お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

文字の大きさ
15 / 87

15 ホワイト侯爵令嬢

しおりを挟む
私が会場に入ると、ホールに集まっていた貴族たちが一斉に頭を下げた。


「……」


フランチェスカが隣にいない状態でホールを歩くことなど初めてだ。
舞踏会ではいつだって彼女を同伴させていたから。
左隣が空いていることに寂しさを感じている自分がいた。


(……とっとと行ってしまおう)


そう思った私は、早足で奥にある玉座へと向かう。
早くこの舞踏会を終わらせてしまいたかったからだ。
何よりフランチェスカが隣にいない今、ゆっくりと歩く必要もない。


王妃が亡くなって間もないというのに令嬢たちはこれでもかというほど美しく着飾り、私をチラチラと見ている。
彼女たちが何を考えているのかなど言うまでもない。
空席になった王妃の椅子を本気で狙いに来ているのだ。


私とフランチェスカの夫婦仲が冷え切っていたのは社交界では有名な話だったから、私がすぐに新しい王妃を迎えると思っているのだろう。


そう考えると気分が悪くなった。


ただでさえ心身共に疲弊しているというのに、これ以上面倒事を増やさないでほしいものだ。
まぁこうなったのも全て私のせいではあるが。


玉座に到着した私は頭を下げている貴族たちに向かって言った。


「顔を上げろ」


その声で貴族たちが顔を上げた。
彼らの視線が一斉に私に刺さる。


(……頭が痛い)


私は昔から貴族たちのこの視線があまり得意ではなかった。
――顔は笑っていてもその瞳の奥には得体の知れないものが存在するのだから。








◇◆◇◆◇◆




「陛下、お誕生日おめでとうございます」
「……あぁ」


その後、玉座に座った私の元に貴族たちが祝いの言葉を述べにやって来た。
しかし今の私には何一つ頭に入ってこない。
それどころか、この空間に息が詰まりそうだ。
これなら部屋で黙々と執務をこなす方がまだマシである。


もし叶うなら、幼い頃のようにフランチェスカと二人で過ごしたかった。
彼女が誰よりも早く私の誕生日を祝いに王宮へ訪れる。
そして、二人だけの空間でお茶をしながら夢を語り合って過ごすのだ。





(………………………虚しい)


絶対に叶うことのない願い。
例え、私が今死んだとしても彼女のいる天国へは行けないだろう。
私の死後の世界は地獄だ。
フランチェスカに会う日が来ることは永遠にない。


舞踏会の最中だというのに、フランチェスカのことを考えてしまっている自分が嫌になる。


(……早くこの時間が終わらないだろうか)



そのとき、挨拶を適当に聞き流していた私に一人の貴族が声をかけた。



「陛下」
「……?」


そこで一歩前に出たのはウィルベルト王国の名門であるホワイト侯爵家の当主だった。


(……ホワイト侯爵か。面倒な相手が来たな)


ホワイト侯爵は狡猾で自分の目的のためなら手段を選ばない人間だ。
実際この男は愛人の子であったにもかかわらず、正妻の子である腹違いの兄弟を蹴落として当主になったという過去がある。


そんなホワイト侯爵は私を見つめてニヤニヤしている。


「陛下、王妃陛下がお亡くなりになられてから公務や執務を一人でこなされているとお聞きしました。そろそろ新しい王妃をお迎えになられてはいかがでしょうか?国母である王妃の座をいつまでも空席にしておくのもどうかと思いますし」
「……」


(……それが目当てか。聞く価値も無いな)


私は王妃が亡くなってすぐにそんなことを平然と言うホワイト侯爵に嫌悪感を抱いた。
前々から欲深い人間だとは思っていたがここまでだとは思わなかった。


ホワイト侯爵は不快感を露わにする私を気にも留めずに言葉を続けた。


「実はですね、私の娘が陛下のことを密かにお慕いしているそうなのです。レティ、こっちに来なさい」
「はい、お父様」


侯爵がそう言うと、後ろに控えていた侯爵の娘と思われる令嬢が前に出た。
青いドレスを身にまとい、ゆるくウェーブのかかった髪の毛をハーフアップにした美しい少女だった。


(……かなり若いな。まだ十代ではないのか?)


「国王陛下、お誕生日おめでとうございます。ホワイト侯爵家が長女、レティと申します」


ホワイト侯爵令嬢はそう言いながら美しいカーテシーをした。
洗練されている高位貴族のものだ。


その美しい容姿も相まってホールにいた貴族たちから感嘆の声が漏れた。


「……」


しかし私にはどうも心に響かなかった。
他の貴族令嬢と同じにしか見えない。


(レティ・ホワイト……どこかで聞いたことのある名前だな……)


そんなことよりも、私はレティ・ホワイトという名に聞き覚えがあった。
彼女の顔をまじまじと見つめて、ようやく気が付いた。


(あ……たしか……)


――社交界の華レティ・ホワイト


三年前に社交界デビューをした令嬢で、類稀なる美貌と洗練された美しい所作で何人もの貴族令息を虜にしたという女。
国内外問わず縁談が山のように来ているというのに未だ婚約者はいない。
貴族社会ではかなり有名な人物だった。


「とても綺麗な娘でしょう?レティはまだ十八なのですよ。陛下とは少し年が離れておりますが……まぁ政略結婚では珍しい年の差ではないでしょう。レティは優秀な娘です。王妃となった暁にはきっと陛下の力となってくれるでしょう」
「はい、もちろんですわ」


侯爵令嬢はそう言ってニッコリと笑った。


周りにいた男たちは顔を赤らめて彼女を見つめている。
どうやらかなりの令息がホワイト侯爵令嬢に骨抜きにされているらしい。


侯爵令嬢は穏やかな笑みを浮かべて私をじっと見つめている。
時折、照れたようにモジモジしたりして。


「陛下……」
「……」


私と侯爵令嬢の視線がぶつかる。
彼女と目を合わせた私は、その瞳の奥にあるものをじっと見つめてみる。


(………………………………違うな)


私はホワイト侯爵家の令嬢の目を見て、彼女は私を愛しているわけではないということが一瞬で分かった。


ただ単に王妃の座を狙っているだけだろう。
父親に王妃になれと言われたのか、それとも本当に王妃になりたいのかは分からないが、少なくとも彼女からは私に対する愛が一切感じられなかった。


侯爵令嬢は私を見つめたまま一歩前に出て言った。


「陛下、私は心から陛下のことをお慕いしております。よろしければこの後、私と一曲踊ってくださらないでしょうか」


彼女はキラキラとした眼差しで玉座に座る私を見上げて言った。
それを見たところで大して心を動かされなかったが。


「……」


突然の提案に黙り込んだ私に、ホワイト侯爵が逃げ場を無くすかのように大声で言った。


「それは良い考えだ!陛下、レティは今日陛下と踊るのを楽しみにしていたんですよ!是非とも一曲お願いします!」
「……」


周りにいる貴族たちの間で小さなざわめきが起きる。


(………………ダンスか)


私のファーストダンスの相手はいつもフランチェスカだった。
今までフランチェスカ以外の女性と踊ったことは一度も無い。
本当なら彼女以外の女とは踊りたくなかったが、今回ばかりはそうもいかない。


ホワイト侯爵は一人娘であるレティ・ホワイト侯爵令嬢を溺愛している。
簡単には引き下がらないだろう。
それにここで断るのも外聞が悪い。
正直フランチェスカがいない今、ファーストダンスの相手など別に誰だってよかった。
社交界の華と謳われるホワイト侯爵令嬢が相手なら他の貴族たちも文句は言わないだろう。


(……やむを得ない、か)





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

由良
恋愛
「じゃあ、右で」 その一言で、オリヴィアは第一王子アルベルトの婚約者に決まった。 おざなりな決め方とは裏腹に、アルベルトはよき婚約者として振舞っていた。 彼女の双子の妹とベッドを共にしているのを目撃されるまでは。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

処理中です...