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1-3.もふもふダンジョンの作り方〈公開前3日目〉
25.穏やかな始まり
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昔ながらの農村のような空間で古竜が空を飛ぶ。
「——うん、ファンタジー」
ダンジョン能力を使いあっという間に農作物が実った七階層で、収穫作業を中断し、空を仰ぎ見て呟いた。
青空に金色の竜が良く映える。
『マスター、外はもう夜中だよー』
楽しそうに畑の土を掘り返していたリルが、ふと思い出したように言う。
ダンジョン内にいて、どうして外の時間がわかるのか不思議だ。俺はわからないし、ダンジョン内も外の時間に合わせて空が変わる設定にした方が良いかもしれない。
「ダンジョン公開まであと一日もないのかぁ」
収穫したトマトを齧る。このトマトうまい。フルーツって感じ。日本の農家が努力して成したことが、ダンジョン能力であっさりと叶うのは、特定の人にとっては微妙な気持ちになるかもしれない。俺はありがたいと思うけど。
『マスターは寝なくていいの?』
「ん? 食は必須だけど、睡眠は最低限でいいらしいよ、この体」
ポンポンと自分の肩を叩く。
人間ではなく、ダンジョンマスターという種族に変わった影響で、いろいろと昔とは違っている。睡眠は一週間に一時間程度で問題ないというのが、一番大きな違いかも。
おそらくそれは、いつ何時ダンジョンに侵入者があろうと対応できるようにするためなのだろう。
二十四時間働けます、ってか。体質が変わってなかったら、かなりブラックな職場だ。
実際は、今のところ可愛いもふもふに囲まれ、日本にいた頃はほとんど気にしてこなかった自然をたっぷりと感じて、リフレッシュした気分だけど。超ホワイト。
『そうなんだー。僕はたまにお昼寝したくなるよ。マスターも一緒にしようね』
「そうだな。リルと一緒なら気持ちよさそうだ」
すり寄ってきたリルの体から土を払い除け、ワシャワシャと撫でる。この体を洗うのは大変そうだから、あまり泥遊びはしないでほしい。
リルとほのぼのと和む。
俺の護衛として傍にいるミーシャは、リルとの特訓の疲れを癒やすためか、日向でごろごろと寝転んでいた。怠惰な猫は見てるだけで癒やされるから、そっと見守る。
穏やかな陽気を感じて、眠いわけでもないのにふわぁと漏れたあくびの後、バサバサと羽ばたく音が聞こえた。
『マスター、ボクは魔物と戦いたいなぁ』
エンドが高い壁の上に立ち、俺たちを見下ろす。
「魔物と? そうだなぁ……」
答えながら考える。
エンドは元々強いけど、レベルを上げて損はない。どんだけ強くなるのかと考えると、ちょっと戦々恐々とするけど。
ただ、何と戦わせるかは悩みどころだ。ダンジョン内の魔物と戦わせてもいいけど、エンドの相手を務められる魔物なんてあまりいない。仲間同士で戦って怪我を負うなんてことは極力避けたいし。
『僕と戦う?』
『リルと……いいの?』
「なんかヤバいことになりそうだから、なしで」
『『えー』』
リルとエンドがつまらなそうに呟いた。
でも、古竜と神狼が戦ったら、どう考えても周囲が大変なことになるだろ。荒野の中でピンピンとしてる二体の姿が容易に想像できる。
ダンジョン内は一定以下の環境損傷なら自動的に修復されるけど、ひどい破壊状況はDPを使って直さなきゃいけなくなるからやめてほしい。
『じゃあ、外行く! リルは外で魔物とってきたんでしょ?』
『そうだよ。エンドも一緒に行く?』
「あー……そりゃ、DPはあればあるだけありがたいけど、エンドが出るのは大丈夫かね……?」
どう考えてもなんらかの騒ぎが起きる気がする。リルだけでも、なかなか危ういラインだと思うんだ。
『じゃあ、リルがとってきたのをここで倒すよ』
「確かにそれをお願いしてはいるけど……」
エンドは俺が任せたことを言っているに過ぎない。それなのに嫌な予感がする。でも、根拠のない曖昧な感覚だから、エンドを止めるための説得材料にはならなそう。
なんでこんなに嫌な予感がするんだろうなぁ。
んー、と頭を傾け考え込んだところで、アリーが飛んできた。
『マスター。古竜の卵がなくなった影響がないか、外を見てきてもいいかしら』
「え? あー、確かに、その確認は必要か」
うんうん、と頷く。
卵状態でも、古竜の卵が周囲に与える影響は大きかったはずだ。外では魔物が騒いでいるかも。ただでさえ、突然現れた神狼によって、生態系が狂っている可能性があるんだし。
『人間が卵のことを察知している可能性もあるもの』
「あ、忘れてた」
ぽん、と手を打つ。
古竜の卵って、監視されてたんだよな。ほぼ放置だったから、早々状況を悟られてるとは思えないけど。
「——うん、アリーなら偵察向きだし、大丈夫そう。なんかあったらすぐに帰ってこいよ。視界共有で見とくから」
『ふふ、わかったわ』
過保護ね、と言いたげな笑みを向けられたけど、俺にとってはアリーも守るべき大切な仲間なので、当然のことなのだ。
気をつけて、とアリーを見送ったところで、リルがパタパタと尻尾を振りながら俺を見つめていることに気づいた。エンドからも視線を感じる。
『僕も見たいな!』
『外に行けないなら、ボクも見るくらいしたいよ』
キラキラと期待に満ちた眼差しを感じる。こんな目を向けられて断れる者がいるだろうか。俺は無理。
リルやエンドが今外に出るよりは良いだろうし——
「わかった。見ようか」
潔く、共有した視界を映し出すためのモニターを出した。アリーに渡してるコネクタを利用して音声まで流せる高機能付きだ。
結構DP消費したけど、必要経費と思おう。
「——うん、ファンタジー」
ダンジョン能力を使いあっという間に農作物が実った七階層で、収穫作業を中断し、空を仰ぎ見て呟いた。
青空に金色の竜が良く映える。
『マスター、外はもう夜中だよー』
楽しそうに畑の土を掘り返していたリルが、ふと思い出したように言う。
ダンジョン内にいて、どうして外の時間がわかるのか不思議だ。俺はわからないし、ダンジョン内も外の時間に合わせて空が変わる設定にした方が良いかもしれない。
「ダンジョン公開まであと一日もないのかぁ」
収穫したトマトを齧る。このトマトうまい。フルーツって感じ。日本の農家が努力して成したことが、ダンジョン能力であっさりと叶うのは、特定の人にとっては微妙な気持ちになるかもしれない。俺はありがたいと思うけど。
『マスターは寝なくていいの?』
「ん? 食は必須だけど、睡眠は最低限でいいらしいよ、この体」
ポンポンと自分の肩を叩く。
人間ではなく、ダンジョンマスターという種族に変わった影響で、いろいろと昔とは違っている。睡眠は一週間に一時間程度で問題ないというのが、一番大きな違いかも。
おそらくそれは、いつ何時ダンジョンに侵入者があろうと対応できるようにするためなのだろう。
二十四時間働けます、ってか。体質が変わってなかったら、かなりブラックな職場だ。
実際は、今のところ可愛いもふもふに囲まれ、日本にいた頃はほとんど気にしてこなかった自然をたっぷりと感じて、リフレッシュした気分だけど。超ホワイト。
『そうなんだー。僕はたまにお昼寝したくなるよ。マスターも一緒にしようね』
「そうだな。リルと一緒なら気持ちよさそうだ」
すり寄ってきたリルの体から土を払い除け、ワシャワシャと撫でる。この体を洗うのは大変そうだから、あまり泥遊びはしないでほしい。
リルとほのぼのと和む。
俺の護衛として傍にいるミーシャは、リルとの特訓の疲れを癒やすためか、日向でごろごろと寝転んでいた。怠惰な猫は見てるだけで癒やされるから、そっと見守る。
穏やかな陽気を感じて、眠いわけでもないのにふわぁと漏れたあくびの後、バサバサと羽ばたく音が聞こえた。
『マスター、ボクは魔物と戦いたいなぁ』
エンドが高い壁の上に立ち、俺たちを見下ろす。
「魔物と? そうだなぁ……」
答えながら考える。
エンドは元々強いけど、レベルを上げて損はない。どんだけ強くなるのかと考えると、ちょっと戦々恐々とするけど。
ただ、何と戦わせるかは悩みどころだ。ダンジョン内の魔物と戦わせてもいいけど、エンドの相手を務められる魔物なんてあまりいない。仲間同士で戦って怪我を負うなんてことは極力避けたいし。
『僕と戦う?』
『リルと……いいの?』
「なんかヤバいことになりそうだから、なしで」
『『えー』』
リルとエンドがつまらなそうに呟いた。
でも、古竜と神狼が戦ったら、どう考えても周囲が大変なことになるだろ。荒野の中でピンピンとしてる二体の姿が容易に想像できる。
ダンジョン内は一定以下の環境損傷なら自動的に修復されるけど、ひどい破壊状況はDPを使って直さなきゃいけなくなるからやめてほしい。
『じゃあ、外行く! リルは外で魔物とってきたんでしょ?』
『そうだよ。エンドも一緒に行く?』
「あー……そりゃ、DPはあればあるだけありがたいけど、エンドが出るのは大丈夫かね……?」
どう考えてもなんらかの騒ぎが起きる気がする。リルだけでも、なかなか危ういラインだと思うんだ。
『じゃあ、リルがとってきたのをここで倒すよ』
「確かにそれをお願いしてはいるけど……」
エンドは俺が任せたことを言っているに過ぎない。それなのに嫌な予感がする。でも、根拠のない曖昧な感覚だから、エンドを止めるための説得材料にはならなそう。
なんでこんなに嫌な予感がするんだろうなぁ。
んー、と頭を傾け考え込んだところで、アリーが飛んできた。
『マスター。古竜の卵がなくなった影響がないか、外を見てきてもいいかしら』
「え? あー、確かに、その確認は必要か」
うんうん、と頷く。
卵状態でも、古竜の卵が周囲に与える影響は大きかったはずだ。外では魔物が騒いでいるかも。ただでさえ、突然現れた神狼によって、生態系が狂っている可能性があるんだし。
『人間が卵のことを察知している可能性もあるもの』
「あ、忘れてた」
ぽん、と手を打つ。
古竜の卵って、監視されてたんだよな。ほぼ放置だったから、早々状況を悟られてるとは思えないけど。
「——うん、アリーなら偵察向きだし、大丈夫そう。なんかあったらすぐに帰ってこいよ。視界共有で見とくから」
『ふふ、わかったわ』
過保護ね、と言いたげな笑みを向けられたけど、俺にとってはアリーも守るべき大切な仲間なので、当然のことなのだ。
気をつけて、とアリーを見送ったところで、リルがパタパタと尻尾を振りながら俺を見つめていることに気づいた。エンドからも視線を感じる。
『僕も見たいな!』
『外に行けないなら、ボクも見るくらいしたいよ』
キラキラと期待に満ちた眼差しを感じる。こんな目を向けられて断れる者がいるだろうか。俺は無理。
リルやエンドが今外に出るよりは良いだろうし——
「わかった。見ようか」
潔く、共有した視界を映し出すためのモニターを出した。アリーに渡してるコネクタを利用して音声まで流せる高機能付きだ。
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