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3章 商人への道?
90.僕におまかせあれ
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考え事をしながらも、作業はやめない。スキルのレベル上げに来てるんだもん。今日中に一つレベルが上がるといいなぁ。
「ね、モモ」
「なぁに?」
次々に料理を作る僕を楽しそうに眺めたり、料理を味見したりしていたイザベラちゃんが、不意に背中を叩いてくる。
「あの数字、なにかしら?」
「数字?」
イザベラちゃんが冷蔵庫を指していた。そこにはホワイトボードがマグネットで張り付いていて、『2534/4500』と書かれている。
……こんなもの、最初あったっけ?
視界の端で作ったグラタンが消えて経験値に変換されるのが見えた。途端に数字が変化する。20増えて『2554/4500』と。
「――なるほど? もしかして、料理スキルの経験値を示してるのかも。レベルを上げるのに経験値4500が必要で、今は2554ってことだね」
「じゃあ、あといくつ料理を作ったら、レベルを上げられるの?」
イザベラちゃんと見つめあう。
えっと……さっきのグラタンで経験値20が増えたから……でも、料理スキルを使うだけでも増えてるはずで……?
……僕、算数嫌い!
「モモ、料理を作ってみて」
「うん?」
急にやる気に満ちた表情になるイザベラちゃんに戸惑いながら、グラタンを作る。レシピ登録してあるから、食材と調理道具を揃えちゃえば一瞬だよー。
「5増えたわ」
「あ、そうなんだ?」
「つまり、グラタンで25のけいけん値をもらえるの。でも、ちがう料理だと、もっとたくさんもらえてた気がする……?」
首を傾げてるイザベラちゃんの前で、ポンと手を打つ。
「たぶん、自力で作るか、レシピ登録してあるのを作るかで、違うんだと思う」
試すために、今度は一からグラタン作り。
「15増えたわ!」
「結構差があるなぁ。料理が消えるときの取得経験値は20のままみたいだね」
自力で作ると、料理一つで35かぁ。でも、作る時間は倍以上掛かってるから、レシピ登録したやつの方がお得かも。食材は次から次に現れるし。
「――料理一つで経験値25として、あと何回?」
「4500から2589を引くと、なにかしら?」
「うぅ……1911?」
もっとキリのいい数字が良かったよぉ! と嘆きながら、なんとか答えを導き出した。たぶん合ってるはず!
「すごいわ! モモ、かしこいのね」
「えへへ、それほどでもないよ~」
謙遜じゃなくて事実である。普通の大人はもっとすんなりと答えを出せるはず、なんてことはイザベラちゃんに言わない。賢いと思われていたいからね!
「じゃあ、それを25で割ればいいのよね……」
ぶつぶつ呟き首を傾げるイザベラちゃんを眺める。
料理を四つ作れば経験値100。1911を100で割ると19余り11。これは料理四つ分で計算してるから、4を掛ければいいんだよね? つまり76余り11。だから七十七回料理を作ればいいはず!
……すごく遠回りして計算してるのはわかってるよ! 僕の暗算力はこれが限界!
「――そうだわ! シシリーに聞いてみましょう」
「なんでやねんっ」
名案、と言いたげに手を合わせたイザベラちゃんに、思わずツッコミを入れちゃった。キョトンとされたけど、あらゆる意味で変なことを言ってるの、気づいてないの?
まず、計算の答えがわからないなら、僕に聞けばいい。さっき賢いって褒めてくれたじゃん。僕に聞く前に諦めるの、ひどくない?
そして、計算を諦めるのが潔すぎる。もうちょっとがんばって。確かに面倒くさい計算だし、イザベラちゃんの年頃でこういう計算ができるものなのか、僕はわかんないけど。
最後に――。
「――シシリーって、家庭教師やめたんじゃないの?」
最大のツッコミどころがこれだ。
まるで今日もシシリーがイザベラちゃんの近くにいるような言葉に違和感がある。
「えっ? そうなの?」
「……もしかして、知らない?」
そんなことある? というか、シシリーが家庭教師をクビになったの、一ヶ月前くらいだよね。普通気づくでしょ。というか、誰か教えてるんじゃないの?
「さいきん、探しにこないとは思っていたけれど……」
イザベラちゃんの目が潤んでいく。泣いちゃう? 僕、子どもの泣き止ませ方なんて知らないよー!
「だ、大丈夫、なんか事情あるんだよ、きっと!」
その事情が、イザベラちゃんに嫌われたからなんだよ、なんてこの状況で言えない。なんとなく誤解があったのでは、っていう気がするし。
「わたくし、すてられてしまったんだわっ……わるい子だから……」
「イザベラちゃん、全然悪い子じゃないよ! そりゃ、護衛を付けずに動き回って、周りで苦労してる大人はいるんだろうけどさ。子どもなんだからしかたないよ。子どもに逃げられる護衛もどうかと思うし」
必死に慰めようとするあまり、会ったことのない護衛さんをこき下ろしちゃってごめん! 今だけだから許してー。
「でも、シシリー、いなくなったって……!」
「うん、それは、まぁ、そうなんだけど。イザベラちゃんは『もっとわかってくれる人がいい』って言った?」
「……言った、かもしれないわ……そのせいで……?」
涙が溢れそうな目で見つめられて、「う~ん」と首を傾げて困っちゃう。本当にそれだけが理由かなんて、僕にはわからないや。
「イザベラちゃんは、シシリーにいなくなってほしかったわけじゃないんだね?」
「……うん。だって、なんど逃げても、探してほほ笑みかけてくれるのは、シシリーだけだったもの」
ほうほう。嫌いじゃなくて、むしろ好きなんじゃん!
「それで、どうして『もっとわかってくれる人がいい』って言ったの?」
「シシリーはいつもわたくしのことを考えて、いっしょうけんめいだから。もっとわたくしといっしょにいてくれるんじゃないかと思ったの。……べんきょうするのはしかたないけれど、いっしょに遊びたいわ」
おっと?
つまり、『もっとわかってくれる人』イコール、イザベラちゃんの寂しさに寄り添って、一緒に遊んでくれる人ってことなんだね。
シシリーはそれができる、とイザベラちゃんは信じてたから、つい言っちゃったわけか。
う~ん、すれ違ってるなぁ。
一番の問題は、イザベラちゃんの思いを聞かずに、あっさりと家庭教師をクビにした方なのでは? シシリーに役場での仕事を斡旋する前に、することあったよね?
「……よしっ、わかったよ! それなら、僕がそれをシシリーに伝えてくる。それで、イザベラちゃんの傍でまた家庭教師をしたい、って言うようなら、イザベラちゃんのお父さんにお願いしてみよっか」
提案したら、イザベラちゃんの目が丸くなった。
「シシリーは……かえってきてくれる……?」
「わかんないけど――」
シシリーと最初に話した時のことを思い出す。リエインはイザベラちゃんのことをわがままって表現してたけど、シシリーは全然そういうことは言わなかった。むしろ自分が悪いんだって思ってる感じだった。
この感じなら、いけるんじゃないかな?
「僕に任せて!」
胸を張って宣言したら、イザベラちゃんがようやく少しホッとした感じで微笑んでくれた。
「……モモ、おねがいね。ありがとう」
「ふふ、感謝はまだとっておいて」
さぁて、シシリーと話すためにも、ちゃちゃっと料理スキルのレベルを上げちゃうぞー。あと七十七回ならすぐのはず!
料理を再開したところで、イザベラちゃんがハッと息を呑んだ。
「あ、料理をあと何回――」
「77! シシリーじゃなくても、計算できるんだぞー」
「モモ、ほんとうにかしこいわね!」
「でしょー」
キラキラと目を輝かせたイザベラちゃんに褒められて、頭を撫でられた。
嬉しいけど、なぜだか芸が成功したワンコの気分になって微妙だな、と思ったのは内緒だ。
「ね、モモ」
「なぁに?」
次々に料理を作る僕を楽しそうに眺めたり、料理を味見したりしていたイザベラちゃんが、不意に背中を叩いてくる。
「あの数字、なにかしら?」
「数字?」
イザベラちゃんが冷蔵庫を指していた。そこにはホワイトボードがマグネットで張り付いていて、『2534/4500』と書かれている。
……こんなもの、最初あったっけ?
視界の端で作ったグラタンが消えて経験値に変換されるのが見えた。途端に数字が変化する。20増えて『2554/4500』と。
「――なるほど? もしかして、料理スキルの経験値を示してるのかも。レベルを上げるのに経験値4500が必要で、今は2554ってことだね」
「じゃあ、あといくつ料理を作ったら、レベルを上げられるの?」
イザベラちゃんと見つめあう。
えっと……さっきのグラタンで経験値20が増えたから……でも、料理スキルを使うだけでも増えてるはずで……?
……僕、算数嫌い!
「モモ、料理を作ってみて」
「うん?」
急にやる気に満ちた表情になるイザベラちゃんに戸惑いながら、グラタンを作る。レシピ登録してあるから、食材と調理道具を揃えちゃえば一瞬だよー。
「5増えたわ」
「あ、そうなんだ?」
「つまり、グラタンで25のけいけん値をもらえるの。でも、ちがう料理だと、もっとたくさんもらえてた気がする……?」
首を傾げてるイザベラちゃんの前で、ポンと手を打つ。
「たぶん、自力で作るか、レシピ登録してあるのを作るかで、違うんだと思う」
試すために、今度は一からグラタン作り。
「15増えたわ!」
「結構差があるなぁ。料理が消えるときの取得経験値は20のままみたいだね」
自力で作ると、料理一つで35かぁ。でも、作る時間は倍以上掛かってるから、レシピ登録したやつの方がお得かも。食材は次から次に現れるし。
「――料理一つで経験値25として、あと何回?」
「4500から2589を引くと、なにかしら?」
「うぅ……1911?」
もっとキリのいい数字が良かったよぉ! と嘆きながら、なんとか答えを導き出した。たぶん合ってるはず!
「すごいわ! モモ、かしこいのね」
「えへへ、それほどでもないよ~」
謙遜じゃなくて事実である。普通の大人はもっとすんなりと答えを出せるはず、なんてことはイザベラちゃんに言わない。賢いと思われていたいからね!
「じゃあ、それを25で割ればいいのよね……」
ぶつぶつ呟き首を傾げるイザベラちゃんを眺める。
料理を四つ作れば経験値100。1911を100で割ると19余り11。これは料理四つ分で計算してるから、4を掛ければいいんだよね? つまり76余り11。だから七十七回料理を作ればいいはず!
……すごく遠回りして計算してるのはわかってるよ! 僕の暗算力はこれが限界!
「――そうだわ! シシリーに聞いてみましょう」
「なんでやねんっ」
名案、と言いたげに手を合わせたイザベラちゃんに、思わずツッコミを入れちゃった。キョトンとされたけど、あらゆる意味で変なことを言ってるの、気づいてないの?
まず、計算の答えがわからないなら、僕に聞けばいい。さっき賢いって褒めてくれたじゃん。僕に聞く前に諦めるの、ひどくない?
そして、計算を諦めるのが潔すぎる。もうちょっとがんばって。確かに面倒くさい計算だし、イザベラちゃんの年頃でこういう計算ができるものなのか、僕はわかんないけど。
最後に――。
「――シシリーって、家庭教師やめたんじゃないの?」
最大のツッコミどころがこれだ。
まるで今日もシシリーがイザベラちゃんの近くにいるような言葉に違和感がある。
「えっ? そうなの?」
「……もしかして、知らない?」
そんなことある? というか、シシリーが家庭教師をクビになったの、一ヶ月前くらいだよね。普通気づくでしょ。というか、誰か教えてるんじゃないの?
「さいきん、探しにこないとは思っていたけれど……」
イザベラちゃんの目が潤んでいく。泣いちゃう? 僕、子どもの泣き止ませ方なんて知らないよー!
「だ、大丈夫、なんか事情あるんだよ、きっと!」
その事情が、イザベラちゃんに嫌われたからなんだよ、なんてこの状況で言えない。なんとなく誤解があったのでは、っていう気がするし。
「わたくし、すてられてしまったんだわっ……わるい子だから……」
「イザベラちゃん、全然悪い子じゃないよ! そりゃ、護衛を付けずに動き回って、周りで苦労してる大人はいるんだろうけどさ。子どもなんだからしかたないよ。子どもに逃げられる護衛もどうかと思うし」
必死に慰めようとするあまり、会ったことのない護衛さんをこき下ろしちゃってごめん! 今だけだから許してー。
「でも、シシリー、いなくなったって……!」
「うん、それは、まぁ、そうなんだけど。イザベラちゃんは『もっとわかってくれる人がいい』って言った?」
「……言った、かもしれないわ……そのせいで……?」
涙が溢れそうな目で見つめられて、「う~ん」と首を傾げて困っちゃう。本当にそれだけが理由かなんて、僕にはわからないや。
「イザベラちゃんは、シシリーにいなくなってほしかったわけじゃないんだね?」
「……うん。だって、なんど逃げても、探してほほ笑みかけてくれるのは、シシリーだけだったもの」
ほうほう。嫌いじゃなくて、むしろ好きなんじゃん!
「それで、どうして『もっとわかってくれる人がいい』って言ったの?」
「シシリーはいつもわたくしのことを考えて、いっしょうけんめいだから。もっとわたくしといっしょにいてくれるんじゃないかと思ったの。……べんきょうするのはしかたないけれど、いっしょに遊びたいわ」
おっと?
つまり、『もっとわかってくれる人』イコール、イザベラちゃんの寂しさに寄り添って、一緒に遊んでくれる人ってことなんだね。
シシリーはそれができる、とイザベラちゃんは信じてたから、つい言っちゃったわけか。
う~ん、すれ違ってるなぁ。
一番の問題は、イザベラちゃんの思いを聞かずに、あっさりと家庭教師をクビにした方なのでは? シシリーに役場での仕事を斡旋する前に、することあったよね?
「……よしっ、わかったよ! それなら、僕がそれをシシリーに伝えてくる。それで、イザベラちゃんの傍でまた家庭教師をしたい、って言うようなら、イザベラちゃんのお父さんにお願いしてみよっか」
提案したら、イザベラちゃんの目が丸くなった。
「シシリーは……かえってきてくれる……?」
「わかんないけど――」
シシリーと最初に話した時のことを思い出す。リエインはイザベラちゃんのことをわがままって表現してたけど、シシリーは全然そういうことは言わなかった。むしろ自分が悪いんだって思ってる感じだった。
この感じなら、いけるんじゃないかな?
「僕に任せて!」
胸を張って宣言したら、イザベラちゃんがようやく少しホッとした感じで微笑んでくれた。
「……モモ、おねがいね。ありがとう」
「ふふ、感謝はまだとっておいて」
さぁて、シシリーと話すためにも、ちゃちゃっと料理スキルのレベルを上げちゃうぞー。あと七十七回ならすぐのはず!
料理を再開したところで、イザベラちゃんがハッと息を呑んだ。
「あ、料理をあと何回――」
「77! シシリーじゃなくても、計算できるんだぞー」
「モモ、ほんとうにかしこいわね!」
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