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モモの年末年始
一年の始まりです①
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夜になっても街にはにぎわいが満ちていた。あと少しで新たな年が始まるのだ。
街中にはいつも以上にたくさんの屋台が並び、お祭りのようなワクワク感が漂っている。その中で一番繁盛してる店は蕎麦屋さんだ。年越しといえば、これだよね。
その隣にあるおでん屋さんも気になったから、蕎麦を食べた後に立ち寄った。
おでんといえば、大根! 出汁が染みたほかほか大根は、口も心も幸せにしてくれる。
「きゅぃ(卵おいしい)」
「ここの卵は黄身がしっとりしてていいね」
黄身がぱさついた卵って、魅力半減だと思う。今回食べた卵はしっとり濃厚で当たり!
「キュオ(牛すじもいいわよ)」
「おでんに入ってるのは初めて食べたけど、トロトロで美味しいねぇ」
住んでるとこではあまり味わえないものを食べられるっていうのも、ゲームの良いところだ。
昼間に食べたお好み焼きも、本場の味で旅行気分を味わえたし。
「モモ、そろそろカウントダウンだって」
「あ、そうなんだ?」
「一年の最後まで食い気がすげぇな」
リリに声を掛けられて空を見上げる。ルトがちょっと呆れた顔をしてるけど、その手に肉まんの包みを持ってるの、僕は見逃さないぞ。ルトだって食欲旺盛じゃん。
「食べ物はこのゲームの魅力の一つだもん。楽しまなきゃ損だよ。年末年始限定の屋台も多いんだし」
「そうだねぇ。さっき食べたお蕎麦も、すっごく美味しかった。あの海老天、リアルで食べたら結構お金かかるだろうなぁ」
「ゲーム内なら大して値段を気にせず食べられるよね」
リリと頷き合う。リアルでわざわざ外食しなくていいかなって思うくらい、ゲーム内で満足しちゃうんだよね。……日本経済的にはよろしくないのでは?
「リリ、半分いるか?」
「いる! モモ、半分いる?」
「わーい! ほしい!」
ルトから半分の肉まんを渡されたリリが、さらに割って僕にくれた。
ほかほか柔らかな生地の中に、しっとりジューシーなお肉が包まれてて、ちょっと食べるだけでも幸せな気分。
「おいしー」
「うまうま。この時期はやっぱり温かいものがいいよね~」
にこにことおしゃべりしてたら、「年明けまで――十、九」とカウントダウンが始まった。
たくさんの人が声を合わせて新しい年を待ち望む。もちろん僕たちも。
「――五、四、三、二、一」
「「「ハッピーニューイヤー!」」」
明るい歓声が上がった途端、暗い夜空に光の花が咲いた。ドン、ドンと大きな音と共に、色とりどりの光が新年を祝福する。
「わあ、派手なお祝い!」
「年越しでこんなに盛大な花火を見たの初めてかも」
「近所じゃしねぇしな」
空一面を埋め尽くすような花火に、時々ウサギのシルエットらしき花火が交じってるのは気のせいかな?
どこかから「モモさんがいるー」という声が聞こえてくる。
「あれって、モモへのプレゼント?」
「というより、もふもふ教に向けてじゃね?」
リリとルトが目を合わせて頷いた。みんなが喜んでるなら、ウサギの花火もいいと思う。可愛いし。
「リリ、ルト、ハッピーニューイヤー!」
「ハッピーニューイヤー。今年もよろしくね」
「あけおめ。今年もよろしく?」
「なんで首を傾げてるの」
「モモによろしくされたら、面倒事に巻き込まれる予感がした」
「楽しいからいいじゃん!」
飛翔を使ってルトの頭に乗る。すぐに「重ぇ」と文句を言われたけど、振り落とされはしなかった。
さっきまで人混みで空が見にくかったけど、ルトのおかげで綺麗に花火を見れるようになった。
「――この花火、いつまで続くのかな?」
「長いよな」
「現実でこれすると、大量の札束が飛んでいくよね」
「世知辛い……」
リリの冷静な言葉に、なんとなくしょっぱい気分になった。もうちょっとロマンチックな雰囲気を楽しもうよ。
「あ、モモさーん! あけましておめでとうございます~」
「タマモ! あけおめ、ことよろ」
「こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
人混みをかき分けて近づいてきたタマモが、丁寧に頭を下げる。
タマモが着てるのは振り袖に似てて、白地に赤い牡丹の柄が映えてて綺麗だ。すごくお正月って感じ。
時々とんでもないことをするけど、根は真面目できちんとしてるタマモらしい装いだね。
タマモはリリとルトにも丁寧に挨拶をすると、ふわっふわな尻尾をブンブンと振りながら僕を見つめた。
「これから教会でみなさんとお食事会をするんです。モモさんたちもいらっしゃいませんか?」
「お食事会?」
僕がタマモと計画してる新年のイベントは、お餅つき大会だ。明るくなってからする予定。
お食事会をするとは聞いてなかったなぁ。
「みなさんが、お酒を飲みながら楽しみたいとおっしゃっていて。今日は現実の初日の出の時間まで暗いでしょう? この夜を宴会で過ごすんですよ」
「僕、お酒飲めないよ?」
「ジュースも用意してあります」
にこにこ笑顔で勧められて、断る理由はない。リリとルトも行くと言うので、みんなで教会に向かうことにした。
転移スキルを使って向かった教会の庭には、すでにたくさんの人の姿がある。
持ち寄った飲み物や食べ物を口に運びながら、みんな楽しそうに語り合っていた。
「みなさん、あけましておめでとうございます! 我らが神もいらっしゃいましたよ~」
タマモが声を掛けると、勢いよく視線が集まる。そして、大きな歓声が上がった。喜んでもらえて僕も嬉しい。
次々に飛んでくる新年の挨拶に、僕も挨拶を返しながら、タマモに導かれるままに宴会の中心に足を運んだ。
そこにはすっかり飲み物や食べ物がセッティングされていて、僕が普段から親しくしているメンバーが揃ってた。……ツッキーはもう酔って、上機嫌に笑ってる。
「あけおめー」
「ことよろー」
ジュースが入ったグラスを渡され、掲げる。
「みんな、あけましておめでとう! 今年もよろしくね!」
たくさんのグラスが掲げられ、新年を祝う声が重なり合う。
こんなにぎやかな年越しは初めてだ。楽しいなぁ。なんだか、今年もワクワクすることがいっぱいな予感がするね!
街中にはいつも以上にたくさんの屋台が並び、お祭りのようなワクワク感が漂っている。その中で一番繁盛してる店は蕎麦屋さんだ。年越しといえば、これだよね。
その隣にあるおでん屋さんも気になったから、蕎麦を食べた後に立ち寄った。
おでんといえば、大根! 出汁が染みたほかほか大根は、口も心も幸せにしてくれる。
「きゅぃ(卵おいしい)」
「ここの卵は黄身がしっとりしてていいね」
黄身がぱさついた卵って、魅力半減だと思う。今回食べた卵はしっとり濃厚で当たり!
「キュオ(牛すじもいいわよ)」
「おでんに入ってるのは初めて食べたけど、トロトロで美味しいねぇ」
住んでるとこではあまり味わえないものを食べられるっていうのも、ゲームの良いところだ。
昼間に食べたお好み焼きも、本場の味で旅行気分を味わえたし。
「モモ、そろそろカウントダウンだって」
「あ、そうなんだ?」
「一年の最後まで食い気がすげぇな」
リリに声を掛けられて空を見上げる。ルトがちょっと呆れた顔をしてるけど、その手に肉まんの包みを持ってるの、僕は見逃さないぞ。ルトだって食欲旺盛じゃん。
「食べ物はこのゲームの魅力の一つだもん。楽しまなきゃ損だよ。年末年始限定の屋台も多いんだし」
「そうだねぇ。さっき食べたお蕎麦も、すっごく美味しかった。あの海老天、リアルで食べたら結構お金かかるだろうなぁ」
「ゲーム内なら大して値段を気にせず食べられるよね」
リリと頷き合う。リアルでわざわざ外食しなくていいかなって思うくらい、ゲーム内で満足しちゃうんだよね。……日本経済的にはよろしくないのでは?
「リリ、半分いるか?」
「いる! モモ、半分いる?」
「わーい! ほしい!」
ルトから半分の肉まんを渡されたリリが、さらに割って僕にくれた。
ほかほか柔らかな生地の中に、しっとりジューシーなお肉が包まれてて、ちょっと食べるだけでも幸せな気分。
「おいしー」
「うまうま。この時期はやっぱり温かいものがいいよね~」
にこにことおしゃべりしてたら、「年明けまで――十、九」とカウントダウンが始まった。
たくさんの人が声を合わせて新しい年を待ち望む。もちろん僕たちも。
「――五、四、三、二、一」
「「「ハッピーニューイヤー!」」」
明るい歓声が上がった途端、暗い夜空に光の花が咲いた。ドン、ドンと大きな音と共に、色とりどりの光が新年を祝福する。
「わあ、派手なお祝い!」
「年越しでこんなに盛大な花火を見たの初めてかも」
「近所じゃしねぇしな」
空一面を埋め尽くすような花火に、時々ウサギのシルエットらしき花火が交じってるのは気のせいかな?
どこかから「モモさんがいるー」という声が聞こえてくる。
「あれって、モモへのプレゼント?」
「というより、もふもふ教に向けてじゃね?」
リリとルトが目を合わせて頷いた。みんなが喜んでるなら、ウサギの花火もいいと思う。可愛いし。
「リリ、ルト、ハッピーニューイヤー!」
「ハッピーニューイヤー。今年もよろしくね」
「あけおめ。今年もよろしく?」
「なんで首を傾げてるの」
「モモによろしくされたら、面倒事に巻き込まれる予感がした」
「楽しいからいいじゃん!」
飛翔を使ってルトの頭に乗る。すぐに「重ぇ」と文句を言われたけど、振り落とされはしなかった。
さっきまで人混みで空が見にくかったけど、ルトのおかげで綺麗に花火を見れるようになった。
「――この花火、いつまで続くのかな?」
「長いよな」
「現実でこれすると、大量の札束が飛んでいくよね」
「世知辛い……」
リリの冷静な言葉に、なんとなくしょっぱい気分になった。もうちょっとロマンチックな雰囲気を楽しもうよ。
「あ、モモさーん! あけましておめでとうございます~」
「タマモ! あけおめ、ことよろ」
「こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
人混みをかき分けて近づいてきたタマモが、丁寧に頭を下げる。
タマモが着てるのは振り袖に似てて、白地に赤い牡丹の柄が映えてて綺麗だ。すごくお正月って感じ。
時々とんでもないことをするけど、根は真面目できちんとしてるタマモらしい装いだね。
タマモはリリとルトにも丁寧に挨拶をすると、ふわっふわな尻尾をブンブンと振りながら僕を見つめた。
「これから教会でみなさんとお食事会をするんです。モモさんたちもいらっしゃいませんか?」
「お食事会?」
僕がタマモと計画してる新年のイベントは、お餅つき大会だ。明るくなってからする予定。
お食事会をするとは聞いてなかったなぁ。
「みなさんが、お酒を飲みながら楽しみたいとおっしゃっていて。今日は現実の初日の出の時間まで暗いでしょう? この夜を宴会で過ごすんですよ」
「僕、お酒飲めないよ?」
「ジュースも用意してあります」
にこにこ笑顔で勧められて、断る理由はない。リリとルトも行くと言うので、みんなで教会に向かうことにした。
転移スキルを使って向かった教会の庭には、すでにたくさんの人の姿がある。
持ち寄った飲み物や食べ物を口に運びながら、みんな楽しそうに語り合っていた。
「みなさん、あけましておめでとうございます! 我らが神もいらっしゃいましたよ~」
タマモが声を掛けると、勢いよく視線が集まる。そして、大きな歓声が上がった。喜んでもらえて僕も嬉しい。
次々に飛んでくる新年の挨拶に、僕も挨拶を返しながら、タマモに導かれるままに宴会の中心に足を運んだ。
そこにはすっかり飲み物や食べ物がセッティングされていて、僕が普段から親しくしているメンバーが揃ってた。……ツッキーはもう酔って、上機嫌に笑ってる。
「あけおめー」
「ことよろー」
ジュースが入ったグラスを渡され、掲げる。
「みんな、あけましておめでとう! 今年もよろしくね!」
たくさんのグラスが掲げられ、新年を祝う声が重なり合う。
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