もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり

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設定集&1章番外編

(番外編)運営ちゃんの日常1

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 とあるビルの一室。
 今日も今日とて仕事は山積みだ。

 フルダイブ型VRMMOゲーム『Different World Trip RPG』通称DWTのサービスを開始してからずっと、残業続き。
 ……いや、サービス開始前から結構残業してたな。

山倉やまくら、ゲームの不具合はどうだ?」
「修正完了しましたー。最終チェック後、明日早朝のアップデートで反映させます」
「うん、よくやった。これからも頼んだぞ」

 去っていく外神とがみ課長の背を見送り、ぐっと背筋を伸ばす。
 致命的な不具合の調整は終わったけど、ちょこちょことゲーム利用者から要望がきてるから、それをどうにかしないといけないんだよなぁ。

 マジで、東の草原エリアが大混雑で苦情殺到した時は死ぬかと思った……。
 徹夜で調整させた俺も、手伝ってくれた同僚も、すげぇがんばった!

 科学が進歩しても、結局マンパワーが大切なんだ。AIがやってくれたらいいなって思うけど、そうしたら俺の仕事なくなるしな……。

真希まき、第二の街はどんな感じ?」

 隣で作業中の同僚に聞く。
 彼女は第二の街に関する作業を担当してる。

「第二の街の最終確認は終わり! 開放ミッションについては、今、NPCが動いてるよー」

 真希がニコッと笑う。
 可愛いなぁ。飯誘う余裕がないのが、ほんと残念。

「第二の街を開放するミッションって、確か、チュートリアルの指南役たちとプレイヤーが協力してレイドボスを倒すんだっけ? レイドバトルのチュートリアルも兼ねてる感じで」

 はじまりの街にたくさんのNPC冒険者が来てたのも、このミッションのためだった、っていうことのはず。
 街で指南役をみつけて、交流を深めたら、共闘の依頼がプレイヤーに来るんだよな。

「うん、そう。そろそろ、共闘の依頼が出されるプレイヤーが現れそうだよ」
「ようやくレイドイベントが始まるのか」

 ホッと息をつく。
 最近、『あのモンスターは倒せるのか?』とか『序盤のモンスターにしては強すぎる。調整希望』とか、苦情じみた意見がたくさん届いてたんだよなぁ。しんどい。

 ちゃんとクリアできるから、レベリングだけやってるなよ。もっと隠し要素みつけて工夫してくれ。『ちからこそパワー』は脳筋しか言っちゃダメだし、このゲーム、脳筋だとクリアできねぇから。

「一応、正規ルート以外にもクリアできる方法はあるんだけどねぇ」
「あぁ……火のドラゴンな……」

 ノース街道のモンスターの鑑定結果に『聖なる地』って説明いれたけど、これでそこに辿り着けるやついるか?

「——モンスの鑑定結果以外にヒントあったっけ?」

 記憶を掘り起こすのも面倒くさい。今、脳が休息と甘味を求めてる。
 ……そういや、冷蔵庫にコーラをいれてたはず。取ってこようかな。——あ、引き出しに板チョコの残りがあった。ラッキー。

「いいもの食べてるね」
「真希も食う? いつ開けたか覚えてないけど」

 パキッと割ったチョコレートを差し出したら、引き攣った顔で遠慮された。
 チョコレートで腹壊したやつなんていないだろ? 気にせず食えばいいのに。

「ヒントは街中に転がってるよ。サクノ山とか街の歴史を異世界の住人NPCに尋ねたら、火のドラゴンと王様の伝承を聞けるようになってるはず」

 真希は「そっちの隠しルートは戸刈とがりさんが担当してるから、細かいことは把握してないけど」と言いながら作業を再開してる。仕事熱心だねぇ。

 俺も、仕事に戻るか……。
 ため息をつきながらパソコンに向き合ったところで、部屋の奥の方からガタッと椅子を倒す音がした。

「うっそだろ! モフちゃん、やりやがった!」

 それ、非難してんの? 喜んでんの?
 よくわからん声を上げてる同僚庄條しょうじょうさんに視線を向ける。真希も不思議そうに見てた。

「『モフちゃん』って、希少種ガチャで天兎アンジュラパを当てたプレイヤーのことだよね?」
「確かそう」

 ゲームシステム開発・運営を担当してる職員は、目立つプレイヤーを把握してる。さすがにプレイヤー名で呼ぶと、個人情報漏えいになりかねないから、あだ名をつけてるんだけど。

 さっき庄條さんが言った『モフちゃん』っていうのは、天兎アンジュラパを当てたプレイヤー。マイペースにゲームを楽しんでくれてて、作った側としても、見てて嬉しくなるっていうか……癒やされるんだよなぁ。

 というわけで、プライバシー侵害にならない程度に、功績とかを時々確認してる。

「モフちゃんが、何をやったって?」

 外神課長がいそいそと庄條さんのところに近づいた。
 ……この部屋の中で一番、外神課長がモフちゃんのファンなのだ。あんな叫び声が聞こえたら、そりゃ気になるよな。

「火のドラゴンと会ったんですよ!」
「え、本当に?」

 外神課長の反応と同時に、部屋の中が一気にザワッとなった。
 火のドラゴンに会った? それ、ワールドミッションが進んでるってことか?

「……火のドラゴンと会うには狭い道をモンスターとバトルしながら進まないといけないし、古墳がある広場では、モンスとバトルするのも、採掘ポイントを掘るのも、古墳を触るのもダメっていう条件をクリアしないといけなくて……結構厳しかったと思うんだけどな……」

 戸刈さんが呆然とした感じで呟いてる。
 火のドラゴンルートは戸刈さんが担当してたんだったな。

「ちょっと見に行こう」
「私も」

 気になって仕方なくて、庄條さんのところに行ってみる。みんなも同じ気持ちなのか、局所的にすごい人口密度になってた。

「おお……ストーリー進行してる……」

 外神課長がワクワクとした表情で、ログ——ゲームの進行状況を文字で記録したもの——を追っている。さすがに映像を見るのは、プライバシーの侵害だからな。文字で我慢だ。

「モフちゃん、当たり前のように、流通の妨げになってるレイドボスの話を火のドラゴンにしてる……」
「それもトリガーなんですか?」

 戸刈さんの呟きを拾って尋ねる。俺、マジでこの隠しルートのこと、全然把握してなかったや。

「そうなの。この情報を火のドラゴンに伝えたら、レイドボス討伐に繋がるっていう……」

 呆然とした感じの戸刈さんの言葉に頷く。
 つまり、これ、ワールドミッション達成が確定された感じ? レイドイベント始まってもないのに?

 しばらく黙り込んでモフちゃんのログを追った。すると突然、部屋の隅の方で、バンッとデスクを叩く音がする。

「ちょっと! この隠しルート作ったの誰!? 火のドラゴンの攻撃が、環境破壊値に達しちゃってるんだけど! なんで序盤でマグマエリア作るような攻撃を設定してるの!?」

 ゲーム内環境構築・管理を担当してる佐江木さえきさんが悲鳴を上げた。
 ……環境破壊されてるって何事?

 戸刈さんを見たら、サッと視線を逸らされた。

「だ、だって……このルート、たぶん使われないと思ったから……。それなら、ちょっと派手な感じに演出入れておきたいなっていう……遊び心? ……ごめん」
「ごめんで済んだら、俺らの仕事なくなります」

 思わず表情を落として言葉を返した。すっげぇ嫌な予感がするんだけど……。

「ちょっと、山倉! 環境を再構築する作業、手伝って! 次のアップデートまでに直しとかないと、プレイヤーが来ても通れないって不具合が出る!」
「……まじかぁ」

 思わず額を押さえて目を瞑る。なんか頭痛がしてきた気がするぞ? 有給もらっちゃ駄目っすか?

「山倉!」
「今行きます!」

 やるしかねぇか。はぁ……。

 静かに徹夜の覚悟を決めた俺の横で、真希がガックリと肩を落とした。

「待って……これ、正規ルートが活用されないパターン……? 私がしたことって……?」

 うわっ。すげぇダメージ負ってるな。疲労感が漂ってる。

「どんまい。たぶん、別サーバーは普通に正規ルートが進むはずだって」
「そ、そうだよね! 私がしたこと、無駄じゃないよね!」

 回復しきってはなさそうだけど、大丈夫だろ。
 むしろ、徹夜確定の俺の方がヤバイ。

 これ、俺が、モフちゃんのサーバーに、レイドイベント未達の補填作業もしないといけないんじゃないか?
 もう誰かやってくれてたりしねぇ? 隠しルート作ってんだから、やってくれてるよな!?

「やーまーくーらーっ!」
「すぐ行きます!」

 超怖い佐江木女史の怒鳴り声に、慌てて身を翻した。

 ……まぁ、モフちゃん、すっごく楽しんでくれてるみたいだし、このくらいのトラブルは許容範囲か。
 どっちかっていうと、これは戸刈さんが戦犯だしな!


******

この章はここまでです。
次章もぜひ引き続きお楽しみくださいませ。

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