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6 義母
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「大奥様、奥様がいらっしゃいました」
「――あら、遅かったわね」
部屋へ入ると、一足先に先代の公爵夫人が席に着いていた。
彼女は私を見るなり、不快そうに眉をひそめた。
「ちょっと何よ、その格好は。ブリンストン公爵家の嫁がそんなみずぼらしいドレスを着るだなんて恥ずかしいわ」
「も、申し訳ありません……」
「貴方は自分がブリンストン公爵の妻になったということを理解しているの?よくもそんな格好で外へ出られたわね」
「……」
用意したのは私ではなく、侍女だ。
私が使用人たちに冷遇されていることなど知らないのか、義母はただ私を𠮟りつけた。
チラリと部屋の隅に視線をやると、ドレスを用意した侍女がこちらを見て歪んだ笑みを浮かべていた。
「まぁいいわ、座りなさい」
「はい」
椅子に座ると、夫人が私をじっと見つめた。
意図が分からずに戸惑っていると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「貴方を見ていると昔の私を思い出すわ。ここへ嫁いだばかりの頃の話よ……旦那様はとても優しくしてくださって……」
「は、はい……」
それから公爵夫人は長々と惚気話をし始めた。
(私が夫に冷遇されていることは薄々勘付いているでしょうに……)
嫌味を言っているつもりなのだろうか。
面倒だったが、適当に相槌を打って聞いていた。
「……と、私の話はこれくらいにして次は貴方のことを聞かせてちょうだい」
「私のこと……ですか?」
首を傾げると、公爵夫人はニッコリと笑った。
その美しい笑みは舞踏会で見かけた公爵様にそっくりだった。
「ええ、昨日初夜だったでしょう?」
「……」
初夜は行われていない。
ウィルベルトが私の部屋を訪れることは無かった。
嘘をつくわけにもいかず、私はこう言うしかなかった。
「初夜は……行っていません」
「何ですって?」
夫人の目が鋭くなった。
まずいと思い、慌てて説明を加えた。
「旦那様は昨夜部屋へいらっしゃいませんでしたので……来ないものかと思って……」
それを聞いた夫人はハァと盛大なため息をついた。
「貴族の妻の最大の役目は跡継ぎを産むことよ。それをしっかり理解しているのかしら?」
「はい、存じております」
「大体貴方に魅力が無いからウィルベルトが訪れなかったのではなくて?もっと美しくなりなさい」
「は、はい……」
(お義母様は公爵様を溺愛していらっしゃるのね……)
どう考えても非があるのはウィルベルトの方だというのに何かと彼の肩を持つようなことばかりを述べ、一切私の味方をしない。
一人息子が可愛いのは分からないことも無いが、いくら何でも異常だ。
それから夫人は自身の息子の魅力を延々と説明し始めた。
早く終わらないかと思い始めていたそのとき、扉の方から声が割って入った。
――「大奥様、奥様。旦那様がいらっしゃいました」
「あら、やっと来たのね」
「……!」
それから時間を空けずに低い声が耳に入った。
「――母上、お待たせしました」
慌てて声のした方を向くと、精悍な男性が部屋へ入って来るところだった。
近くで見るのは初めてかもしれない。
(この人が……)
――ウィルベルト・ブリントン
切れ長の青色の瞳が私を捉えた。
私はこの日、結婚してから初めて夫となる人と目を合わせた。
「――あら、遅かったわね」
部屋へ入ると、一足先に先代の公爵夫人が席に着いていた。
彼女は私を見るなり、不快そうに眉をひそめた。
「ちょっと何よ、その格好は。ブリンストン公爵家の嫁がそんなみずぼらしいドレスを着るだなんて恥ずかしいわ」
「も、申し訳ありません……」
「貴方は自分がブリンストン公爵の妻になったということを理解しているの?よくもそんな格好で外へ出られたわね」
「……」
用意したのは私ではなく、侍女だ。
私が使用人たちに冷遇されていることなど知らないのか、義母はただ私を𠮟りつけた。
チラリと部屋の隅に視線をやると、ドレスを用意した侍女がこちらを見て歪んだ笑みを浮かべていた。
「まぁいいわ、座りなさい」
「はい」
椅子に座ると、夫人が私をじっと見つめた。
意図が分からずに戸惑っていると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「貴方を見ていると昔の私を思い出すわ。ここへ嫁いだばかりの頃の話よ……旦那様はとても優しくしてくださって……」
「は、はい……」
それから公爵夫人は長々と惚気話をし始めた。
(私が夫に冷遇されていることは薄々勘付いているでしょうに……)
嫌味を言っているつもりなのだろうか。
面倒だったが、適当に相槌を打って聞いていた。
「……と、私の話はこれくらいにして次は貴方のことを聞かせてちょうだい」
「私のこと……ですか?」
首を傾げると、公爵夫人はニッコリと笑った。
その美しい笑みは舞踏会で見かけた公爵様にそっくりだった。
「ええ、昨日初夜だったでしょう?」
「……」
初夜は行われていない。
ウィルベルトが私の部屋を訪れることは無かった。
嘘をつくわけにもいかず、私はこう言うしかなかった。
「初夜は……行っていません」
「何ですって?」
夫人の目が鋭くなった。
まずいと思い、慌てて説明を加えた。
「旦那様は昨夜部屋へいらっしゃいませんでしたので……来ないものかと思って……」
それを聞いた夫人はハァと盛大なため息をついた。
「貴族の妻の最大の役目は跡継ぎを産むことよ。それをしっかり理解しているのかしら?」
「はい、存じております」
「大体貴方に魅力が無いからウィルベルトが訪れなかったのではなくて?もっと美しくなりなさい」
「は、はい……」
(お義母様は公爵様を溺愛していらっしゃるのね……)
どう考えても非があるのはウィルベルトの方だというのに何かと彼の肩を持つようなことばかりを述べ、一切私の味方をしない。
一人息子が可愛いのは分からないことも無いが、いくら何でも異常だ。
それから夫人は自身の息子の魅力を延々と説明し始めた。
早く終わらないかと思い始めていたそのとき、扉の方から声が割って入った。
――「大奥様、奥様。旦那様がいらっしゃいました」
「あら、やっと来たのね」
「……!」
それから時間を空けずに低い声が耳に入った。
「――母上、お待たせしました」
慌てて声のした方を向くと、精悍な男性が部屋へ入って来るところだった。
近くで見るのは初めてかもしれない。
(この人が……)
――ウィルベルト・ブリントン
切れ長の青色の瞳が私を捉えた。
私はこの日、結婚してから初めて夫となる人と目を合わせた。
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