お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

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76 終わり

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それから私は時間をかけてウィルベルト王国へと戻った。
そこで王宮医から治療を受け、少しだけ仮眠を取ってから医務室を出た。
私の怪我は決して軽いものではなかったが、動けないほどではない。
それに今はやるべきことが多すぎる。


「陛下、ご無事で何よりです!」
「ああ、公爵……」


王宮へと戻った私に駆け寄り、そう声をかけたのはヴェロニカ公爵だった。
体のいたるところに包帯を巻いている私を、公爵は悲痛な面持ちで見つめた。


「レスタリア公爵はどうしている?」
「はい、陛下に言われた通り地下牢に投獄しておきました」
「そうか、ご苦労だった」


それを聞いた私は地下牢に閉じ込められているレスタリア公爵の元へと向かった。
レスタリア公爵はウィルベルト王国を滅茶苦茶にした大罪人だ。
しかし私はどうしても公爵に会いに行く必要があった。


「……」


地下牢の中には壁に背をもたれて座っている公爵の姿があった。
公爵夫人と公子が亡くなったからだろうか、生気が無く抜け殻のようになっていた。
大切な者たちを全て失った彼はもうこの世界に未練など無いに違いない。
誰から見てもそのことが容易に想像出来た。


公爵は牢屋の前まで来た私をチラリと見た。
その瞳には相変わらず私に対する憎悪が込められていたが、戦ったときに見た狂気は消えていた。
きっともう全てを諦めているのだろう。


「……お前は死刑になるだろう」
「……」


私がそう言っても公爵は表情を変えずに黙ったままだった。
どこぞの愚王と違って死を覚悟していたようだ。
自分が死ぬことに対して特に何とも思っていないのだろう。


この男はそれほどの罪を犯した。
理由が何であれ同情の余地は無い。
しかし、最後の最後にこれだけはどうしても伝えておきたかった。


「……公爵夫人からお前に伝言を頼まれた」
「……!」


レスタリア公爵は私のその言葉に反応して顔を上げた。


「ありがとう、幸せだったと」
「……ッ」


それを聞いた公爵の目から涙が溢れた。
そして顔を手で覆って大粒の涙を流した。


「……」


私はそんな公爵の様子をしばらくの間じっと見つめていたが、公爵に背を向けてその場を立ち去った。


本当は今すぐにでもベッドに入って深い眠りにつきたかったが、あいにくそんな時間も無かった。
戦争の後処理をしなければいけないからだ。


(早くこの国を元に戻さなければ……)


そう思って久々に執務室に入ると、そこには見慣れた人物の姿があった。


「…………………アレク」
「陛下!」


アレクは私を見て涙目になって駆け寄った。


「本当に……本当に良かったです!こんな大変なときに陛下の傍にいられなかった自分が情けないです……」
「……お前に休暇を与えたのは私だ。気にすることではない」
「陛下……」


そう言ってもアレクは未だに申し訳ない顔をしたままだった。
私は同じく執務室にいたヴェロニカ公爵に淡々と命令を下した。


「公爵、ローレンの王を地下牢に入れておけ。それと裁判を開く準備をしろ」
「はい、承知いたしました」


ヴェロニカ公爵はそう言って礼を取ると、すぐに部屋を出て行った。


「ハァ……」


余程疲れが溜まっていたのか、思わず額を手で押さえた。


「へ、陛下……!」


そんな私を見たアレクが心配そうに駆け寄った。


「陛下、大丈夫ですか?」
「……問題ないから退け。今は一人になりたい」
「……はい、陛下」


私がピシャリとそう言うとアレクもまた公爵と同じように部屋を出て行った。
終始不安げな表情をしていたが私の気持ちを汲み取ってくれたようだ。


一人になった執務室で私は窓の傍まで行った。


執務室の窓からは現在の王国の様子を見ることが出来た。


「……」


国境付近にあった橋は崩壊し、街中にガレキや破片が散乱していた。
どれだけこの戦争が過激なものだったのか一目で分かるほどだ。


(これが……今のウィルベルト王国なのか……)


――凄惨な現場


今のウィルベルト王国を一言で表すのであればそうなるだろう。
この光景を見ると自然と気分が沈んでいく。


この戦争は一体何のために起きたのか。
誰が得をしたのか。
どれだけ考えても分からない。


ふと空を見ると、今の王国の状況には似つかわしくない晴天が広がっていた。


その青い空を見て私はある人物を思い出した。


(………………フランチェスカ)


彼女の瞳によく似た青色。
それを見ると身体に溜まっていた疲れが、そして心の中で渦巻いていた悩みが吹き飛ぶようだった。
まるで彼女が空から私のことを見守ってくれているようで。


しばらくその青い空に視線を奪われていた私だったが、心機一転して机に向かった。


(……そうだよな、こんなことを考えている場合ではないな)


既に起きてしまったことを後悔しても仕方が無い。
前へ進むと決めたのだから。


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