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2-4.ダンジョンの発展
79.思いがけない相談
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勇者(未満)の脅威を退け、ダンジョンに平穏が戻ってきた。イサムが来ている時も、あまり危機感はなかったけど。
「伝説の剣の副次効果が想像以上だなぁ……」
のんびりとしながらダンジョン内の監視をしていたら、冒険者の数が以前より増えているのがはっきりとわかる。
入り口近くに展示した伝説の剣を求める者は、イサムだけではなかったということだ。女夢魔たちの魅了もかけているから、惹かれる者が多くても不思議じゃない。
多くの冒険者に求められることに、伝説の剣自身は満足げだ。[我輩は素晴らしき剣であるからな]と封印された格好で威張っている。
この声は俺たちにしか聞こえない。厨二病な剣だと知られたら、冒険者たちをおびき寄せる効果が薄れそうだから、今後も聞かせるつもりはない。
「……大人しく封印されてくれてるんだから、操りやすくて助かった」
伝説の剣を展示するにあたり、サクが言ったのは、『ここに飾られて存在を知らしめれば、素晴らしい剣を手に入れるために、必ずや真の勇者がやって来ますよ。求められる幸せ、味わいたいでしょう?』だった。
見事に伝説の剣の虚栄心をくすぐる言葉に、俺は内心で戦慄したよ。サクはインクと違って智将タイプかな。
実際に勇者がやって来たらマズイのでは、と思ったけど、その懸念は操人形によって払拭された。
『今の勇者は弓使いらしいですよ』
「……剣、使わないじゃん」
『そうですね。伝説の弓矢なら、興味を持たれたかもしれません』
伝説の剣を求める勇者が現れる日は遠い。ありがたい話だ。
ちなみに、イサムの地元で冒険者の依頼をこなしながら操人形が聞き込みをしてくれたけど、大した情報はなかった。わりと、インクの闇魔法をかけられたイサム自身が教えてくれてたし。
ただ、イサムが伝説の剣を手にしたのは、村の人たちの思惑も絡んでいたということがわかった。
伝説の剣は、おかしな精神攻撃をしてくるということで、村人から忌避されていたらしい。
どうにか剣を他所に遠ざけたかった村人たちは、村を出ると早い内から宣言していたイサムに持ち出してもらおうと、伝説の剣の逸話を盛って語り、封印されている場所を教えたそうだ。
イサムが伝説の剣と親和性があることは、村人はなんとなく察していたようだ。なんせ、伝説の剣が周囲にもたらしていた精神攻撃とは、厨二病にさせることだったから。元々厨二病なイサムとは相性がいいだろうと判断されたわけだ。
「なんか俺のダンジョンが貧乏くじを引かされた気分だ……」
厄介払いされた剣をイサムごと引き受けたのだから、報酬をもらいたいくらいである。そんなことできないけど。
そんなことを考えながら、ダンジョンの二階層でイサムが死に戻りしているのを眺める。
伝説の剣がないと、こんなに弱いんだな。それなのに、もらえるDPは普通の冒険者とは桁違いである。どういう原理なんだろう?
『マスター、ロアンナが来てるよー』
リルが尻尾をブンブンと振りながら駆け寄ってきた。
少し顔を上げたミーシャが、リルの背後を走って近づいてくるロアンナをジッと見据える。まだ警戒心は解かれていないらしい。
「お、ロアンナ、どうした?」
「あの、ご相談がありまして……」
チラチラとリルやミーシャを見ながら、ロアンナが口を開く。
「相談? 狼食堂でなんか問題があったか?」
「問題といいますか……二号店の建設と料理レシピの販売の要望がたくさん来ていまして、私としては受けたいと思っているのですが」
思いがけない相談だった。二号店と料理レシピ、ねぇ……。
少し眉を顰めながら、俺はロアンナに詳細の報告を求める。
「二号店っていうのは、どこに?」
「ダンジョン内のセーフティエリアです」
「……ダン街に?」
なぜ? あそこには、料理が出てくる宝箱を置いてるから、わざわざ飯屋がなくても大丈夫だと思ってたんだけど。
「はい。宝箱の料理だけでは足りなくなることもあるので、酒や料理を販売してほしいと要望されているんです」
「……ダンジョンの中なんだから、飯は一食分、酒はほどほどでもよさそうなのに」
「冒険者さんはその日その時の欲求を満たす生き方をしている人が多いですから」
俺が呆れ気味に言うと、ロアンナも苦笑しながら肩をすくめた。
冒険者ってイメージ通り宵越しの金は持たないタイプなのかね? まぁ、このダンジョンには暇つぶし兼美味い飯と酒目当てに来てる冒険者が多いわけだから、欲求に素直なのも当然なのかもしれない。
「ダン街に店を出すのは構わないぞ。飯屋になってるところに店を開くか? それとも、屋台っぽいものにするか?」
「屋台形式にする予定です。料理や酒、調味料の買い取りと販売ができさえすればいいので。屋台自体は私たちで用意します。いずれ、冒険者ギルドも支部を作る予定だそうですけど」
「……マジか」
ダン街に冒険者ギルドの支部ができんの? 別に構わないけど……本格的に街になりそうな気がする。
「――まぁ、二号店については了解。料理レシピの販売ってのは何?」
二つ目の相談について尋ねると、ロアンナが少し困った顔をした。
「マーレの町長様が、私たちが作る料理をとても気に入ってくださったようで。城の料理人にレシピを売ってほしいと、商業ギルドを通して連絡がきたんです。可能ならマーレの名物にしたい、ということで、他の商人にも売ってほしいようですが……」
「おっと、思ってた以上の大物が出てきたな……?」
町長? え、町長もロアンナたちの飯を食ってるの?
ダンジョン休憩所が作られる時にも思ったけど、マーレの町長って、フットワークも決断力もすごいな?
「伝説の剣の副次効果が想像以上だなぁ……」
のんびりとしながらダンジョン内の監視をしていたら、冒険者の数が以前より増えているのがはっきりとわかる。
入り口近くに展示した伝説の剣を求める者は、イサムだけではなかったということだ。女夢魔たちの魅了もかけているから、惹かれる者が多くても不思議じゃない。
多くの冒険者に求められることに、伝説の剣自身は満足げだ。[我輩は素晴らしき剣であるからな]と封印された格好で威張っている。
この声は俺たちにしか聞こえない。厨二病な剣だと知られたら、冒険者たちをおびき寄せる効果が薄れそうだから、今後も聞かせるつもりはない。
「……大人しく封印されてくれてるんだから、操りやすくて助かった」
伝説の剣を展示するにあたり、サクが言ったのは、『ここに飾られて存在を知らしめれば、素晴らしい剣を手に入れるために、必ずや真の勇者がやって来ますよ。求められる幸せ、味わいたいでしょう?』だった。
見事に伝説の剣の虚栄心をくすぐる言葉に、俺は内心で戦慄したよ。サクはインクと違って智将タイプかな。
実際に勇者がやって来たらマズイのでは、と思ったけど、その懸念は操人形によって払拭された。
『今の勇者は弓使いらしいですよ』
「……剣、使わないじゃん」
『そうですね。伝説の弓矢なら、興味を持たれたかもしれません』
伝説の剣を求める勇者が現れる日は遠い。ありがたい話だ。
ちなみに、イサムの地元で冒険者の依頼をこなしながら操人形が聞き込みをしてくれたけど、大した情報はなかった。わりと、インクの闇魔法をかけられたイサム自身が教えてくれてたし。
ただ、イサムが伝説の剣を手にしたのは、村の人たちの思惑も絡んでいたということがわかった。
伝説の剣は、おかしな精神攻撃をしてくるということで、村人から忌避されていたらしい。
どうにか剣を他所に遠ざけたかった村人たちは、村を出ると早い内から宣言していたイサムに持ち出してもらおうと、伝説の剣の逸話を盛って語り、封印されている場所を教えたそうだ。
イサムが伝説の剣と親和性があることは、村人はなんとなく察していたようだ。なんせ、伝説の剣が周囲にもたらしていた精神攻撃とは、厨二病にさせることだったから。元々厨二病なイサムとは相性がいいだろうと判断されたわけだ。
「なんか俺のダンジョンが貧乏くじを引かされた気分だ……」
厄介払いされた剣をイサムごと引き受けたのだから、報酬をもらいたいくらいである。そんなことできないけど。
そんなことを考えながら、ダンジョンの二階層でイサムが死に戻りしているのを眺める。
伝説の剣がないと、こんなに弱いんだな。それなのに、もらえるDPは普通の冒険者とは桁違いである。どういう原理なんだろう?
『マスター、ロアンナが来てるよー』
リルが尻尾をブンブンと振りながら駆け寄ってきた。
少し顔を上げたミーシャが、リルの背後を走って近づいてくるロアンナをジッと見据える。まだ警戒心は解かれていないらしい。
「お、ロアンナ、どうした?」
「あの、ご相談がありまして……」
チラチラとリルやミーシャを見ながら、ロアンナが口を開く。
「相談? 狼食堂でなんか問題があったか?」
「問題といいますか……二号店の建設と料理レシピの販売の要望がたくさん来ていまして、私としては受けたいと思っているのですが」
思いがけない相談だった。二号店と料理レシピ、ねぇ……。
少し眉を顰めながら、俺はロアンナに詳細の報告を求める。
「二号店っていうのは、どこに?」
「ダンジョン内のセーフティエリアです」
「……ダン街に?」
なぜ? あそこには、料理が出てくる宝箱を置いてるから、わざわざ飯屋がなくても大丈夫だと思ってたんだけど。
「はい。宝箱の料理だけでは足りなくなることもあるので、酒や料理を販売してほしいと要望されているんです」
「……ダンジョンの中なんだから、飯は一食分、酒はほどほどでもよさそうなのに」
「冒険者さんはその日その時の欲求を満たす生き方をしている人が多いですから」
俺が呆れ気味に言うと、ロアンナも苦笑しながら肩をすくめた。
冒険者ってイメージ通り宵越しの金は持たないタイプなのかね? まぁ、このダンジョンには暇つぶし兼美味い飯と酒目当てに来てる冒険者が多いわけだから、欲求に素直なのも当然なのかもしれない。
「ダン街に店を出すのは構わないぞ。飯屋になってるところに店を開くか? それとも、屋台っぽいものにするか?」
「屋台形式にする予定です。料理や酒、調味料の買い取りと販売ができさえすればいいので。屋台自体は私たちで用意します。いずれ、冒険者ギルドも支部を作る予定だそうですけど」
「……マジか」
ダン街に冒険者ギルドの支部ができんの? 別に構わないけど……本格的に街になりそうな気がする。
「――まぁ、二号店については了解。料理レシピの販売ってのは何?」
二つ目の相談について尋ねると、ロアンナが少し困った顔をした。
「マーレの町長様が、私たちが作る料理をとても気に入ってくださったようで。城の料理人にレシピを売ってほしいと、商業ギルドを通して連絡がきたんです。可能ならマーレの名物にしたい、ということで、他の商人にも売ってほしいようですが……」
「おっと、思ってた以上の大物が出てきたな……?」
町長? え、町長もロアンナたちの飯を食ってるの?
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