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ゆるり

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4章 錬金術士だよ?

134.アドバイスください

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 ホクトと別れて、レナードさんの工房に到着。忘れない内に転移ピンを設定してから中に入る。

「こんにちはー」
「久しぶりだな、モモ」

 片眉を上げたレナードさんが、皮肉る感じで言う。これは『もうちょっと顔出せや、コラ』と怒られてる? いや、レナードさんはそんなに柄悪くないか。

「いろいろしてたら忙しかったんだよー」
「ふーん? 別に錬金術士としてがんばってんならいいが……微妙な感じだな」

 見透かすような眼差しから目を逸らす。否定できない。
 錬金術のスキル自体は、仮想施設で鍛えて【錬金術初級】から【錬金術三級】に上がった。……てっきり中級になるものだと思ってたからびっくりしたけど。

 錬金術士のレベルは4になったんだよ。でも、魔術士レベルとは差がある。
 お店での商品を自動製作にしてあるから、たくさん作っても職業レベルに経験値が加算されないみたいなんだよねぇ。

「見てわかるものなの?」
「大体はな。それで、なにしに来たんだ?」

 改めて聞かれて、事情を説明する。さっきホクトにもらったアイディアも紹介したら、興味深そうに頷いてくれた。

「――へぇ、そういうアイテムを使ってみるのは面白そうだな」
「うん。でも、レナードさんは作ったことない感じ?」

 レナードさんの口振りから、異世界の住人NPCには一般的じゃない考え方っぽいって気づいた。

「そうだな。まず、塗料をモンスターに掛けたって話を聞いたことがない」
「えー。塗料自体は存在してるんだよね?」
「あるぞ。レシピ検索してみろ。確かここに素材が――」

 近くの棚を探ったレナードさんが、赤色の貝殻を取り出した。
 それを受け取って錬金布に載せ、レシピを見てみる。すると、【赤色塗料】というアイテムが出てきた。

「おお。見るからにペンキ!」

 説明の横にあるイラストを眺める。バケツみたいな器に、真っ赤な色の液体らしきものが入ってる。想像通りのペンキだ。

「基本的に大工が使うもんだな」
「そっかー。他にも色があるの?」
「素材を変えたら出てくるはずだぞ。自分で探してみろ」
「はーい」

 残念。そこまで詳しくは教えてくれないみたいだ。でも、自分で試行錯誤するのも生産職の楽しみの一つだし、がんばってみようかな。

「――それで、このペンキはモンスターに投げられるの? 効果ある?」

 レナードさんが「その貝殻、使っちまっていいぞ」と言ってくれたから、遠慮なく赤色塗料を製作して、ためつすがめつ眺めてみる。

 鑑定してみると『赤色のペンキ。ブラシにつけて、絵を描ける』という説明が出てきた。ブラシは【毛(種類不問)】と【枝】で作れるみたいだったから、羊毛を使って作ってみる。

 完成したブラシにペンキをつけたら、レナードさんがサッと紙を差し出してきた。とりあえず、大きく『MOMO』と書いてみる。サインっぽくてなかなか良い感じ。

「モンスターに効果があるかは知らん。自分で試してみろ。けど、弱いモンスターに効果があったとしても、迷彩小竜カモフラミニドラゴンみたいな強いモンスターにまで効果が出るかは定かじゃないな」
「そういうものかぁ……」

 必ずしも上手くいくとは限らない感じだ。別のアイテムも用意しておくべきかな。

 迷彩小竜カモフラミニドラゴン攻略に必要なのは、ステルス対策と見えない攻撃(地面から突如生える木)への対応だ。即死攻撃には青乳牛サファカウのお守りを使えばいい。

「――そもそも動きを止めておくのはどうかな。麻痺とか、時間停止とか」

 タイムストップ効果のあるアイテムは、使う素材がレアで数を揃えるのが大変だけど、作れないわけじゃない。……もれなくルトに「素材費、割り勘な」と言われちゃいそうだけど。

「強いモンスターには行動阻害効果がそもそも効かないか、効果継続時間が短くなるっていうのが一般常識だ」
「え、そうなの?」

 ルトが掲示板で迷彩小竜カモフラミニドラゴンへの麻痺薬の効果を調べておくって言ってたけど、まだ結果を聞いてなかったんだ。でも、思わぬところで知っちゃった。結果は期待外れだったけど。

 エリアボスの迷彩小竜カモフラミニドラゴンには、麻痺薬とかがあんまり効かないって考えてた方がいいかぁ。

「ああ。それにそういうデバフ系のアイテムは、何度も使う内に効果がなくなっていく。長時間バトルするなら、あまり当てにしない方がいいぞ」
「ざんねーん……」

 追加説明を受けて、がっくりと項垂れちゃった。
 同じモンスターに何度も麻痺薬を投げて、完封するのは無理ってことだね。覚えておかなくちゃ。

「強いモンスターは精神力が高いのが多いし、何度もデバフを受けると、耐性を獲得するらしいからな。それはお前だってそうだろ?」
「言われてみたらその通りだね……」

 僕だって、一回モンスターから麻痺攻撃を食らっただけで、麻痺耐性を獲得したし。敵のモンスターだって、同じようなことになるってだけだ。

 そうなると、どんなアイテムを作ったらいいかな。
 念の為、一回分のタイムストップボムは用意しておくけど、もっと効果的なアイテムを作りたい。

「木に攻撃されるっていうのは、木魔術の一種だろうから、それへの耐性を高めるアイテムは有用なんじゃないか?」
「あ、そっか! そういうのでもいいんだね」

 レナードさんに指摘されて、パチリと目を瞬く。装備の補強という考えがこれまでなかったんだ。

 僕が持ってるアクセサリーは、火・土・風属性への耐性を上げてるけど、木属性に対応したのはまだ持ってないな。
 リリとルトはどうだろう? 聞いてみないと。

 とりあえず二人に連絡して尋ねておいてから、自分用のアクセサリーを考える。木魔術への耐性を高めるアイテムって、どんなのがあるかなぁ。

「琥珀を使ったアイテムは、ほとんどが木属性への耐性効果があるぞ」
「へぇ。でも、琥珀は持ってないよ……」

 良い情報をもらったけど、どこで手に入れられるかもわからない素材が必要らしい。
 しょんぼりしてたら、レナードさんが「しかたないな」と呟きながら、紙に地図を書いてくれた。

「俺が琥珀の納品を冒険者に頼んでる時は、サウス街道の外れか、サクの川の上流付近を探してもらってる。そこにいるモンスターを倒すとドロップするんだ。モモも探しに行ってみたらいいんじゃないか」
「サウス街道の外れと、サクの川……うん? サクの川?」

 なんとなく知ってる気がした。レナードさんがくれた地図を見て確信する。
 サクの川って、西の海岸近くにある川エリアだ。前に迷い込んだことがあったんだよね。一度探索してみたいって思ってたし、ちょうどいい機会かも。

「――琥珀探しに行ってみる!」
「ああ。琥珀でどのアイテムを作るか迷ったら、また聞きに来い」
「うん。頼りにしてまーす」

 面倒見のいいレナードさんにニコニコと微笑みかけてから手を振る。早速サクの川に出発だ。

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