もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり

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2章 美味を求めて

(番外編)運営ちゃんの日常2

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 各サーバーでのイベント終了を見届けて、グッと体を伸ばす。
 初めの頃はどうなるかと思ったけど、なんとか盛況で終われて良かった。割いたリソースに対して効果が伴ってないって、一時期問題になったから。

「山倉くん、おつかれー」
「真希もな。……つっても、真希はイベントの方はほとんど関わってなかったんだっけ?」
「うん。今は第三の街の方を担当してるから」
「まだ誰も辿り着かなそうだから、そっちは余裕あるな」

 ぐでっとテーブルに寄りかかりながら真希と話す。気分転換にこれくらいは許してもらいたい。

「そうなんだよね。グルメ大会に参加する人が増えたから、余計に攻略速度遅くなってる」
「報酬を椀飯振舞することになったからな。攻略組も参加表明してたし。……そんくらい報酬出さないと、イベントスルーされそうだったのは、マジでヤバかった」

 上からお怒りがきましたよ。俺が決めたイベントじゃねぇのに!
 こういうバトル的じゃないイベントはもっと後半でいいんじゃね? とは俺も思ってたよ!

「予想以上に、攻略重視なプレイヤーが多いよね。自由に楽しむのがコンセプトのゲームなんだけどなぁ……」

 真希もちょっと残念そうだ。自由度を高めるために、普通のゲームなら必要なさそうなところにまで裏設定つけたり、隠しミッション用意したり、そういう作業を担当してるからな。
 プレイヤーが全然探してくれないと、そりゃ悲しくもなる。

「第二の街の隠しミッション、どれくらい達成されてるんだっけ?」
「一番いいサーバーで10%」
「少なっ!?」

 予想以上の少なさだった。まぁ、運営側で用意してる要素が多すぎるだけって話かもしれないけど。

「モフちゃんには期待してるんだけど」
「いちプレイヤー頼みかよ」

 思わず笑ってしまったけど、実は人のこと言えないんだよな。なんせ、イベントに関して、モフちゃんの存在は大助かりだったんだから。

 全然参加者が増えないイベント。上からあられのように降り注ぐお叱り。
 そんな中で、急にイベント参加者が増えたサーバーがあった。それがモフちゃんがいるところ。

 なんでも、モフちゃんがイベントへの参加表明をした結果、ファンのプレイヤーたちもやる気を出したらしい。その時点で、モフちゃんが応援してたNPCの店の優勝が決まったも同然の状態だったんだから、影響力恐るべし……。

 一つのサーバーだけでも費用対効果が上がって、お叱りが減った。マジでモフちゃんを拝んだよ。
 同僚の戸刈さんなんか、モフちゃんイラスト――天兎アンジュラパのキャラ設定イラスト――をデスクに置いて、日々桃を供えてたし。

 誰かが作業に嫌気がさして、気分転換を兼ねて試算したら、サーバー内のプレイヤーの半数以上がモフちゃんのファンの可能性が出てきて、思わず俺らの間でなんとも言えない空気が漂った。

 モフちゃんのなにがそれほどまでに人を惹きつけるのか。

 外神課長曰く「モフちゃんだからな」らしい。どういうことだよ。
 運営側で一番のファンである外神課長は、モフちゃんに関して思考力を捨てるのやめてほしい。他では優秀な人なのに。

 まぁ、一応の予想としては、アイドル的人気のプレイヤーがモフちゃんファンを公言してて、大してモフちゃんを好んでないプレイヤーまで、一緒に推してるってだけだと思うんだけど。
 普通に熱量が高すぎるプレイヤーがいるのも、疑いようのない事実ではある……。

「イベント終わったし、そろそろ第二の街で隠しミッションの発掘してくれるかなぁ?」
「モフちゃん、基本的に狙わずにいろいろとやってるみたいだから、上手いこと進めばあるんじゃね?」

 狙ってやってないから、予想できないんだよなー。
 そういう予測のつかない行動も、モフちゃんに惹きつけられる理由なのかもしれない。少なくとも、外神課長はそんな感じがする。

「だよねー。期待しとこ!」

 にこにこ笑ってる真希は、外神課長に続くファンになりつつあるような? その気持ちはわからないでもないけど。俺だって、ここまでゲームを楽しんでもらえてたら嬉しいし。

「とりま、イベントでスキルリスト入手した攻略組多いし、それで攻撃力増して第三の街に進めるプレイヤーもそろそろ出てくるだろ。第三の街の調整がんばれ」
「う~ん……そうは言っても、エリアボス結構キツイと思うんだよね……」
「あー……あれは第二の街で隠しアイテム入手できたら突破しやすいと思うんだけどな……」

 思わず真希と顔を見合わせる。
 エリアボスのサイとかゾウのことを思い出してもらえたら、バトルだけじゃない要素に気づいてもらえる可能性があると思うけど、どうなんだろうな? 今んとこ、全然発見されてないのが不安だ……。

「……やっぱりモフちゃんに期待!」
「モフちゃん、まだ第三の街に進む気なさそうだけどな」
「第二の街に進んだときも、そうだったでしょ?」
「確かに……」

 頷くしかない。
 一つのサーバーが攻略進むと、他のサーバーにも情報が回って一気に進み始めるんだよな。最初の一つが難しいだけで。
 となると、モフちゃんのサーバーがやっぱり有力かね?

「ねぇ、雑談はいいけど、それなら広報案出してくれない?」

 デスクに缶コーヒーが置かれたと思ったら、そんな声が掛かった。

丸栖まるすさん、おつかれさまっす。コーヒー、あざっす」
「ありがとうございまーす」

 丸栖さんはうちの会社の広報担当。
 普段は別部署で作業してるんだけど、ゲームの広報資料集めに、この部署にもよく訪れる。その度に差し入れをくれるから、男連中から女神って呼ばれることもある。

「チョコもあるよー。近くのデパ地下でチョコフェアしてたの」

 お高めな感じのチョコまでくれた。マジ女神……。甘味は脳の栄養だ。疲労に効く。

「やったー。丸栖さん、大好き!」
「私も真希ちゃん大好き。よくがんばってるねー」
「うぅ……お姉様って呼んでもいいですか!」
「いいよ。後輩からそう呼ばれること多いんだよね。なんでだろ?」

 丸栖さんは中学・高校・大学一貫して女子校出身らしい。ノリが独特だ。

「お姉様っぽいからですねー。それより、広報案ってなんですか?」
「DWTの新しい広告を打とうって考えてるの。そろそろ第二陣の発売でしょ? ほぼ定員埋まってるとはいえ、話題性のためにも、人気を強調しなくちゃ」
「そうなんですねー」

 真希と丸栖さんの会話をチョコを食べながら聞く。
 広報とか、専門分野外で全然わからん。定員埋まってんなら、広告に予算割く必要あんの? それより、開発費くれー……給料上げろー……。

「……ゲーム動画をPRに使うんっすか?」
「そうできたらいいんだけど、個人情報保護も必要だから、プレイヤーに事前許可もらわないといけないのよねぇ。嫌がる人もいるから」

 やれやれ、という感じで肩をすくめてる。
 たまに広報部がプレイヤーとのやり取りを要求してくるのは、そういう理由があったのか。

「DWTでは初っすよね」
「そう! 他のゲームだと、派手なバトルシーンをPRに使うことが多かったけど、DWTってバトルより自由度が売りでしょ? これまでと違った感じで打ち出したいんだよねー」

 近くの空いていた椅子に座りながら、丸栖さんが悩ましげに首を傾げる。

「バトルシーンなら、レイド戦でちょっと目立ったプレイをしてた人がいましたけど……まだ序盤だから、あまり派手ではないですよね」
「確かに。入手できてるスキル、種類多くないもんな」

 真希に同調しつつ、俺も頭を悩ませてみた。差し入れの対価に案を出せたらいいんだけどなぁ。

「――自由なスローライフっていうと、やっぱモフちゃんか?」
「モフちゃんだよね」

 つい出てしまった言葉に、真希が即座に反応した。真希も同じこと考えてたんだろうな。

「モフちゃん?」
「希少種の、あー、羽のあるうさぎっぽい見た目のキャラをしたプレイヤーのことっす。釣りとか料理とか農作業とか、スローライフを満喫してくれてて、ファンも多いんですよね」
「羽のあるうさぎ! ファンタジー感あっていいじゃない!」

 丸栖さんの目がキラキラしてる。確かにマスコットキャラとしてこれ以上ない人材なんだよな、モフちゃん。

「じゃあ、モフちゃんを含めて何人か、オファー出します? スローライフを主にして、バトルシーンもまぜてPR映像作ったら、いい感じになるんじゃないっすか?」
「あ、じゃあオファーお願いしていい?」
「え……」

 上目遣いに頼まれて、返事に困った。
 一応、俺の仕事はプレイヤーからの要望への対応を含んでて、普段から連絡をとることもあるとはいえ、PR映像への出演を依頼したことはなかった。そういうのは、同じ仕事を担当してる先輩がやってたんだと思う。

 こうして頼まれんのは、俺が成長したからってことなのかな。今以上に仕事が増えんのは、正直遠慮したいんだけど。

 ちらっと部署内に視線を巡らせたら、大多数の同僚に目を逸らされた。
 ……丸栖さんが来てんのに、全然人が寄ってこないと思ったら、こういうことだったのか。先輩にすら見捨てられて、俺泣きたいんだけど?

「できたら、オファー受けてくれたプレイヤーの映像ピックアップもお願いしたいんだけど。それを使って構成して映像完成させるのはこっちでするから!」
「仕事増えてる……」

 情け容赦ないとはこのことか。

「どんまい。山倉くんならできる!」
「他人事だと思ってやがるな、真希。巻き込むぞ」
「ごめーん、私、第三の街の作業がまだたくさんあるから!」

 すげぇいい笑顔で拒否された。本気で泣くぞ。
 前のドラゴン事件からずっと、俺って余計な仕事負いすぎじゃね?

「ね、お願い!」
「……わかりました。一応外神課長に聞いて――」
「あ、誰かに依頼することは、もう許可出てるから! 私の方で報告しとくね」

 嘘だろ……。思わず課長の方に視線を向けたら、サムズアップされた。声を出さずに口が『がんばれ』と動いてる。無情か。

「……了解です」

 もう、こう答えるしかないだろ。
 はぁ……がんばれ、俺。どうか、依頼を受けてくれるプレイヤーが集まりますように……。
 そんで、モフちゃん、頼んだぞ! 断らないでくれよー!
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