって父の悪名がまとわりついた。
(彼らからしたら私は悪徳伯爵の娘……こんな扱いを受けるのも当然かしら……)
言い返したかったが、面倒なことになると思い何とか抑えた。
部屋に入り荷物を置いた私は、つい不安になって執事に尋ねた。
「明日……本当に結婚式があるのですよね?」
「ええ」
彼は表情を変えることなく頷いたが、どうしても聞かずにはいられなかった。
「公爵様は……式までには戻られますよね……?」
「……」
その質問に、彼が答えることは無かった。
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