虐げられた新妻は義理の家族への復讐を決意する

ましゅぺちーの

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2 願い

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「ブリントン公爵閣下に想い人がいらっしゃるということは有名な話ですのに……伯爵様は一体何を考えているのでしょう!」
「アビー……落ち着いて」


この結婚に声を荒らげて怒りを露わにしたのは侍女のアビーだ。
幼い頃に母親を亡くし、兄弟もいなかった私にとっては母親代わりであり、姉のような存在だった。


「ですが、お嬢様……恋人のいる相手に嫁ぐだなんて、そんな……」
「心配しないで、あちらも既に関係は清算しているみたいだから」
「しかし……」


アビーの心配はもっともだ。
貴族の間で政略結婚は珍しいことでは無いが、今回ばかりは最悪の状況だといえるだろう。
別に想う相手がいるうえに、自分の父親のせいで引き裂かれたのだ。


当然、私だってこんな結婚は不服だ。
しかし声を上げたところでどうにもならない。


私は不安げに見つめるアビーを安心させるように笑った。


「公爵様はとても素敵な人だわ。実はここだけの話なんだけれど、私も密かにお慕いしていたのよ」
「そ、それは本当ですか……?」


アビーが目を丸くした。


「ええ、恥ずかしくて誰にも言えなかったの。恋人がいらっしゃるからと諦めていたのに……お慕いしている方と結婚出来るだなんて夢のようだわ!」
「お嬢様……」


これは嘘だ。
慕うどころか、ブリントン公爵様とは会話すらほとんどしたことがない。
唯一私の身を案じてくれる存在であるアビーを安心させるための嘘だった。


(お互いに望まぬ結婚ではあるけれど……良い夫婦になれたらいいな……)


どれだけ私が邪魔な存在であろうとも、夫婦になるという事実は変わらない。
だからこそ、これから夫となる彼とは良い関係を築きたかった。


アビーは最後まで納得いかないというような顔をしながらも、結局は折れたようでこれ以上何か言うことは無かった。


「お嬢様……伯爵邸からお嬢様の幸せを願っています」
「ありがとう、アビー。貴方もね」


彼女のためにも、私は幸せにならなければいけないのだという想いが芽生えてくる。
そんな優しいアビーとももうお別れだ。
溢れそうになる涙を堪え、外の空気を吸いに部屋を出た。


いつの間にか夜になっていたようだ。
突然結婚の話を聞かされたせいか、時間を忘れてしまっていたらしい。
こんな気分は久しぶりだ。


「……」


冷たい夜の風が吹き抜ける。
目の前を塞ぐ真っ暗な闇が、今の私の心境と似ていた。


あと二ヶ月で私はほとんど知らない人と結婚する。
愛されるという自信はハッキリ言って無い。
社交界で話題になるほど美しいわけでもなく、かといって特別何かに秀でているわけでもない。
だからこそ、不安は尽きなかった。


(神様……お願いします……)


そんな私の願いはただ一つだけ。


(どうか……どうか公爵様と上手く夫婦としてやっていけますように……)


暗闇の中で光を放つ月をじっと見つめながら、心の中でそう呟いた。
どうか叶いますようにと、両手を組んで祈りながら。


――しかし、そんな私の願いは結婚初日にして崩れ去ってしまうことを、このときの私はまだ知らなかった。


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