お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

文字の大きさ
14 / 87

14 舞踏会

しおりを挟む
しばらくして、舞踏会が開かれる時間になった。


私は正装である黒い軍服を身に纏い、軽く身だしなみを整えて会場へと向かう。


国王である私の入場の順番は一番最後だ。
ホールでは既に貴族たちが王の誕生日を祝いに集まっている頃だろう。


(……こんな時に祝い事か)


一年に一度の誕生日だというのに、私は朝からずっと気乗りしないままだった。
今祝われたところで別に嬉しくも何ともない。
本音を言えば誰とも会いたくなかった。


舞踏会と聞くと平民たちは華やかな場を想像するだろう。
美しいドレスに身を包んだ女性たちが男性の手を取ってホールで踊り、ワイン片手に談笑をする。
憧れを抱く者も多いはずだ。
しかし、実際はそんなものではないことを私はよく知っている。


――ウィルベルト王国の名門公爵家の令嬢で、当時王太子の婚約者だったフランチェスカですら貴族たちの悪意に晒されていたのだから。


貴族というのはプライドが高く、腹黒な人間が多い。
そんな貴族たちが自分より権力を持つ者に取る行動は大きく分けて二つだ。
媚びを売るか、貶めるか。


私の場合は媚びを売ってくるものが圧倒的に多かったが、フランチェスカの場合はそうではなかった。
伯爵以上の爵位を持つ貴族の令嬢は、事あるごとにフランチェスカを蹴落として自分が王太子妃になろうとした。


(あれは本当に見ていて気分が悪かった。これだから貴族はあまり好きではない)


私は歩きながらハァとため息をついた。


私は昔からフランチェスカ以外の貴族の令嬢がどうも苦手だった。
彼女が亡くなり王妃の座が空席となっている今、その椅子を狙う者も現れるだろう。


そのことを考えると頭が痛くなる。


(王である以上、国のことを考えれば妃を娶るべきなのだろう。しかし、私は……)


そんなことを考えながら歩いていると、後ろに付いていた侍従が突然私に話しかけた。


「陛下、ずっと前から思ってたんですけど陛下って何か歩くの遅くないですか?」
「……」


この侍従はフランチェスカが亡くなってから私に無礼な態度を取るようになった。
侍従とはかなり長い付き合いであり、最も信頼のおける相手なので別に気にしてはいないが。


それよりも私は侍従の言葉の真意が気になった。


「……それはどういう意味だ?」


私は前を向いたまま侍従に聞き返した。


(こいつは急に何を言い出すんだ)


「そのままの意味ですよ。陛下って歩くの遅いですよね。一緒に歩くこっちの身にもなってくださいよ。毎回毎回合わせるの大変なんですから」


私の問いに侍従は少し不満げに答えた。


「……そんなに遅いか?」
「はい」


(歩くのが遅い……か)





『レオ!もう、足速すぎるよ!少しくらい待ってくれたっていいじゃない!』





そのときに私の頭に浮かんだのは、まだ幼かった頃のフランチェスカとの記憶だった。


彼女は勉学においては優秀な人物だったが、どうも運動は苦手なようだった。
私は幼い頃から剣術を嗜んでいたからか同年代の令息たちに比べれば体力はそこそこある方で、二人で遊んだりすると先に体力の限界を迎えるのはいつもフランチェスカの方だった。


それに加えてフランチェスカは歩くのも遅かった。
隣を歩いていてもいつの間にか後ろにいるのだから。


そんなときはいつだって小さな手で私の服の裾をギュッと掴んで頬を膨らませていた。


(……癖になってたんだな)


フランチェスカが隣を歩いている。
それが当たり前のことすぎて、どうやら私は無意識に歩くのが遅くなっていたらしい。


幼い頃の私とフランチェスカは好奇心旺盛でヤンチャな性格だった。
イタズラをしたり、二人で王宮を走り回ったりもしていた。


(淑女が走るなど本当ならあってはならないことだが……)


あの頃のフランチェスカは本当に可愛かったなと思う。
もちろん大人になった彼女が可愛くないわけではないが。


「ふっ……」


フランチェスカと過ごした日々を思い出して自然と口元が緩んだ。


私を穏やかな気持ちにさせてくれるのはいつだって彼女との記憶だった。
王宮の庭園でお茶をしたり、お忍びで市井へ出かけたり、二人でダンスの練習をしたり。
そのどれもが大切な思い出だった。


物心ついた時にはいつもフランチェスカが傍にいた。
彼女は間違いなく私の家族で、唯一無二の存在だった。


(何で君は今……私の隣にいないんだろうな……)


それが自分のせいであると分かってはいたが、信じたくなかった。


「陛下、会場に着きましたよ」
「!」


考え事をしているうちにホールの入り口に着いたようだ。


「ああ、今行く」


私はそこで一度考えるのをやめ、扉の前に立った。






「レオン・ウィルベルト国王陛下です!!!」


そして扉の横にいた騎士の声でホールへと足を踏み入れた――


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...