73 / 87
73 強敵
しおりを挟む
大急ぎで馬を走らせた私は、最速でシルヴィの住む別邸へと辿り着いた。
既に業火に包まれているのも気にならず、邸宅の中へ飛び込んだ。
「シルヴィ!!!中にいるのか!!!返事をしてくれ!!!」
一階を探してみるも、どこにも彼女の姿は無い。
建物が少しずつ崩れ始めている。
このままでは私の命も危ないだろう。
しかし、諦めて避難するという選択肢は私には無かった。
「ぐあっ!!!」
崩れ落ちた建物の一部が私の体に降り注いだ。
背中を強打するようなとてつもない痛みと焼けるような熱が同時に走った。
(ぐ……)
ここで死ぬわけにはいかない。
何が何でも彼女を救い出さなければ。
心折れそうになったとき、愛する彼女の顔が頭に浮かんだ。
マクシミリアンが亡くなった今、シルヴィの心の支えになってやれるのは私だけだ。
(だからこそ、私が死ぬわけには……!)
体に鞭を打って何とか立ち上がったそのとき、突如として大量の水が頭上に降り注いだ。
「こ、今度は何だ……!?」
雨でも降ったのだろうか。
突然の豪雨によってすぐに火は消え、煙が立ち込めた。
(何だかよく分からないが運が良いな……)
天が私に味方をしてくれたのだろうかと思ったのも束の間、すぐに雨は止み、周囲の状況が確認できるようになった。
そして、そこで私はとんでもない光景を目にすることとなる。
「…………え」
――邸の周辺を、ウィルベルト王国軍が包囲していた。
「――久しぶりだな、公爵」
「お前は……レオン!!!」
その中で一歩踏み出した人物を目にして、ギリリと歯ぎしりをした。
愛する息子を殺害した張本人であるレオン・ウィルベルトが剣を片手に私の前に出たのだ。
「随分舐めた真似をしてくれたものだな」
「お前こそ……よくも私の息子を……!」
今にも飛びかかりそうな顔の私を見て、後ろに控えていた騎士たちが腰の剣に手をかける。
しかし、それを制止したのはレオンだった。
「やめろ」
「で、ですが陛下……」
「こんな姑息な手を使ったんだ。最後くらい正々堂々と一対一の勝負でいこうじゃないか」
「姑息な手……?ハッ、なるほど、これは罠か」
巧妙な罠だったと気付くには遅すぎた。
もう全てが手遅れだ。
(だが……この餓鬼を殺せるなら、ここで死ぬのも悪くはない……)
この場所が王国軍に気付かれているということはシルヴィも既に亡くなっているだろう。
二人のいない世界に未練など無いのである。
「お前だけは……!私の手で……!」
「……」
私はレオンに向かって駆け出したが、思うように体は動かなかった。
(怪我をしたせいか……体がいつもより重い……!)
何とか力を振り絞って出した私の渾身の一撃はいとも簡単に受け止められてしまった。
「既に体はボロボロだというのにこのスピード……やはりお前は只者ではないな」
「当たり前だ、私を誰だと思っている!」
しばらくは斬り合いが続く。
剣がぶつかり合う音と怒声が響いた。
(何故だ……こんな餓鬼……私の敵ではないはずなのに……)
余裕そうな表情のレオンとは対照的に、私はどんどん追い詰められていった。
「ああっ……ううっ……」
火事で負傷した腕がズキズキと痛む。
息も絶え絶えに、私は真っ直ぐにレオンを見据えた。
そんな私を見たレオンが、”終わりにしよう”と小さな声で呟いた。
その言葉の意味に気付いた私は、警戒を強めた。
「そろそろこちらから仕掛けさせてもらうぞ」
「……」
その一言と同時にレオンは私に向かって駆け出し、思い切り剣を振りかぶった。
(ハッ……正面からの特攻か……こんな馬鹿だったとはな……)
一対一の勝負で私に勝てる人間はいない。
隙が見え見えだ。
私は剣を持ち直し、すぐに応戦した。
が、しかし――
受け止めたレオンの一撃はこれまで戦ってきたどんな強敵よりもずっとずっと重かったのだ。
まるでこの男が抱いている全ての思いを剣に乗せているようだった。
(何だこの力……!私が全力だったとしても勝てるかどうか……)
昔愛用していた剣が折れるのと同時に、辺り一面に鮮血が飛び散った。
戦場で誰かに負けるだなんて生まれて初めてだ。
(この私が……敗北だと……!?)
薄れゆく意識の中で、最後に私が見たのは覚悟を決めたような目でこちらを見つめる青年の姿だった。
***
「公爵を捕縛しろ!!!」
私のその言葉で騎士たちが一斉に動いた。
(……大怪我をしている人間とは思えないな)
倒れた公爵が騎士たちによって手錠をかけられて運ばれていく。
その様子を私はじっと見守っていた。
もしあの罠を仕掛けていなければ、かなりの強敵になっていただろう。
正々堂々ではなかったし、ハッキリ言ってかなり卑怯だった。
しかし、結果的に国を守ることに繋がったのだから後悔はない。
司令官を失ったことによりローレンの軍たちは勢いを失うはずだから。
そして、私にはまだやるべきことがある。
「――ヴェロニカ公爵」
「はい、陛下」
「私は少しやることが残っている。この場を任せたぞ」
「やること……ですか……?」
そして私は、馬に乗って一人ある場所へと向かった。
既に業火に包まれているのも気にならず、邸宅の中へ飛び込んだ。
「シルヴィ!!!中にいるのか!!!返事をしてくれ!!!」
一階を探してみるも、どこにも彼女の姿は無い。
建物が少しずつ崩れ始めている。
このままでは私の命も危ないだろう。
しかし、諦めて避難するという選択肢は私には無かった。
「ぐあっ!!!」
崩れ落ちた建物の一部が私の体に降り注いだ。
背中を強打するようなとてつもない痛みと焼けるような熱が同時に走った。
(ぐ……)
ここで死ぬわけにはいかない。
何が何でも彼女を救い出さなければ。
心折れそうになったとき、愛する彼女の顔が頭に浮かんだ。
マクシミリアンが亡くなった今、シルヴィの心の支えになってやれるのは私だけだ。
(だからこそ、私が死ぬわけには……!)
体に鞭を打って何とか立ち上がったそのとき、突如として大量の水が頭上に降り注いだ。
「こ、今度は何だ……!?」
雨でも降ったのだろうか。
突然の豪雨によってすぐに火は消え、煙が立ち込めた。
(何だかよく分からないが運が良いな……)
天が私に味方をしてくれたのだろうかと思ったのも束の間、すぐに雨は止み、周囲の状況が確認できるようになった。
そして、そこで私はとんでもない光景を目にすることとなる。
「…………え」
――邸の周辺を、ウィルベルト王国軍が包囲していた。
「――久しぶりだな、公爵」
「お前は……レオン!!!」
その中で一歩踏み出した人物を目にして、ギリリと歯ぎしりをした。
愛する息子を殺害した張本人であるレオン・ウィルベルトが剣を片手に私の前に出たのだ。
「随分舐めた真似をしてくれたものだな」
「お前こそ……よくも私の息子を……!」
今にも飛びかかりそうな顔の私を見て、後ろに控えていた騎士たちが腰の剣に手をかける。
しかし、それを制止したのはレオンだった。
「やめろ」
「で、ですが陛下……」
「こんな姑息な手を使ったんだ。最後くらい正々堂々と一対一の勝負でいこうじゃないか」
「姑息な手……?ハッ、なるほど、これは罠か」
巧妙な罠だったと気付くには遅すぎた。
もう全てが手遅れだ。
(だが……この餓鬼を殺せるなら、ここで死ぬのも悪くはない……)
この場所が王国軍に気付かれているということはシルヴィも既に亡くなっているだろう。
二人のいない世界に未練など無いのである。
「お前だけは……!私の手で……!」
「……」
私はレオンに向かって駆け出したが、思うように体は動かなかった。
(怪我をしたせいか……体がいつもより重い……!)
何とか力を振り絞って出した私の渾身の一撃はいとも簡単に受け止められてしまった。
「既に体はボロボロだというのにこのスピード……やはりお前は只者ではないな」
「当たり前だ、私を誰だと思っている!」
しばらくは斬り合いが続く。
剣がぶつかり合う音と怒声が響いた。
(何故だ……こんな餓鬼……私の敵ではないはずなのに……)
余裕そうな表情のレオンとは対照的に、私はどんどん追い詰められていった。
「ああっ……ううっ……」
火事で負傷した腕がズキズキと痛む。
息も絶え絶えに、私は真っ直ぐにレオンを見据えた。
そんな私を見たレオンが、”終わりにしよう”と小さな声で呟いた。
その言葉の意味に気付いた私は、警戒を強めた。
「そろそろこちらから仕掛けさせてもらうぞ」
「……」
その一言と同時にレオンは私に向かって駆け出し、思い切り剣を振りかぶった。
(ハッ……正面からの特攻か……こんな馬鹿だったとはな……)
一対一の勝負で私に勝てる人間はいない。
隙が見え見えだ。
私は剣を持ち直し、すぐに応戦した。
が、しかし――
受け止めたレオンの一撃はこれまで戦ってきたどんな強敵よりもずっとずっと重かったのだ。
まるでこの男が抱いている全ての思いを剣に乗せているようだった。
(何だこの力……!私が全力だったとしても勝てるかどうか……)
昔愛用していた剣が折れるのと同時に、辺り一面に鮮血が飛び散った。
戦場で誰かに負けるだなんて生まれて初めてだ。
(この私が……敗北だと……!?)
薄れゆく意識の中で、最後に私が見たのは覚悟を決めたような目でこちらを見つめる青年の姿だった。
***
「公爵を捕縛しろ!!!」
私のその言葉で騎士たちが一斉に動いた。
(……大怪我をしている人間とは思えないな)
倒れた公爵が騎士たちによって手錠をかけられて運ばれていく。
その様子を私はじっと見守っていた。
もしあの罠を仕掛けていなければ、かなりの強敵になっていただろう。
正々堂々ではなかったし、ハッキリ言ってかなり卑怯だった。
しかし、結果的に国を守ることに繋がったのだから後悔はない。
司令官を失ったことによりローレンの軍たちは勢いを失うはずだから。
そして、私にはまだやるべきことがある。
「――ヴェロニカ公爵」
「はい、陛下」
「私は少しやることが残っている。この場を任せたぞ」
「やること……ですか……?」
そして私は、馬に乗って一人ある場所へと向かった。
328
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる