もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり

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3章 商人への道?

87.たぶんこうなる運命だった

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 シシリーにすごく歓迎されながら商品を補充した後は、ふらふらと街を巡る。

 タマモが宣伝してくれたのか、売れ行きはいいし、商品数が少なくなってもほとんど不満は言われないらしい。みんな優しいなぁ。

「あら、異世界の方? この先は役場ですよ。定住されるんですか?」

 不意に声を掛けられて顔を上げると、二十代くらいの女性が僕を見下ろしていた。

「ううん……そっか、こっちって、役場があるんだったねぇ」

 気づかない内にシークレットエリアに入り込んでいたらしい。どうりでプレイヤーの姿が見当たらないわけだ。

「迷子?」
「ぶらぶらしてただけー。お姉さんは?」

 心配してくれてるみたいだけど、僕にはマップという心強い味方がいるので大丈夫。
 ニコニコしてたら、お姉さんもホッと息をついて微笑んだ。

「私は昼休憩から職場に戻るところよ。役場で働いているの」
「へぇ。役場ってなにするところなの?」
「なにって……街の住民の公的サポート、と言ってわかるかな?」
「健康保険とか?」
「そうそう。保険業務もあるし、出産育児サポートや戸籍管理とか」

 お姉さんが歩くのについていきながらお話する。
 役場の業務は、現実でのものとあまり変わらないっぽい。僕に定住するのか、って聞いてきたということは、そういうシステムもあるんだろう。プレイヤーの定住って、意味がわからないけど。

「僕とかが定住するって決めたらどうなるの?」
「街に税金を納めるようになるわね。その代わり、街の住民同等のサービスを受けられるようになるし……あぁ、無料で【死に戻り軽減】システムを使えるようにもなるわ」

 初めて聞いた言葉だ。

「それ、どういうの?」
「街の治療院に行くと、死に戻り後のステータス半減の時間を半分に短縮できるのよ。定住している街でなら、無料なの。普通は一回一万リョウかかるわ」

 そんなシステムがあったんだ?
 便利だねぇ。でも、死に戻りって所持金を失うし、さらに一万リョウなくなるのは、使うか迷っちゃう。

 僕、死に戻りしたことがないから、ステータス半減のツラさはよくわからないし。

「税金っていくらなの?」
「一ヶ月で一万リョウよ」
「なるほど……」

 一ヶ月に一回以上死に戻りするなら、定住して税金を納めた方がお得なのかな。
 ステータス半減状態だと、生産活動にも支障があるだろうし、ログアウトするくらいならお金を払う方がいいって人は多いかも。

「――治療院の場所、教えてもらえる?」
「いいわよ。役場を訪れる人には街の案内図を渡すことになっているもの。取ってくるから、ちょっと寄って行って」

 お姉さんが前方を指す。高い門の向こうに、白亜の巨大な建築物が見えた。

「……これ、お城じゃないの?」

 呆然としながら呟く。どう見ても西洋のお城だよ。街に合わせた色味なのか、緑色のとんがり屋根が可愛い。

「お城でもあるわね。役場は領主様の居城の一画にあるから」
「伯爵様かー」

 シシリーと会った時に学んだ知識を思い出す。
 公明正大な伯爵閣下とわがまま令嬢。ここにその二人がいるのかな。貴族ってよくわからないし、正しい礼儀作法も知らないから、会わない方が良さそう。

「……僕、そこで待ってる!」

 お城と門の間に広がる庭にベンチがあるのに気づいて、ビシッと指す。
 お姉さんは「異世界の人は慣れなくて緊張しちゃうものね」と苦笑しながら受け入れてくれた。

 お城の中に向かうお姉さんを見送り、ベンチに座って足をパタパタ。
 外から見るだけなら、美しいお城は見ごたえがあって、ワクワクする。外国の観光地に旅行しに来てる感じだ。

「あ、この近くに仮想施設があるんだった」

 ふと思い出して、周囲を見渡す。
 せっかくここまで来たし、スキルを鍛えるのもいいな。まずはなにをレベル上げしようかなぁ。

「――うさぎ?」

 ぽつりと小さな声。
 同時にガサガサと音がして、後ろにあった生け垣が揺れた。

「うん? 僕のことかな?」
「……しゃべった。ふくわじゅつ、じゃなかったのね」

 生け垣から顔を出した女の子が、僕を見て目を丸くしてる。アリスちゃんより少し年上に見えるね。小学校低学年くらいかなぁ。

「僕、うさぎの見た目だけど、喋れるんだよー。異世界から来た旅人だからね!」

 この説明をするの久々かも。
 そう思いながら、ふりふりと手を振ると、女の子が躊躇いがちに振り返してくれた。

「……世界にはふしぎなものがたくさんあるのね」

 ごそごそと生け垣から出てきた女の子が、いきなり僕を抱える。……重くない?

「――ねぇ、あなた、気に入ったわ。わたくしと遊びましょう」
「えー……」

 なんか勘づいちゃった。この子、伯爵様のわがまま令嬢では? そうでなかったとしても、裕福な家の子でしょ。一人称『わたくし』だよ?

 失礼なことしたらマズイかなぁ。でも、貴族への礼儀なんてわからないしなぁ。

「イヤなの?」
「そういうわけじゃないんだけど……僕、この後仮想施設に行く予定だし」

 これで断れないかなぁ、と思ったんだけど、女の子はめげなかった。

「それなら、わたくしが案内してあげるわ。ここはわたくしの庭のようなものよ」
「……そうなんだー」

 伯爵令嬢であることがほぼ確定された。お城の庭をそう言うって、生半可な立場じゃできないよ。

「――僕、役場の職員のお姉さんに、街の案内図を持ってきてもらうのを待ってるんだ。君はここにまだいられるの?」
「イザベラよ」
「なに?」
「わたくしの名前はイザベラ。君、じゃないわ」
「イザベラ様……ちゃん?」

 様、と敬称をつけた途端、顔を顰めたイザベラちゃんを見て、言い直す。どうやらお嬢様扱いされるのが嫌らしい。

「ええ、そうよ! あなたのお名前は?」
「モモだよー。果物の桃が好きなんだ」
「桃、わたくしも好きよ。この前あったグルメ大会で、幻桃ラールペシェを使ったスイーツが一番になったの。おとう様にたのんで、とりよせてもらって食べたわ。とてもおいしかった……」

 味を思い出したのか、イザベラちゃんの表情が柔らかく綻んだ。なんか前評判と違う雰囲気だ。

「僕もそれ好き! 桃カフェによく行って食べるんだよー。幻桃ラールペシェは僕が作って売ってるの」
「まぁ! モモは桃の魔法使いなのね」
「桃の魔法使い……?」

 意味はわからなかったけど、褒められてるみたいだからいいや。
 イザベラちゃんが「魔法使いよりも、妖精なのかしら?」と呟いているのを聞きながら、じっと観察する。

 金色の長い髪は丁寧に結われてる。……生け垣から出てきたせいで、ところどころに葉っぱが刺さったり、乱れていたりするのはご愛嬌。

 さりげなく葉っぱを取ってあげたら、「ありがとう」と白い頬を淡く染めて微笑まれる。
 ……めちゃくちゃ、可愛い子だよね? わがまま要素ないよ。もしや伯爵令嬢じゃない?

「お待たせしまし――イザベラ様!? どうして護衛を付けずにこちらへ? 伯爵閣下はご了承されているのですか?」

 街の案内図を手に戻ってきたお姉さんが驚愕の声を上げる。

「……知らないわ。わたくしがどこに行こうと、わたくしの自由でしょ。ごえいなんていらないわ」

 プイッと顔を背けるイザベラちゃんを見て、『なるほど、わがまま……』と理解した。周りの人が苦労してることがわかる。
 でも、これくらいの年の子が、一人で冒険したくなっちゃう気持ちもわかるなー。

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