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ゆるり

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モモの年末年始

一年の始まりです②

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 夜が明ける。ゆっくりと昇っていく朝日は、どうしてこんなに美しくて感動するんだろう。

「一年が始まったって感じがするね」
「初日の出見るの久しぶりです。綺麗ですねぇ」
「作り物だけどにゃ」
「ムギさん……」

 感動を薄れさせるようなことを言うムギを、ソウタが軽く睨んだ。ムギは尻尾を揺らして、悪びれない顔をしてる。でも、その目は朝日をじっと見つめてるから、ムギなりに感動してるんだと思う。

「ツッキーは?」
「寝てます」
「これ、完全にログアウトしちゃってるにゃ」
「ここでログアウトできる仕様にしてて良かったね」

 大量のお酒を飲んで酔っ払った挙げ句、寝落ちしたツッキーに呆れを含んだ視線が突き刺さる。本人はピクリとも動かない。

「ダメな大人だなぁ」
「でも、ちょっと羨ましいです」
「僕らはお酒飲めないもんね。飲めるようになったら、一緒に乾杯しよう」
「はい!」

 ソウタとささやかな約束を交わして、残っていた料理を頬に詰め込む。空腹度は満タンだけど、いくらでも美味しく感じられるの最高です。

「もち米準備オッケーです!」
「杵と臼も設置したよー」

 新年早々ほのぼのとだらけている僕たちをよそに、タマモたちは忙しなく動き回っていた。これから餅つき大会なんだ。……酔っ払ってる人が結構いる気がするけど大丈夫かな?

「お餅はお雑煮で食べるってことでいいんだよね?」
「うん。おしょうゆとか海苔とかも用意してるけど」

 準備中のみんなも楽しそうだ。シンプルなおしょうゆ味は定番だよね。

「きな粉は?」
「あるある。あんこもあるよ」
「納豆は?」
「……納豆? え、餅と一緒に納豆食べるの?」
「え、食べないの!?」

 納豆が大混乱を巻き起こしてた。
 僕もお餅と一緒に納豆を食べたことはないけど、お米と似てるんだし、合うんじゃないかな。でも、すっごく食べにくそう。

 それより、僕気になってることがあるんだけど、あんこの隣に桃があるのはなんで?

 いろんなところに桃が神物しんもつのように積まれてるのは知ってたけど、これは違うよね? お餅と一緒に食べる雰囲気じゃん。さすがに僕でも、そんな食べ方はしないよ。

「——でも、食べてみたら意外と美味しいかも?」
「何がにゃ」
「お餅と桃」
「……本気にゃ?」

 ムギに正気を疑う顔をされたので、試すのはやめようと思います。フルーツ大福みたいなものと考えたら問題ない気がするんだけどなー。

 目を逸らしながら、準備中の人たちの話に耳を傾ける。

「お雑煮、何味?」
「私しょうゆ」
「白味噌」
「私の地元はすまし汁系だけど、お砂糖足したい」
「砂糖!?」

 お雑煮もいろんな味あるよねぇ。甘いお雑煮、美味しいよ。

「私の地元はしょうゆが甘いんだよー。この世界のしょうゆは甘みが足りない!」
「そうなんだー?」
「甘みの強いしょうゆもあるよ。これ使う?」
「マジか! 使う! どこで買ったか教えて」
「これはねぇ――」

 みんなワイワイ楽しそう。
 まだ餅つき大会始まってないのに。でも、僕もワクワクしてきた。

「僕、焼いたお餅をしょうゆ味で食べたい」
「シンプルでいいにゃ」
「つきたてのお餅は、それだけで美味しいっていいますしね」

 立ち上がってにぎわってるところへ向かう僕に、ムギとソウタもついてきた。もふもふ集団は準備中のみんなに大歓迎される。

「そろそろ最初のお餅つきます?」
「いきましょう! 最終的に何回しますかね?」
「一応、十回つけるだけのもち米は用意してますよ」
「足りなそうだったら私の分も提供しまーす」

 タマモが臼の中のもち米を杵でぐいぐいと潰す。最初からつくんじゃないんだ?
 時々もち米を内側へ折り込みながら潰すと、まとまりが出てきた。

「そろそろつけますよ。モモさん、最初にします?」
「いいの? するー」

 お餅つくの初めてかも。
 飛翔フライで飛びながら杵を持つと、後ろからタマモが抱えるようにして支えてくれた。「もふもふ~」と幸せそうな声をこぼして、みんなに「ずるーい!」と文句を言われてる。

「早い者勝ちですー。それじゃあ、モモさん、いきますよ」
「はーい。よーいしょ!」

 杵を振り下ろすと、ペタンと音がした。なかなか面白い。
 ペッタンペッタンと繰り返して、たまに手でお餅を折り込んでもらう。

「楽しい! ムギもする?」
「あたいはできない気がするにゃ」
「私が抱えますよ!」

 もふもふ教の人が熱の籠もった声で言うと、ムギが気圧された様子で「じゃ、じゃあ、よろしくお願いするにゃ……」と答えた。楽しいから経験するといいよ。ソウタも別の臼のところで餅つきを体験中らしい。

「ほかほかお餅、美味しそう」
「もう少しで完成ですよ」

 飛びながら餅の出来上がりを見守る。
 もち米とお出汁や味噌の香りが辺りに満ちていて、それだけでお腹が空いた気がした。

 つき終わったお餅が七輪の上で焼かれる。香ばしさが加わって、お雑煮に入れた時に美味しいんだって。

「モモさんはお雑煮何味ですか?」
「鶏ガラ出汁がいいな」
「了解です!」
「具材は何がいいですかー」
「鶏肉と白菜、ニンジン、もやし、しいたけ……かなぁ」
「具だくさんですね!」

 お椀に焼いたお餅とつゆが入れられて、具だくさんのお雑煮が完成。
 みんなのお雑煮もできたみたいだから、一緒に食べよう。

「それではみなさん、いただきます!」
「「「いただきます!」」」

 まずはつゆを一口。鶏ガラのお出汁の風味が最高。ホッと落ち着く感じがする。薄口のおしょうゆもいい塩梅です。
 そして、メインのお餅をハムッと食べる。焼いた香ばしさともち米の甘みが美味しい。もっちもちで食感も楽しい。

「うまうま~」
「一年が始まったっていう気がしますね」

 ほわぁ、と息をこぼすタマモに、僕も「そうだね~」と同意する。これぞ日本のお正月って感じ。

「次食べる人ー」
「しょうゆもきな粉もあんこもあるよー」
「お餅焼いてもいい?」
「私つきたてのそのままを食べたい!」

 お雑煮を食べ終えた人から、次々に新たなお餅に手が伸びる。
 これ、餅つき大会というより、お餅食べ放題じゃない? それも楽しいからいいけど。

 食べ終えたお椀を片付け、僕は臼の方へ向かう。

「僕、またお餅つきたい!」
「どうぞ! 今度は私がお手伝いします!」
「モモさんがついたお餅を食べたい!」
「見て見て~。お餅でうさぎ作ったよ。モモさん餅!」
「……あなた、絵心ないでしょ」

 みんな楽しそうでいいね。
 たくさん食べてもらうために、まだまだお餅をつくぞー。

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